ノスタルジア
NOSTALGHIA(1983年 イタリア 126分)
pic ■監督・脚本 アンドレイ・タルコフスキー
■脚本 トニーノ・グエッラ
■出演 オレグ・ヤンコフスキー/エルランド・ヨセフソン/デリア・ボッカルド

朝靄の中に佇む一組の男女。詩人アンドレイと通訳エウジェニア。二人はロシアの音楽家パヴェルの足跡を追って旅を続けてきた。だがその旅はもう長くない。アンドレイは病に冒されていた…。母国ソ連を出国してから初めての作品。 タルコフスキー映画のイメージとしてよく使われる水、火、廃墟などのモチーフがとりわけ印象的に描かれる。この主人公の男に、タルコフスキーが自身を重ねていたことは明らか。廃墟と雪のシーンは、美しすぎて身震いします。

サクリファイス
OFFRET / THE SACRIFICE
pic (1986年 スウェーデン・フランス 149分)
■監督・脚本 アンドレイ・タルコフスキー
■音楽 J・S・バッハ
■出演 エルランド・ヨセフソン/スーザン・フリートウッド/アラン・エドワール

54歳でこの世を去ったタルコフスキーの遺作となった作品。スウェーデンのゴトランド島を舞台に、大学教授アレクサンデルの1日を描く。核戦争が起こった瞬間、轟音と共に戸棚から落ちたミルクが床いっぱいに広がる。美を越えて狂気になったような白が画面を塗りつぶす。この世界から家族を守るためにアレクサンデルがとった方法、サクリファイス(犠牲、献身)とは…。重要なモチーフに松の木が使われ、尺八の音色が響き、主人公が自分の前世は日本人だと信じているなど、日本に関するものがいくつか登場する。タルコフスキー自身も黒澤明などと交流があったようで、日本に対する関心が伺える。

タルコフスキーが遺した至宝

アンドレイ・タルコフスキー。自身の芸術を貫くために母国ソ連を亡命。長編7本の映画を残し、亡命先のフランスで病に倒れ、この世を去った。タルコフスキーが創ったこの映像世界は今でも私たちの目を惹きつけてやまない。初めてそれを観る時、誰もがその洪水のような美しさに溶け込む快感を味わうだろう。劇場の空気をも変えるような映像美。長回しの緊張感。ささやく音楽。突然の轟音。

タルコフスキーといえば、火のイメージ。そして水のイメージ。この相反する二つのものが劇中、幾通りにも姿を変えて現れては消えていく。雨、霧、水滴、雨垂れ。世界をぼんやり映すろうそくの炎、全てを焼き尽くす業火。

火と水は人間の命の源であり、その反面畏怖する存在でもある。これはタルコフスキーの声そのものであるかのようだ。次々と形を変えて現れていても、奥底で響くのはたった一つの声。それは、感情という言葉などではくくりきれない、彼の祈りそのものであるのかもしれない。

タルコフスキーの映画は決して古くならない。色あせない。そして誰にもつくれない。きっと何十年経っても、新鮮な輝きを持って世界中に舞い降りるだろう。人間の愚かさ、尊さ、愛おしさを抱きながら。

(text by リンナ)




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