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目を逸らさないで、受け止めて欲しい 人々に起こった全てのホロコーストを そして、きっと誰もが抱えていた 汚れなき愛と友情を

縞模様のパジャマ、その実物を初めて目にしたのは11歳の時だった。
アメリカはワシントンDCにあるホロコースト博物館。
収容時に脱がされた靴の山、剃り落とされた髪の毛、名前の代わりに刺青された番号、
収容者を各レベルに選別するために使用された目の色の振り分け表、
復元されたガス室など…展示されていたおびただしい量の資料は生々しく、
今もホロコーストに関わった人々の記憶や感情がうずめいているような陰鬱さを放っていた。
それらが物語る歴史上の事実には子供ながらに戦慄を覚え、絶句した。

ARBEIT MACHT FREI(働けば自由になる)
負の世界遺産、アウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所の門に施されたこの言葉に、
希望を見出した人が果たしているのかどうか。連行され、粗末な寝床と食事、
わずかな休息しか与えられない過酷な労働や、人体実験。
一方で、職務を真っ当するナチス政権下の軍人や、操作された情報を信じるしかない一般人、何も知らない子供。

誰が悪い、何が悪いと、一言で片付けられる悲劇ではない。
ユダヤ人は敵…その教育を受けて育った人々にとってはそれが正しい思想であり、疑うことこそが悪になる。
正と悪は、いつだって簡単に逆転し得る危うさを持っているのだ。
そして加害者もまた、被害者の側面を持っているかもしれないという曖昧さを。

今回上映する2本は、多かれ少なかれホロコーストと関わりを持つ人々を、新しい視点から描いた話題作である。
真実を奪われた世界で翻弄される人々…今、自分は何をみているのか?何をしているのか?
これは本当か、嘘か?一体何が正しいのか…?
物語の主人公たちにのしかかる現実は非情だが、彼らの愛や友情は汚れを知らない。
だからこそ、だろうか。清らかな美しさを湛えた映像が、あまりにも切なく映るのは。

愛を読むひと
THE READER
(2008年 アメリカ・ドイツ 124分 ビスタ・SRD)PG-12

pic 2009年12月5日から12月11日まで上映
■監督 スティーヴン・ダルドリー
■脚本 デヴィッド・ヘア
■原作 ベルンハルト・シュリンク(『朗読者』)
■製作 アンソニー・ミンゲラ/シドニー・ポラック

■出演 ケイト・ウィンスレット/レイフ・ファインズ/デヴィッド・クロス/レナ・オリン/ブルーノ・ガンツ/アレクサンドラ・マリア・ララ

■アカデミー賞最優秀主演女優賞(ケイト・ウィンスレット)/第66回ゴールデン・グローブ賞助演女優賞(ケイト・ウィンスレット)/英国アカデミー賞主演女優賞ほか多数受賞

■オフィシャルサイト http://www.aiyomu.com/

天国は あなたを見て言うだろう 人間を完全にするもの それこそが愛だと (出典:「たくらみと恋」フリードリヒ・シラー/字幕翻訳・戸田奈津子)

pic1958年、第二次世界大戦後のドイツ。15歳のマイケルは具合が悪かったところをある女性に助けられる。彼女の名はハンナ。21も歳が離れた2人だったが、いつしか激しい恋に落ちる。

本が好きなマイケルに、何か読んで聞かせてと頼むハンナ。それ以来、本を朗読することが2人の愛の儀式になった。しかし、幸福な日々はそう長く続かない。なんの知らせもなしに、ハンナが行方をくらませてしまったからだ。

8年後、マイケルとハンナは衝撃の再開を果たす。法学生となったマイケルが裁判を傍聴しに行くと、そこで裁かれていたのはかつて愛した女性…ハンナだったのだ。戦犯としての罪を問われた彼女は、ある“秘密”を守るために不当な証言を受け入れ、無期懲役となってしまう。ハンナの忌まわしい過去と、それでも消えない愛、自分だけが知る彼女の秘密…非情な運命に翻弄されるマイケルは、ある決断を下す。

世界中が涙した大ベストセラー「朗読者」をスクリーンに咲かせた名キャスト・スタッフたち

pic原作はベルンハルト・シュリンクの自伝的要素を含む小説「朗読者」。40カ国語に訳される世界的ベストセラーとなった。

主演のケイト・ウィンスレットは、この作品でアカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。あのタイタニックのような瑞々しさではない、ある程度年とった女性の生々しい美しさとミステリアスな空気感を体現した。

監督は「リトル・ダンサー」「めぐりあう時間たち」のスティーブン・ダルドリー。数々のヒットを生み出してきた製作のアンソニー・ミンゲラとシドニー・ポラックは惜しくも完成を観ずに亡くなったが、アカデミー協会が特例を認めたため、他2名と共に名がクレジットされている。


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縞模様のパジャマの少年
THE BOY IN THE STRIPED PYJAMAS
(2008年 イギリス・アメリカ 95分 ビスタ・SRD)PG-12

pic 2009年12月5日から12月11日まで上映
■監督・脚本・製作総指揮 マーク・ハーマン
■原作 ジョン・ボイン(『縞模様のパジャマの少年』)

■出演 エイサ・バターフィールド/ジャック・スキャンロン/アンバー・ビーティー/デヴィッド・シューリス/ヴェラ・ファーミガ/リチャード・ジョンソン/シーラ・ハンコック/ルパート・フレンド/デヴィッド・ヘイマン/ジム・ノートン/カーラ・ホーガン

■オフィシャルサイト http://www.movies.co.jp/pyjamas/

“あなたなら、どうしただろうか?”衝撃のラストに、誰もが言葉を失う

第二次世界大戦中のドイツ、ベルリン。8歳のブルーノはナチス将校の父親を持つ、ごく普通の少年。ある日、父親の昇進により新しい土地へと引っ越したブルーノは、森の向こうに有刺鉄線のフェンスに囲まれた奇妙な“農場”を見つける。そこで出会った同い年の少年シュムエルは、何故かいつも同じパジャマ姿。農場へ行ってはいけないと禁じる母親だが、ブルーノはこっそり彼に会いに行き、食べ物を分け与えたり、時にはゲームをして遊んだりする。誰にも言えない禁じられた友情だったが、2人にとってはかけがえのない宝物。それは殺風景な土地に訪れる、唯一無二の豊かな時間であった。

ある時、シュムエルは自分がユダヤ人であることをブルーノに告白するが、何も知らないブルーノにはそれがどういうことなのか分からない。家庭教師に尋ねてみるも、「ユダヤ人は有害」と諭され、姉にも「彼らは敵」と言われてしまう。自分にとって有害でも敵でもないシュムエルの存在にますます困惑するブルーノ。自分がしていることの重大さも、この友情が自分の人生を大きく変えてしまうことも、彼はまだ知らない。

この衝撃の結末を、あなたはどう感じるか?映画に込められたのは語り継ぐべき普遍的なメッセージ。

善と悪が逆転し、真実が見失われた狂気の世界で、無知とはこんなにも残酷で、罪で、無責任で、悲劇的なものだったのか。職務を全うする父親、夫が何をしているか真実を知らない母親、幼く純粋すぎるブルーノとシュムエル…キャストが揃って素晴らしく、それぞれの立場で揺れ動く感情や変化を見事に演じ分けている。原作はジョン・ボインの小説「縞模様のパジャマの少年」。数々の賞を総なめにし、世界中で高評価を得た作品である。監督を務めたのは「ブラス!」「リトル・ヴォイス」の名匠マーク・ハーマン。深い苦渋や重圧を表現しながらも、透き通った空気感を作品に持たせた。

(ザジ)


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