ヨコハマメリー
(2005年 日本 92分)
2007年1月20日から1月26日まで上映
■監督・構成 中村高寛
■音楽 コモエスタ八重樫/福原まり
■テーマ曲 渚ようこ『伊勢佐木町ブルース』
■出演 永登元次郎/五大路子/杉山義法/清水節子/広岡敬一
戦後、横浜は港湾施設や市街地など広範囲にわたり連合軍に接収され軍人達で賑わうようになっていた。そんな彼ら軍人達を相手に娼婦として生業をたてる女性たちがいたという。その女性たちの中でも一際美しく、高貴な雰囲気をまとっていた人こそが「ハマのメリー」その人だった。年老いても街に立ち続け、時代の流れとともにいつしか姿を消したメリーさんの足跡を追い、彼女の存在を通して横浜の戦後史を描き出した中村高寛監督デビュー作。
「ヨコハマのメリーさんを知っていますか?」
そう問われたときに、どれだけの人がイエスと答えることができるだろうか。横浜から遠方に住んでいる人はもちろんのこと、横浜在住であっても若い世代になればもう彼女の存在を知らないかもしれない。
メリーさんのことを知っているが故に劇場に足を運ぶ方はもちろん多いと思う。ではメリーさんと接点の無い人には不向きな映画なのかといえば、決してそうではない。たとえメリーさんに思い入れがなかったとしても、きっと自分を貫き通した彼女の輝きと、その輝きに魅せられた人々との温かなつながりが強く心を打つに違いないからだ。
生の感情と言葉で迫ってくるドキュメントはどんなに豪華なキャストを揃えた大作映画より素直に心に染み入っていく。モノクロの写真とメリーさんを知る親しい人たちの証言を観ているうちにいつの間にかこの作品に引き込まれていることでしょう。そしてラストにいたる展開。この作品がどういう締めくくり方をするのかは是非とも劇場に足を運んでご覧いただきたい。
2005年湯布院映画祭でも絶賛されており、今一番見逃せない一本。
あなたは自分の街を、周りの人々を、愛せていますか?
(タカ)
太陽
THE SUN
(2005年 115分 ロシア/イタリア/フランス/スイス)
2007年1月20日から1月26日まで上映
■監督 アレクサンドル・ソクーロフ
■脚本 ユーリー・アラボフ
■出演 イッセー尾形/ロバート・ドーソン/佐野史郎/桃井かおり/つじしんめい
「霊魂」という言葉がある。肉体や精神に宿る、目には見えない、たましい。目には見えないのだから、言葉しか知らなかった。この映画を観るまでは。
堅牢な地下壕は、ある一人の男を、戦火の中の東京から完璧に隔離し、守っていた。母親の子宮のように暗く安全な地下壕の中で、彼に許されたことは、決して自らの命を絶つことなく、世界に裁かれるのを待つこと。「第二次世界大戦」という、人間の最大の罪の責任を背負うために…。彼の名は、昭和天皇、ヒロヒト。
映画「太陽」は、今まで日本のメディアが、生身の人間として再現する事をタブーとしていた、「昭和天皇」を一個人として主人公にした作品である。1945年、9月27日。日本中の人々が暗い深淵を見つめる中、「彼」は何を思い朝を迎え、何を食べ、どんな会話を交わしたのか。そして何を思いながら、自分自身の裁きを決めるマッカーサーとの会見に向かったのか。ロシア人の映画監督、アレクサンドル・ソクーロフは、たった一日の些細な時間の結晶を、顕微鏡で観察するように、恐ろしいほど丹念に描いている。
しかし、日本での公開が危ぶまれるほどの問題作として見られていた、この作品の一番の焦点はやはり、望まぬ「神格化」によって、人間性を否定される一人の人間の、血の通った苦痛を描いたところではないだろうか。イッセー尾形演じる昭和天皇、ヒロヒトは、終始つぶやくように話す。耳をすまして聞かなければ、聞き逃してしまうほどに。それは耐えがたい苦難を、飲み込めるだけ飲み込んだ人が発する、ぎりぎりの声量、希望も自由も削ぎ落とされ、魂だけを宿す、かそけき声だ。
(猪凡)