リトル・チルドレン
LITTLE CHILDREN
(2006年 アメリカ 137分)R-15
2008年2月23日から2月29日まで上映 ■監督 トッド・フィールド
■原作 トム・ペロッタ
■脚本 トッド・フィールド/トム・ぺロッタ
■音楽 トーマス・ニューマン

■出演 ケイト・ウィンスレット/パトリック・ウィルソン/ジェニファー・コネリー/ジャッキー・アール・ヘイリー/ノア・エメリッヒ/ジェーン・アダムス/トム・ぺロッタ

郊外の街に住む主婦サラ(ケイト・ウィンスレット)は、いつも娘を遊ばせに来る公園での主婦付き合いに飽き飽きしていた。ある日、司法試験勉強中の“主夫”ブラッド(パトリック・ウィルソン)が息子と公園にやってくる。互いの存在に興味を抱いた2人は、子供をダシにして市民プールで毎日会うようになる…。

そんな中、子供への性犯罪で服役していたロニー(ジャッキー・アール・ヘイリー)が釈放され、街に帰ってくる。ブラッドの友人で元警官のラリー(ノア・エメリッヒ)はこれに過敏に反応、ロニーと老母への執拗な嫌がらせを開始するが…。

肩書きとしては、主演女優賞(ケイト・ウィンスレット)、助演男優賞(ジャッキー・アール・ヘイリー)、脚色賞のアカデミー賞3部門ノミネートが挙げられますが、それだけの評価では収まらないのがこの映画の器の大きさ!!!それを是非実感して頂きたい。

【群像劇=様々な人々を描く映画】の傑作は、明らかに主人公の絞られた映画よりもはるかに数が少ないと思います。自分が絵を描く状況を想像して下さい、単純に使う色が増えれば増える程その分神経を使うことになります。もっとわかりやすい例が日常のファッションです。黒一色でまとめてしまうのはカンタンですが、複数の色を合わせるとなるとなかなか難しい…

群像劇の名匠といえば故ロバート・アルトマン監督を思い浮かべますが、トッド・フィールド監督も負けじと様々な人間模様のうずまく【街】を色鮮やかに描ききっています。

それだけではありません、結局何が言いたかったの?という結末に陥りがちな群像劇を支えるのは根底に流れる強烈なテーマです。例えばキム・ギドク監督は、主人公の内側を見ている側が目を背けたくなる程にえぐるわけですが、トッド・フィールド監督は特定の主人公ではなく、対象を【街】に置き換え、その内側をえぐっている感があります。その結果、えぐることで生じるグロさはバランス良く薄まり、万人が受け入れられる映画になっているとも言えます。つまり、この映画は誰でも住める【街】として、観客=入居者たる我々を待ち受けているのです。

そして【街】の入居者=観客となった我々が目撃するのは、大人になりきれない、もしくは大人ぶっている自分自身の裸の魂に他なりません。

これだけズバッと答えを提示してくれる映画は、観てて気持ちいいものです。ロバート・アルトマン好き、キム・ギドク好きだけではなく、最近大注目の『アモーレス・ペロス』『21g』『バベル』の監督アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥにビビッときた方にも是非是非観て頂きたい、俊英トッド・フィールド監督の傑作、傑作、大傑作!!!

この映画で奇跡の復活を果たしたロニー役(ジャッキー・アール・へイリー)の神業的演技と雄叫びにも身を震わせること間違いなし!!!

(アセイ)



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ショートバス
SHORTBUS
(2006年 アメリカ 101分)R-18
pic 2008年2月23日から2月29日まで上映 ■監督・脚本 ジョン・キャメロン・ミッチェル
■撮影 フランク・G・デマルコ
■音楽 ヨ・ラ・テンゴ

■出演 スックイン・リー/ポール・ドーソン/リンジー・ビーミッシュ/PJ・デボーイ/ラファエル・バーカー/ジェイ・ブラナン/ピーター・スティクルス/ジャスティン・ボンド

■オフィシャルサイト http://shortbus.jp/


舞台はニューヨーク。ここには、普通の人からドラッグクイーンや芸術家、元NY市長まで、“人生の足りない何か”を探して人々が集まる“ショートバス(*)”がある。

カップルカウンセラーのソフィアは、様々なカップルの悩みを解決していく一方で、人には言えない悩みを抱えている。ゲイのジェイムズは人を受け入れることができず、自分をビデオ撮影することを日課にしている。そんな彼を心から愛しているパートナーのジェイミー。二人に憧れる美男子セス。ジェイムズのストーカー、カレブ。ソフィアのダメ夫、ロブ。プロのSM女王、セヴェリン。彼ら7人を乗せて走る、“ショートバス”が行き着く先は…

音楽を担当したのはヨ・ラ・テンゴ。アニマル・コレクティブなどのハッピーなサウンドトラックが、より映画を温かいものにする。


ジョン・キャメロン・ミッチェル監督は、この映画についてこう話している。

「この作品は9・11後のNYが舞台で、人が持つ“繋がりたい”という深い欲求についての物語です。セックスはこの欲求を他者に伝える隠喩的言語に過ぎません。(中略)自分の人生を振り返って下さい。自分のこれまでの人生で経験してきたセックスの中で最も印象的だった瞬間を。その時感じた感情や考え、つまり喜び、恐怖、興奮、開放感、涙、笑い。そして万華鏡のように変化する愛とその不在について。」

…愛とその不在。一度でも人を愛したことのある人なら、それがどんなことなのか苦しいほど解るのではないだろうか。

あなたにとってセックスとは何ですか?
この質問に顔を背けた人にこそ、この映画をおすすめします。
そして、愛する人がいるあなたや、恋人がいるのに寂しくて仕方がない、あなたにも。

(木々)

*)ショートバスとは?
1.アメリカの黄色いスクールバスの短い版。普通の子供は長いスクールバスに乗って学校に行く。その一方で、肢体不自由児、精神障害児、あるいは天才児など“特別なケア”が必要な児童のためのバス。
2.NY、ブルックリンのDUMBOエリアにある、最先端の人々が集まる、愛に溢れるサロン。


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