ブラックブック
ZWARTBOEK / BLACK BOOK
(2006年 オランダ/ドイツ/イギリス/ベルギー 144分 PG-12
2007年9月8日から9月14日まで上映 ■監督 ポール・ヴァーホーヴェン
■原案 ジェラルド・ソエトマン
■脚本 ジェラルド・ソエトマン/ポール・ヴァーホーヴェン
■出演 カリス・ファン・ハウテン/トム・ホフマン/セバスチャン・コッホ/デレク・デ・リント

『ロボコップ』『氷の微笑』『ショーガール』『スターシップ・トゥルーパーズ』…。エロにグロにヴァイオレンス、そう、ハリウッド大作系に欠かせないエンターテイメント要素をいつもいつでもてんこ盛りに盛り込んでくれる、愛すべき映画監督、ポール・ヴァーホーヴェン。

ラジー賞の授賞式に颯爽と現れ、嬉々としてトロフィーを受け取っちゃうようなステキな監督です。例え最低と評される作品でも、「まぁまぁ、細かいことは気にしないで、楽しもうよ」と思わせてくれる姿勢にはいつも敬服してしまいます。映画って娯楽ですもの。この人の映画を観ると、いつも「ありがとうヴァーホーヴェン!」なんて感謝の言葉をひとりごちてしまう。「コメディ」「SF」等、様々分かれる映画ジャンルに、「ポール・ヴァーホーヴェン」というジャンルを確立しちゃったんじゃないでしょうか。大味な娯楽性も、ここまでつきぬけてしまえば、一貫した芸術性に感じませんか?

ヴァーホーヴェンと言えば、シャロン・ストーンが訴訟問題などを乗り越え、14年かかってやっと実現できた『氷の微笑2』の作品について

「クソのかたまりだね!シャロンも映画も全部クソだね!」

なんて男気溢れる発言をしてくれたことも記憶に新しい。そこまで言えるんだから、さぞ面白い映画を撮ってくれるはず!さて、そんなヴァーホーヴェンの新作は…

1944年、ナチス・ドイツ占領下のオランダ。若く美しいユダヤ人歌手ラヘルは、何者かの裏切りによって家族をナチスに殺されてしまう。誰かが彼女たちの命を売ったのだ。

復讐のために名前をエリスと変え、ブルネットの髪をブロンドに染め、レジスタンスのスパイとして諜報部のトップであるドイツ将校ムンツェに近づくことに。だが憎むべき敵であるはずのムンツェの優しさに触れ、彼女は次第に彼を愛するようになる──。

一方、レジスタンスたちは、ドイツ軍に囚われた仲間たちを救出しようとするが、作戦は失敗。ドイツ側に寝返ったという濡れ衣がエリスに着せられてしまう。果たして、真の裏切り者は一体誰なのか?エリスはその謎を解くことができるのか?

ハリウッドに見切りをつけ、23年ぶりに母国オランダに戻って撮り上げた本作は、構想20年、ヴァーホーヴェン自ら脚本を書き上げた渾身の一作。繰り返される裏切り、めくるめく逆境にめげず、逞しく生き抜く女、エリス。戦争下における人間の残酷さ、弱さ、愛憎が見応えたっぷりに描かれます。

いつものエログロキワモノ感はなりをひそめた、かなり真面目で重厚な歴史ドラマ。これまでに多く描かれてきたように、ナチス=悪、レジスタンス=善、と単純には描いていないところがヴァーホーヴェンらしい。

非常にまともに撮られた、オーソドックスな歴史劇のため、彼の作品の持ち味が薄まっているのでは?と不安に思われるヴァーホーヴェンファンもいるかもしれません。しかし大丈夫、いたるところに彼らしさが散りばめられています。コアなあなたもきっと満足!

そして、「ヴァーホーヴェンなんて」とか「ハリウッドの大味な映画ばっかり撮ってた人でしょ?」なんて単館好みさんも、「この週は『善き人のためのソナタ』だけでいいわ」なんて考えてらっしゃるお客様も、せっかく二本立てなんですから是非一度ご賞味ください。きっと満足していただけるはず!

(mana)



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善き人のためのソナタ
DAS LEBEN DER ANDEREN
((2006年 ドイツ 138分)
pic 2007年9月8日から9月14日まで上映 ■監督・脚本 フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
■出演 ウルリッヒ・ミューエ/マルティナ・ゲデック/セバスチャン・コッホ/ウルリッヒ・トゥクール

この曲を本気で聴いた者は、悪人になれない――

東西冷戦下の東ドイツでは治安維持の名目で、シュタージ(国家保安省)による監視統制が敷かれていた。芸術家たちの創作活動も例外なく抑圧されており、東ベルリンの劇作家ドライマンと恋人で舞台女優のクリスタは、愚劣な為政者の手により反体制の嫌疑をかけられることとなった。

国家を信じ忠実に仕えてきたシュタージ局員ヴィースラーは、命ぜられるがままに二人の暮らす部屋の監視をはじめる。だが、盗聴器から聞こえてくる、自由な思想、愛の言葉、美しいソナタに心うたれ、彼は今まで知ることの無かった新しい人生に目覚めていくのだった…

弱冠33歳、デビュー作にしてアカデミー外国語映画賞をはじめ数々の映画賞を受賞。4年もの歳月を費やした膨大な量のリサーチに基づく真実味溢れるストーリー、胸締めつけられる哀切極まりない人間模様が絶賛され、早くもドイツ映画史上最高傑作との呼び声も高い、鬼才フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督・脚本作品。

主演ヴィースラー役にはウルリッヒ・ミューエ。自身旧東ドイツ時代、シュタージの監視下に置かれた経験を持つ。国内外で30以上の作品に出演し、特に当作品での繊細な演技は国際的に高い評価をうけていた。2007年7月22日、胃ガンのため死去。54歳の若さであった。

80年代後半、社会主義体制の終焉をむかえ断末魔の叫びをあげていた東ドイツ。一方、バブル景気に湧き、自由経済を謳歌していた日本。当時のドイツ情勢を、私たちはどこか対岸の火事のように眺めてはいなかっただろうか。

ベルリンの壁崩壊を同時代的に知らぬ若い世代も増えてきている今日、私たちはドイツ再統一までの出来事に、一度真摯に向き合っておく必要があるのかもしれない。その意味でも、史実で綿密に裏打ちされたこの作品に触れられることは非常に有意義なことと言えよう。

(タカ)




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