「はなればなれに」のオープニングで、「ジャン=リュック“シネマ”ゴダール」、つまり、自らを“シネマ”と名乗ったこの男、ジャン=リュック・ゴダール。現在77歳。

短篇・共同制作作品を含めると、製作作品数は90を越える。歳を重ねるに従って、生み出される作品たちは落ち着きを見せるどころかどんどん挑発的で若々しさを増してきている。

今週は彼の1960年代の代表作から二作、『はなればなれに』と『彼女について私が知っている二、三の事柄』を上映する。

衰えを知らない彼の作品は、年代によって作風が変移していく。

「彼女について私が知っている二、三の事柄」が撮影された翌年の1967年、ゴダールは商業映画に決別することを宣言した。「ジャン=リュック・ゴダール」という名に商業的価値を持たせてしまったことから、1968年から1972年までの間、ゴダールは「ジガ・ヴェルトフ集団」という名前で活動を行う。そしてその後、ゴダールの作品性はどんどん社会的方向へと進むことになる。

原色に彩られるファッションとインテリア、ぶつ切りされる音楽。コラージュのような物語。「“訳が解らないことがかっこいい”おしゃれムービー」の代名詞ともされていたヌーヴェルヴァーグ時代の作品に比べて、現在の作品ではかつてのスタイリッシュさは影を潜め、エンターテイメント性が削ぎ落とされている。

今回早稲田松竹で上映する二本は、どちらも1960年代のヌーヴェルヴァーグ時代の作品。商業映画への決別宣言や五月革命を前にした、一種の倦怠を感じずにはいられない。 それでもアンナ・カリーナは相変わらず美しく、パリの街は魅力に溢れ、私たちはスクリーンに夢中になって見入ってしまう。ゴダールが言いたいことは何なのか、何がテーマなのか。そんなことはすっかり忘れて、ただただ映画の登場人物に、映像に、音楽に巻き込まれていく。

ゴダール映画未経験の人は勿論のこと、既に観たことがある人は是非とももう一度(と言わず二度でも三度でも!)、スクリーンでゴダールを体験してみてはいかがだろう。

彼女について私が知っている二、三の事柄
(1966年 フランス 90分)
2008年4月12日〜4月18日まで上映

■監督・脚本 ジャン=リュック・ゴダール
■製作 フランソワ・トリュフォー/ジャン=リュック・ゴダール
■撮影 ラウール・クタール
■出演 マリナ・ヴラディ/アニー・デュプレー/ロジェ・モンソール/ラウール・レヴィ/ジャン・ナルボニ


1966年8月のパリ。新首都圏拡張整備計画による公団住宅地帯の建設が行われ、パリは変化を迎えていた。パリ郊外の公団住宅に住む主婦ジュリエットは夫のロベールに隠れて売春をしている。昼間は売春宿を託児所代わりに子供を預け、買物や美容院に出かけたり、あるいはカフェで男を探す。「ル・ヌーヴェル・オブセルヴァトゥール」誌に報じられた実話を基に、ドキュメンタリー風に描いた作品。製作はフランソワ・トリュフォーと共同で行われた。

“彼女”というのは主演のマリナ・ヴラディを指しているわけではなく、ゴダール自作の予告篇ではこのように説明されている。≪彼女とは―、ネオ・キャピタリズムの残酷さ/売春/パリ首都圏/フランス人の70%が所有せぬ浴室/恐るべき団地政策/愛の物理学/今日の生活/ベトナム戦争/現代のコールガール/現代の美の死/思想の交通/構造のゲシュタポ≫

はなればなれに
(1964年 フランス 96分)
2008年4月12日〜4月18日まで上映

■監督・脚本 ジャン=リュック・ゴダール
■原作 ドロレス・ヒッチェンズ
■撮影 ラウール・クタール
■音楽 ミシェル・ルグラン
■出演 アンナ・カリーナ/サミー・フレイ/クロード・ブラッスール/ルイーザ・コルペイン
■オフィシャルサイト http://www.bowjapan.com/bandeapart/index.php

ゴダールの長編7作品目であるこの作品は、タランティーノ、ヴェンダース、アニエス b.、エリセなど、世界の監督たちに愛された。1人の女(オディール)と2人の男(フランツとアルチュール)がカフェでマディソン・ダンスを踊ったり、ルーブル美術館を駆け抜けたりする。フランツとアルチュールはオディールを馬鹿にしたような態度をとるが、本心では彼女の気を引こうと躍起になる…それを知ってか知らずか、オディールは無邪気に笑って彼等の後を付いて行く。3人は冬のある日、大金の強奪計画を実行することになった。スピーカーから流れてくるのはミシェル・ルグランの軽快な音楽!当時23歳のアンナ・カリーナの魅力が最大限に映し出された作品。

(sone)

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