鮮やかで詩的な映像美、身体の中心に響く音楽、そして紡ぎ出される言葉たち―――今回の特集で上映される2本は、どちらもひとりの男の自伝を映画化したものです。芸術家であるジュリアン・シュナーベルが、映画という方法で世界に提示した、ふたつの魂の物語。

キューバ、詩、カストロ、革命、ホモセクシュアル、亡命―――::: 実在した亡命作家レイナルド・アレナスの、鮮烈な人生の軌跡:::

夜になるまえに
BEFORE NIGHT FALLS
(2000年 アメリカ 133分)
2008年7月12日から7月18日まで上映 ■監督 ジュリアン・シュナーベル
■原作 レイナルド・アレナス(『夜になるまえに』)
■脚本 カニンガウム・オキーフ/ラサロ・ゴメス・カリレス/ジュリアン・シュナーベル

■出演 ハビエル・バルデム/オリヴィエ・マルティネス/アンドレア・ディ・ステファノ/ジョニー・デップ/ショーン・ペン/マイケル・ウィンコット

■2000年ヴェネチア国際映画祭男優賞・審査員グランプリ賞受賞/2000年全米批評家協会賞主演男優賞受賞/2000年アカデミー賞主演男優賞ノミネートほか

■オフィシャルサイト http://www.asmik-ace.com/Bnf/


4年の歳月をかけて制作された『夜になるまえに』は、キューバの亡命作家レイナルド・アレナスの自伝を基に描かれた。

レイナルド・アレナスは1943年、キューバに誕生。極貧の幼年時代、カストロに熱狂したキューバ革命を経て、20歳のときに処女作『夜明け前のセレスティーノ』で作家デビューを果たす。

しかしカストロの独裁政権下では、作家やホモセクシュアルであることが迫害の対象にされることから、アレナスは投獄されてしまう。80年、ニューヨークへ亡命。エイズを発病する。90年、鎮静剤の多量摂取により自殺した。

レイナルド・アレナスを演じたのは、コーエン兄弟監督作『ノーカントリー』での怪演が記憶に新しいハビエル・バルデム。ハビエルはこの役を演じる為に13.5s減量し、英語とキューバなまりのスペイン語を特訓したという。強烈な役どころを引き受けたジョニー・デップにも注目。

「ぼくには、伝えたい言葉がある」:::

ホモセクシュアルだからって何の問題が?ってくらい、自由に恋愛できるようになった現代。しかし、もし今の時代にアレナスが生きていたとしたら、彼の書く詩は全く違うものになっていただろう。

皮肉なことだが、幸せで平穏な生活を送っている人間には心に響かせる物を書くことはできない。アレナスに起こった、様々な逆境。それはアレナスを傷付けると同時に、アレナスに書く力を与えた。

世界にはたくさんの「言葉の力」を信じるひとたちがいて、何か理由があって言葉を紡いでいる。たとえ生まれた国が違っても、詩を書いたこと・読んだことがなくとも、ヘテロセクシュアルであったとしても。

伝えたいことのある人間の言葉は、遮るものを乗り越えて、わたしたちの胸に突き刺さる。


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潜水服は蝶の夢を見る
LE SCAPHANDRE ET LE PAPILLON
(2007年 フランス/アメリカ 112分)
pic 2008年7月12日から7月18日まで上映 ■監督 ジュリアン・シュナーベル
■原作 ジャン=ドミニク・ボビー 『潜水服は蝶の夢を見る』(講談社刊)
■脚本 ロナルド・ハーウッド

■出演 マチュー・アマルリック/エマニュエル・セニエ/マリ=ジョゼ・クローズ/アンヌ・コンシニ/パトリック・シェネ/マックス・フォン・シドー

■2007年カンヌ国際映画祭監督賞受賞・パルムドールノミネート/2007年アカデミー賞監督・脚色・撮影・編集賞ノミネートほか

■オフィシャルサイト http://www.chou-no-yume.com/

20万回以上の瞬きで綴った奇跡の自伝:::
ジャン=ドミニク・ボビー(通称:ジャン=ドー)、42歳。子供が3人いる父親でもあるジャン=ドーは、雑誌ELLEの編集長を務めている。華やかで充実した日々を過ごしていたが、ある日突然倒れ、身体の自由を失ってしまう。昏睡状態から目が覚めたとき、彼は自分が<ロックト・インシンドローム(閉じ込め症候群)>であることを告げられる。

左目のまぶた以外は麻痺の為に全く動かない。絶望の淵に立つジャン=ドーに救いの手を差し伸べたのは、言語療法士のアンリエットだった。アンリエットは彼に、左目の瞬きによるコミュニケーション法を教えてくれる。

たとえ身体が潜水服を着ているように重くて動かなくても、僕には記憶と想像力がある―――。ジャン=ドーは左目の瞬きで、自伝を綴り始める。

ジャン=ドーの自伝は世界31ヶ国で出版され、大ベストセラーとなった。

光を掴む力:::
絶望が訪れて暗闇に包まれたとき、ひとは小さな子供のようにうずくまることしかできない。でもどんなに深い穴に落ちても、必ず光は訪れる。その小さな光を逃さずに掴む力が生きる力となる―――

ジャン=ドーは、かすかに残った光を掴んで、大きな喜びに変えた。辛い状況にいながらもユーモアを忘れない彼を見ていると、同情してくれと言わんばかりの泣かせる映画なんて…!と言いたくなる。

立ち直るきっかけなんて、そこらじゅうに転がっている。それを光に変えるか、鉄屑にしてしまうかは、それぞれその人の意志次第だ。

ジュリアン・シュナーベル
1951年にニューヨークのブルックリンに生まれたシュナーベルは、ヒューストン大学で美術の学士号を修得した後、72年にニューヨークで初の絵画個展を開催。“ニュー・ペインティング”または“ネオ・エクスプレッショニズム”と言われ、80年代の新しい芸術の流れの重要な人物となる。

96年、ジャン=ミシェル・バスキアを描いた『バスキア』を初監督する。その後2000年の監督第2作目『夜になるまえに』で、作家レイナルド・アレナスの自伝を基にした作品を発表し、ヴェネチア映画祭審査員特別賞を受賞。最新作『潜水服は蝶の夢を見る』ではカンヌ国際映画祭監督賞を受賞したほか、ゴールデングローブ賞においては監督・外国語映画部門で受賞するなど、多くの賞を獲得した。また、芸術家・映画監督としてだけでなく、作家・ミュージシャンと、様々な方面で才能を発揮させている。

『バスキア』でジャン=ミシェル・バスキアを、『夜になるまえに』でレイナルド・アレナスを、そして『潜水服は蝶の夢を見る』ではジャン=ドミニク・ボビーをと、3作ともに実在した人物を基にした作品を監督してきたシュナーベル。

シュナーベルは、単なる感動映画を撮ろうとしたわけじゃない。芸術家である彼が、映画という方法で語らなければならなかったことは何なのか?

シュナーベルの愛と敬意は、すべてこの映画のなかに詰まっている。わたしたちはシュナーベルの手を通して、ふたりの男の魂に触れることができる。

(sone)


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