2007年6月9日〜6月15日まで上映浮雲

(1955年 124分 日本)
■監督 成瀬巳喜男/原作 林芙美子/脚本 水木洋子/監督助手 岡本喜八
■出演 高峰秀子/森雅之/中北千枝子/岡田茉莉子
仏印から四年ぶりに引揚げてきたゆき子は富岡の家を訪ねた。―駐仏印の農林省のタイピストであったゆき子は、赴任してきた農林技師の富岡といつしか愛し合うようになっていた。だが、妻と別れると仏印で言った約束も果たされていない富岡に淋しさを感じ、そのまま彼女は自活の道をたてるため、ジョーという米国人のオンリーになった。しかし、それでもなお、ゆき子の心には富岡への恋慕が消えずにいた…。

2007年6月9日〜6月15日まで上映浮雲

(1956年 117分 日本)
■監督 成瀬巳喜男/原作 幸田文/脚色 田中澄江・井出俊郎
■出演 田中絹代/山田五十鈴/高峰秀子/中北千枝子/岡田茉莉子
大川端に近く、格子づくりの粋な構えが立ち並ぶ花街。芸者置屋“つたの家”は、この土地でも指折りの看板の方だったが、七人もいた奴が次々に減って今では三人となっていた。三味線の音も静かな花街の午下がり、夫とも子供とも死別れた孤独な中年婦人の梨花は、お目見得女中として職安から紹介された、“つたの家”を訪れる…。

成瀬巳喜男。小道具係、助監督を経て、1930年にサイレント映画『チャンバラ夫婦』で監督デビュー。当初は小津安二郎に作風が似ているとも言われ、なかなか注目を集めることはなかった。しかし、トーキー映画を撮りはじめた頃から脚光を浴びるようになる。

メロドラマ、女性映画の巨匠。『浮雲』に関して言えば、まさしくメロドラマである。あらすじを読んで、今後の展開を想像してみても、物語はその範疇を越えている。あらすじとは、いかんせん文字のみの世界であるので、想像するより是非映画を観ていただきたい。

成瀬作品には女性を扱ったものが多く、それは同時に多くの女優たちが登場するということだ。『流れる』では女たちの世界が女優たちによって生き生きと、かつ繊細に描かれている。前者の作品とは異なったテイストを持つこの作品の方が、むしろ成瀬監督らしい作品とも言えるかもしれない。

職人監督。登場人物のちょっとした目線、小道具の使い方の巧みさ。台詞を最小限にして創り上げられる空気は、それを意識させないほど自然だ。そんな作品に対する細かな配慮を感じるのは、サイレントの時代から映画を撮り続け、言葉なしでも伝えられる技術を持っているからだろう。それは、まさしく職人のなせる業。

2005年には生誕100年を迎え、各地で特集上映も行なわれた。成瀬巳喜男の映画に対する心意気を、早稲田松竹で今一度堪能してみてはどうだろうか。

text by ロバ / designed by mana


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