衰えを知らない彼の作品は、年代によって作風が変移していく。
「彼女について私が知っている二、三の事柄」が撮影された翌年の1967年、ゴダールは商業映画に決別することを宣言した。「ジャン=リュック・ゴダール」という名に商業的価値を持たせてしまったことから、1968年から1972年までの間、ゴダールは「ジガ・ヴェルトフ集団」という名前で活動を行う。そしてその後、ゴダールの作品性はどんどん社会的方向へと進むことになる。
原色に彩られるファッションとインテリア、ぶつ切りされる音楽。コラージュのような物語。「“訳が解らないことがかっこいい”おしゃれムービー」の代名詞ともされていたヌーヴェルヴァーグ時代の作品に比べて、現在の作品ではかつてのスタイリッシュさは影を潜め、エンターテイメント性が削ぎ落とされている。
今回早稲田松竹で上映する二本は、どちらも1960年代のヌーヴェルヴァーグ時代の作品。商業映画への決別宣言や五月革命を前にした、一種の倦怠を感じずにはいられない。 それでもアンナ・カリーナは相変わらず美しく、パリの街は魅力に溢れ、私たちはスクリーンに夢中になって見入ってしまう。ゴダールが言いたいことは何なのか、何がテーマなのか。そんなことはすっかり忘れて、ただただ映画の登場人物に、映像に、音楽に巻き込まれていく。
ゴダール映画未経験の人は勿論のこと、既に観たことがある人は是非とももう一度(と言わず二度でも三度でも!)、スクリーンでゴダールを体験してみてはいかがだろう。
(1966年 フランス 90分)
2008年4月12日〜4月18日まで上映
■監督・脚本 ジャン=リュック・ゴダール
■製作 フランソワ・トリュフォー/ジャン=リュック・ゴダール
■撮影 ラウール・クタール
■出演 マリナ・ヴラディ/アニー・デュプレー/ロジェ・モンソール/ラウール・レヴィ/ジャン・ナルボニ
1966年8月のパリ。新首都圏拡張整備計画による公団住宅地帯の建設が行われ、パリは変化を迎えていた。パリ郊外の公団住宅に住む主婦ジュリエットは夫のロベールに隠れて売春をしている。昼間は売春宿を託児所代わりに子供を預け、買物や美容院に出かけたり、あるいはカフェで男を探す。「ル・ヌーヴェル・オブセルヴァトゥール」誌に報じられた実話を基に、ドキュメンタリー風に描いた作品。製作はフランソワ・トリュフォーと共同で行われた。
“彼女”というのは主演のマリナ・ヴラディを指しているわけではなく、ゴダール自作の予告篇ではこのように説明されている。≪彼女とは―、ネオ・キャピタリズムの残酷さ/売春/パリ首都圏/フランス人の70%が所有せぬ浴室/恐るべき団地政策/愛の物理学/今日の生活/ベトナム戦争/現代のコールガール/現代の美の死/思想の交通/構造のゲシュタポ≫
(1964年 フランス 96分)
2008年4月12日〜4月18日まで上映
■監督・脚本 ジャン=リュック・ゴダール
■原作 ドロレス・ヒッチェンズ
■撮影 ラウール・クタール
■音楽 ミシェル・ルグラン
■出演 アンナ・カリーナ/サミー・フレイ/クロード・ブラッスール/ルイーザ・コルペイン
■オフィシャルサイト http://www.bowjapan.com/bandeapart/index.php
ゴダールの長編7作品目であるこの作品は、タランティーノ、ヴェンダース、アニエス b.、エリセなど、世界の監督たちに愛された。1人の女(オディール)と2人の男(フランツとアルチュール)がカフェでマディソン・ダンスを踊ったり、ルーブル美術館を駆け抜けたりする。フランツとアルチュールはオディールを馬鹿にしたような態度をとるが、本心では彼女の気を引こうと躍起になる…それを知ってか知らずか、オディールは無邪気に笑って彼等の後を付いて行く。3人は冬のある日、大金の強奪計画を実行することになった。スピーカーから流れてくるのはミシェル・ルグランの軽快な音楽!当時23歳のアンナ・カリーナの魅力が最大限に映し出された作品。
(sone)