黒沢清、北野武、2人は共に 東京藝術大学 大学院
映像研究科 映画専攻 監督領域 において
それぞれ教授、特別教授という立場でも活躍している。
もちろん国立なので、国が認める最重要監督としての裏づけもある。
だが、そんな肩書きはもはやどうでもいい。
2人の今まで撮った作品群(様々な受賞歴)を見れば問答無用である。
そして今回、早稲田松竹で公開する2本立ては、共に2人の最新作である。
贅沢、贅沢、あ〜贅沢。
まずは黒沢清監督の『トウキョウソナタ』。
家族ものとしては『ニンゲン合格』(1999年)以来の作品となるわけだが、
『ニンゲン合格』に比べて、もっと家族に肉薄した作品となっている。
そもそも、『ニンゲン合格』では擬似家族的描写が主となっていたのに対し、
『トウキョウソナタ』は出来上がった家族の中に起こる家族問題が、
実に根源的な人間性問題を、また社会的問題まで問うている。
閉じられた世界でありつつ、テーマは実に開かれている作品として
仕上がっていると言えよう。
その意味で黒沢は「家族」という名の「国家」=現代「日本」を
見事に「家族」という形の中へ昇華させているのである。
この辺りの手腕がやはり、ただのホラー映画監督に終わらない
黒沢清の名監督にして、巨匠たる所以だろう。
続いては北野武監督の『アキレスと亀』。
非常に個人的な話だが、僕はマスコミ試写でこの作品を観た時、
思わず涙がこぼれた。
特に何かしら表現の仕事をなさってる方、もしくは志していた方には
是非とも今作をオススメしたい。
表現とは何か、表現でしか生きていけない人間とは一体どういうものか、
このテーマに真摯に向き合った監督、北野武の姿勢のみならず、
自ら主演し、体現までしてしまっているのだから本当に凄い。
だからこそ、僕はきっと涙してしまったのだろう。
先程、僕は表現の仕事をなさってる方、もしくは志している方に観て欲しいと言ったが、
生きている事自体が表現なのだから、万人の胸に響く作品に違いない。
1人の絵描きとその妻、家族を含めて貫き通される表現=生の力強さと脆さ、儚さは
きっと貴方の心にそれぞれの絵を浮かばせていくことだろう。
北野映画の集大成ともいえる今作、世界の北野に万歳!!!(アセイ)
アキレスと亀
(2008年 日本 119分 ビスタ・SRD)
2009年4月11日から4月17日まで上映 ■監督・脚本・編集・挿入画 北野武
■出演 ビートたけし/樋口可南子/柳憂怜/麻生久美子/中尾彬/筒井真理子
■オフィシャルサイト http://www.office-kitano.co.jp/akiresu/
裕福な家庭に生まれた少年の真知寿は、“画家になる”夢を持っていた。しかし突然両親が亡くなり、環境が一変してしまう。ひとりぼっちになった真知寿は、画家になることだけを人生の指針として生きるしかなくなってしまう。
そんな愛に見放された真知寿の前に、ひとりの理解者が現れる。絵を描くことしか知らない彼の純朴さに、心惹かれた幸子。やがてふたりは結ばれ、真知寿の夢は夫婦の夢となった。
愛と希望に満たされ、様々なアートに挑戦するふたり。しかし作品は全く評価されない。ふたりの創作活動は、街や警察をも巻き込むほどにエスカレートしていき、家庭崩壊の危機にまで直面してしまう。うまくいかなくても前に進むしかない人生の中で、ふたりが確かに手にしたものは…。
健気に芸術を続ける真知寿の人生を、田舎町で大らかに絵を描いて暮らした少年時代、バイトと芸術に明け暮れ、恋をした青年時代、夫婦でともに創作活動に励み、絆を深めていく中年時代と、三つの世代に渡って静かに綴り上げた。
簡単にはうまく行かない日々の中で、本当にかけがえのないものに気付いていく彼の姿は、私たちに夫婦のあり方や幸福の意味を問いかけ、穏やかな感動を与えてくれる。
トウキョウソナタ
(2008年 日本・オランダ・香港 119分 ビスタ・SR)
2009年4月11日から4月17日まで上映
■監督・脚本 黒沢清
■脚本 Max Maninix/田中幸子
■出演 香川照之/小泉今日子/小柳友/井之脇海/井川遥/津田寛治/役所広司/小嶋一哉
■2008年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞
■オフィシャルサイト http://tokyosonata.com/
舞台はトウキョウ。線路沿いの小さなマイホームで暮らす、4人家族のものがたり。小学6年生のボク、健二(井之脇海)には、誰にも言えない秘密がある。それはピアノを習っていること。
お父さん(香川照之)はボクの話なんかまったく聞いてくれない。お母さん(小泉今日子)は優しくてドーナツをおやつに作ってくれるけど、なんだかつまらなそう。大学生のお兄ちゃん(小柳友)はバイトばかりで、何を考えているのか分からない。
それでも夕食は一緒に食べたりする普通の家族だったのに、秘密があるのはボクだけじゃなかった!お父さんは会社からリストラされ、お兄ちゃんはアメリカ軍に入隊!?ある日家に帰ってみると中はごちゃごちゃで、誰もいなくなっていた。いったい、ボクの家で何が起こっているのだろう?
ごく普通に生活していたはずなのに、いつのまにか、ばらばらの不協和音しか奏でられなくなった家族が、もう一度一緒にひとつの旋律を鳴らせる日は来るのだろうか。
世界が認める巨匠、黒沢清監督が、自分のキャリアで初めて真っ向から挑む親と子のドラマは、現代日本の家族を映し出した意欲作。
「ある種の希望にたどり着きたかった」と黒沢監督が語るエンディングでは、家族にささやかな幸せが訪れ、一筋の光が注ぎ込む。それは、このニッポンで生きる私たちもきっと共有できる希望。ハッピーエンドの物語は多いけれど、ほとんどが映画の中だけのファンタジー。だが、『トウキョウソナタ』が放つ光は、映画館から出た後も消えることなく、あなたの上にやさしく降り注ぐことだろう。