黒澤明、小津安二郎等と並ぶ日本映画の巨匠のひとり、溝口健二。
大正十二年『愛に甦へる日』でデヴュー後、『残菊物語』等の「芸道もの」をはじめ、
日本映画史に残る名作を送り出し巨匠の名を確固たるものとした。
その後スランプに陥るも、『西鶴一代女』がヴェネチア国際映画祭で監督賞にあたる
国際賞を受賞し完全復活。
『雨月物語』が翌年同映画祭銀獅子賞を、その翌年『山椒大夫』も同賞を受賞し、
ヴェネチア国際映画祭における三年連続受賞という記録を作った。
その後も『近松物語』『赤線地帯』等名作を監督したが、昭和三十一年、白血病のため死去。

ジャン=リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォー、エリック・ロメールといった
ヌーヴェル・ヴァーグを代表する監督をはじめ、ベルナルド・ベルトルッチ、アキ・カウリスマキ、
テオ・アンゲロプロス等、世界中の名匠達が溝口健二に影響を受けたと語っている。
なかでもゴダールは、「好きな監督を3人選ぶと?」の問いに
「ミゾグチ、ミゾグチ、ミゾグチ!」と答えるほどの傾倒ぶりだった。


撮影では一切妥協を許さなかった溝口。
あまりの徹底振りに数々の逸話が残されている。
スタジオに組んだセットを一晩かけて修正させ、その翌日に元に戻せと命じたり、
気に入らない演技をする役者に罵倒の言葉を浴びせたり・・・。
これが後に「ゴテ健」(ゴテる=不平・不満・文句を言う)といわれた所以。
しかしそれはキャストやスタッフに妥協させないための配慮からきたものであったという。
また「反射していますか」というのが彼の撮影時の口癖であった。
それは役者に役になりきったうえで、状況に適切に反応しろということ。
多くの注文をつけず、気に入らなければ何度でもテスト・撮影を繰り返した。
溝口健二はキャスト・スタッフにとって最も“おっかない”監督であった。
だから彼の作品からは緊張感が伝わってくる。
いわゆる長回し撮影と相まって、息をもつかせぬ臨場感が感じとれる。
それは今でも全く色褪せていない。

今回は溝口健二の代表作といえる作品4本を上映。
なぜ多くの人が彼の作品に熱狂するのか?
なぜここまで惹きつけられるのか?
今一度、スクリーンで確認すべし。

全ての作品が名シーン・名カットのオンパレード。
客席の我々も「反射」を抑えることができないだろう。


★今回の特集に限り、変則的なスケジュールになりますのでご注意ください。
★各作品ごとのパンフレット販売はございませんが、
関連パンフレット「はじめての溝口健二」(没後五十年特別企画「溝口健二の映画」カタログ、¥1,000-)
をお取り扱いいたします。

雨月物語

(1953年 日本 97分)
■監督 溝口健二
■原作 上田 秋成
■脚本 川口松太郎/依田義賢
■出演 京マチ子/水戸光子/田中絹代/森雅之/小沢栄太郎/青山杉作/羅門光三朗/香川良介
2008年3月15日(土)から3月18日(火)まで4日間
『近松物語』と二本立て上映

上田秋成原作の「雨月物語」の中の「蛇性の婬」「浅茅ヶ宿」の2作を映画化した、
欲望と愛憎に彩られた怪異譚。
戦乱の時代。陶工源十郎は城下の市で若狭という美しい女性と出合った。
妻子のことを忘れ、若狭の虜となる源十郎。
しかし若狭の正体は織田信長に滅ぼされた朽木一族の死霊であった・・・。
溝口の徹底した美の追求、盟友 宮川一夫による撮影、早坂文雄の音楽、
それらすべてが見事に融合し、幽玄なる世界観を構築している。
溝口健二のというだけではない、日本映画の最高傑作の一つ。
ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞受賞。
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近松物語

(1954年 日本 102分)
■監督 溝口健二
■原作 近松門左衛門
■劇化 川口松太郎
■脚本 依田義賢
■出演 長谷川一夫/香川京子/南田洋子/進藤英太郎/小沢栄/菅井一郎/田中春男/石黒達也
2008年3月15日(土)から3月18日(火)まで4日間
『雨月物語』と二本立て上映

近松門左衛門の浄瑠璃「大経師昔暦」を脚色した作品。
映画スターを嫌っていた溝口が長谷川一夫を起用し、美しくも儚い近松の愛世界を描ききった。
不幸な偶然が生んだ誤解により磔の刑となった男女の逃避行。
近松の“姦通もの”の一つだが、脚本の依田義賢がよりストイックに改訂し、
作品になんとも言えぬ緊迫感を与えている。
なんと言っても長谷川一夫が美しい。彼の所作ひとつひとつが絶品のカメラワークにより一段と輝いている。
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残菊物語

(1939年 日本 143分)
■監督 溝口健二
■原作 村松梢風
■脚色 依田義賢
■出演 花柳章太郎/森赫子/河原崎権十郎/梅村蓉子/高田浩吉/嵐徳三郎/川浪良太郎/高松錦之助 2008年3月20日(木)から3月22日(土)まで3日間
『山椒大夫』と二本立て上映

二代目 尾上菊之助の悲恋を描いた戦前溝口映画の代表作。
また彼の“芸道もの”の中でも最高峰の呼び声が高い。
身分の違いから愛を成就することのできない男女の悲恋。そして芸と愛の狭間の葛藤・・・。
この時点で長回し撮影は最早完成の域に達しており、見事な緊迫感を醸し出している。
蓮見重彦、淀川長治が選んだ邦画の最高傑作が本作。
キネマ旬報ベストテン第2位。
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山椒大夫

(1954年 日本 124分)
■監督 溝口健二
■原作 森鴎外
■脚本 八尋不二/依田義賢
■出演 田中絹代/花柳喜章/香川京子/進藤英太郎/河野秋武/菅井一郎
2008年3月20日(木)から3月22日(土)まで3日間
『残菊物語』と二本立て上映

「安寿と厨子王」で知られる民話を小説家した森鴎外原作「さんせう太夫」の映画化。
言葉巧みな人買いの手により、幼くして母と生き別れた兄妹。二人は丹後の大尽山椒大夫の荘園で奴隷となった。
やがて荘園から脱出した兄厨子王は、母を探し出し再会を果たすが・・・。
「雨月物語」では幻想的な世界を見事に描いた溝口が、打って変わって徹底的なリアリズムで挑んだ悲劇。
1954年ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞受賞し、同映画祭で三年連続受賞という大偉業を成し遂げた。

text : オサム

★今回の特集に限り、変則的なスケジュールになりますのでご注意ください。
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関連パンフレット「はじめての溝口健二」(没後五十年特別企画「溝口健二の映画」カタログ、¥1,000-)をお取り扱いいたします。


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