モンドヴィーノ
MONDOVINO
(2004年 フランス/アメリカ 136分)
2007年7月21日から7月27日まで上映
■監督・脚本・撮影・編集 ジョナサン・ノシター
■製作 ジョナサン・ノシター/エマニュエル・ジロー
(ある飲み屋にて)
じゃあ、モンドヴィーノ上映を記念して乾杯!!
いや〜、やっぱり夏のビールはうまいね〜
ほら、みんなどんどん飲めよ!
盛り上がっていこうぜ!!!
あれ?…早稲田君はもうワイン飲んでるの?
けど乾杯といったらやっぱりビールでしょ
えっ?
乾杯こそワインが一番?…どうして?
…映画『モンドヴィーノ』を観たらそうなった?…
ふーん、でも俺あんまりワイン得意じゃないんだよね〜
ん?…そんな僕でも大丈夫、きっとこの映画を観たらワインが飲みたくなるし、ワインが好きになる…へぇ、それほど言うなら観てみようかな
どんな話なの?
…監督ジョナサン・ノシターが自らカメラを持ち、本場フランスのワイン業界の重鎮達に切り込み取材を敢行し、現代のワイン業界の資本主義化の現状を浮き彫りにするドキュメント。
資本主義の流れによって、ワインの点数評価による味の一画化を勧めようとするワインメーカーたち、そしてそれに対抗するかのように伝統的個性を守り続けようとする農家たちの姿が印象的。
ただその対立のどちらがいいのかという問題ではなく、このフランスで起きているワイン業界の出来事がフランスだけでなく、世界中の流れとして、我々日本の生活にも当てはまる問題のように思えてくる。そこがこの映画が世界中に受けている理由の一つなのだろう。
人間が点数だけで評価できるものではないように、ワインもまた点数だけで評価できるものではない。色々な個性があるからこそ世界が成り立っている。政治家だけの世界なんてつまんないもんね。ワインも一緒、点数の高いワインだけがいいワインじゃない。安くても、味が独特でもそれもまたそのワインの魅力。私達はそんなワインに出会えたことだけでも幸せなんだ。お米を作るのに八十八夜、それ同様にフランスの農家の人たちが丹精こめて作ったワインたちは、そのどれもが立派なワインなんだ。
そう考えると明日から選ぶワインが何か全部輝いて見えてくる。どう?そう思わない?
ただ、この映画に出演している人達の問題は深刻かもしれないけど、この映画を観るみんなには単純にワインの魅力を少しでも感じてくれれば、それだけ充分!
…って話なんだ、へぇ、面白そうだね。
じゃあ、俺も今日からワイン飲んでみようかな。
すいません、店員さん僕にもワインください!
※館内はアルコール類の持ち込みは禁止です。 (ローラ)
ダーウィンの悪夢
DARWIN'S NIGHTMARE
(2004年 フランス/オーストリア/ベルギー 112分)
2007年7月21日から7月27日まで上映
■監督・脚本・構成・撮影 フーベルト・ザウパー
この映画を観るならその前に、軽くひといき吸い込んで、今抱えているうっぷんをおさらいしてみて欲しい。仕事場の人間関係が上手くいかないとか、家族と何年も口を聞いていないとか、ダイエットが続かないとか、お肌の調子が悪いとか、思い当たるものならなんでもいい。そして、観る。
かつて、「ダーウィンの箱庭」と呼ばれたほど多種多様な生き物の住処だった、アフリカの最大の湖ヴィクトリア湖。半世紀ほど前、そこに元々はいなかったナイルパーチという巨大な肉食魚が、些細な試みとして人の手によって放たれた。ナイルパーチは瞬く間に湖にいた魚達を食い荒らし、増殖して、遂には湖の生態系をすっかり変えてしまった。ナイルパーチが覆したのはヴィクトリア湖の生態系だけではない。周辺の住人達は、元の農業や漁業などの仕事を捨て、ナイルパーチの捕獲と加工業に依存しきった状態になってしまった。加工業の一部の人は儲かるが、仕事にあぶれた人々はどんどん貧困の淵に追いやられていく。女達は生活のために売春をして、結果エイズが蔓延し、不幸な親を持ったストリートチルドレンが次々と産まれる。
一応断っておくと、この映画はドキュメンタリーである。身を全部取られた後のナイルパーチの骨や、うじの湧いた頭を食べるタンザニアの人々の行動は、カメラを向けられたからそうしているのではなく、ずっと前から延々と繰り返されてきた食事の風景だ。ナイルパーチを包むプラスティックの梱包材を火で溶かしてできた、毒をたっぷり含む気体を吸って空腹を満たす子供たちも、兵士は賃金がいいという理由から、戦争が起こることを望む男も、映画の「登場人物」ではなく、私たちと同じ時代を、たまたまアフリカという場所で生きることになった人々の、生身の有様である。
エンドロールが流れたとき、正直言うとほっとした。やっと終わってくれたと思った。そのくらいしんどい映画だった。そして今居る自分の状況が急に、気持ち悪いくらい幸福な環境に思えた。思いつく限りの不満を並べてみたって、
「だったら何?アフリカに生まれなかっただけで超ハッピーーー!!」
しかし。この、人と魚をつなぐ恐怖の食物連鎖に含まれるのは、ヴィクトリア湖周辺の人々だけではない。大きいものは全長2メートル、重さ100キログラムにもなる怪物のようなナイルパーチは、癖のない淡白な高級白身魚として、日本では”スズキ”や、”白身魚の西京漬け”、”白身魚のフライ”という姿に形を変えて、私達が足を運ぶスーパーやファーストフード店、給食にまで並んでいるのだ。つまりヴィクトリア湖のモンスターを、私達は一度でも口にした可能性は極めて高いし、それどころか今日、食べたランチに入っていたかもしれない。この映画の一番恐ろしいメッセージは、不本意ながら「あなたも参加している」という、遠い遠い南の大陸、――北の楽園から日々垂れ流される毒が、髄まで染み込んだ、アフリカが発する満身創痍の声だ。(猪凡)