フローズン・タイム
CASHBACK
(2006年 イギリス 102分) R-15
2008年8月30日から9月5日まで上映 ■監督・製作・脚本 ショーン・エリス
■出演 ショーン・ビガースタッフ/エミリア・フォックス/ショーン・エヴァンス/ミシェル・ライアン/スチュアート・グッドウィン

失恋のショック。美大に通うベンは、不眠症に陥ってしまう。眠れない夜が続き、ベンの1日は8時間増えた。持て余した時間を潰すため、24時間営業のスーパーマーケットで深夜バイトを始める。人が寝ている時間に余った時間を売ればいい。スーパーは個性的で、変な奴たちの吹き溜まりだった。

2週間も眠っていないベンは、ついに時間の観念を失ってしまう。あまりの退屈さに時間は動きを緩め…ゆっくりと、そして意識の中で完全に時間は停止する。ベンはフリーズした周囲の世界を自由に歩き回り、誰も気付かない静止画の世界で“美”を味わう。夢中になって美しい女性たちをデッサンする…。

時間の感覚ほどあてにならないものはない。楽しい時間はあっという間に過ぎるけど、授業の時間や退屈な仕事は耐えられないほど長い。次のお休みまで、一体あと何日?なんて考えて気が遠くなりそうになる。

でも一番時間が長く感じるのは、間違いなく失恋直後なんじゃないだろうかと思う。約束も予定も、「未来」がいっぺんに全部なくなっちゃって、今までずっと「現実」だと確信してたものが、もう紛れもなく「過去」になってしまって。悲しくて辛いので何日も何日も何週間も、誰にも会わずに何も食べずにただ泣いていた、つもりだったのに、時計を見たら2日しか経っていなかった、なんてことがあった。

いや、とかく恋愛に絡むと時間の感覚は狂うもの。始まりかけた恋愛のときも。相手のまつげや、くちびるの動きなんかにうっかり見とれてしまったりすると、その一瞬が自分にとってはスローモーションの画像のように脳裏に焼き付く。そんな日常に潜む、「普段は見過ごしてしまう美しい一瞬」を見事に映画化したのがこの『フローズン・タイム』。

時間が止まった世界で何をするかと言えば、女の人を裸にしてデッサンする──そんなバカ映画にしかなりえなさそうなモチーフを、ここまでロマンチックな作品にしちゃうなんて。私はすっかり虜になってしまいました。この映画、ほんとにバカで、ほんとにロマンチック。

第78回アカデミー賞短編実写賞にノミネートされた作品を、監督自ら長編としてセルフリメイク。鮮やかなビジュアルセンスとブラックユーモアが散りばめられた、ポップでファンタジックな世界観。すっかり成熟と大作化の方向に進んできたイギリス映画界から、また若者たちの“気分”を代弁する新しい才能が生まれた。

監督のショーン・エリスはファッション誌のフォトグラファーとして活躍し、ファッションフォトに映画的エモーションを取り入れたことで世界的に注目された俊英。この映画に宿る、「一瞬の美しさ」はシャッターで一瞬を切り取ることに長けている、エリスの感性が存分に発揮されているのだろう。

早稲田松竹のスタッフという仕事柄、たくさん映画を観てますが、「これは!」と思う映画に出会えるのは実はなかなか少ないもの。本作『フローズン・タイム』はまさに「これは!」な、素敵な作品です。気にはなってたけど見逃したという方も、こんな映画聞いたことすらなかったという方も、ぜひ。


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ペネロピ
PENELOPE
(2006年 イギリス 101分)
pic 2008年8月30日から9月5日まで上映 ■監督 マーク・パランスキー
■脚本 レスリー・ケイヴニー
■製作 リース・ウィザースプーン

■出演 クリスティーナ・リッチ/ジェームズ・マカヴォイ/キャサリン・オハラ/ピーター・ディンクレイジ/リース・ウィザースプーン

代々続く裕福な名家のお嬢様、ペネロピ。彼女は先祖が魔女にかけられた呪いのせいで、豚の鼻と耳を持って生まれてきた。呪いを解く唯一の方法は、「同じくらい裕福な家の男の人に愛され、結婚する」こと。両親は何とかペネロピを結婚させて呪いを解こうと幾度となくお見合いをセッティングするが、やってくるのは財産目当ての男たちばかり。しかし、そんな男たちも、ペネロピの姿を一目見ると、恐れおののいて窓から飛び出して逃げていく。

そんな中、唯一自分の姿を見ても逃げなかったマックスと出会うが、ペネロピはまたも裏切られてしまう。傷ついた彼女は、自分の思い通りに生きていくことを決意して、家を飛び出す。果たしてペネロピの呪いは解けるのか…?

リアルな豚鼻をつけたクリスティーナ・リッチが、見慣れてくると豚鼻でも充分可愛い。そもそも「豚の呪い」なんて言っても、基本的に鼻と耳以外のパーツは素のクリスティーナ・リッチのままだし、「一目見ただけで男の人が怯えきって逃げ出す」なんてほど酷いルックスではないような…。いや、ていうかあの程度でバケモノ呼ばわりされてしまうと、なんかちょっと、ねえ。

人は自分を卑下し始めると、途端に卑屈になったり、自信をなくして後ろ向きになってしまいがち。だけど、生まれたときから母親に自分の存在を否定され続けてきたにも関わらず、ペネロピは卑屈にはならない。「結局王子様なんてどこにもいない!」って気づいたペネロピが取った行動は、思い切って前に踏み出すこと。呪いなんてものに怯えずに、開き直ってありのままの自分で生きていこうと決めたとき、不思議と運命は動き出して。

「コンプレックスは結局あなたの個性」「待っていても何も変わらない」というポジティブなメッセージに満ちあふれた、カラフルなおとぎ話。“アメリ×シザーハンズ”という宣伝文句もまぁまぁ納得のいく、かわいらしいお話です。

(mana)


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