サマリア
SAMARITAN GIRL
(2004年 韓国 95分 )
2007年1月27日から2月2日まで上映
■監督・脚本・編集 キム・ギドク
■出演 クァク・チミン/ソ・ミンジョン/イ・オル
/クォン・ヒョンミン/オ・ヨン
■第54回ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)受賞
母親を亡くし父と二人暮らしのヨジン(クァク・チミン)と、いつも笑顔を絶やさない親友のチェヨン(ソ・ミンジョン)。二人の女子高生の夢は共にヨーロッパ旅行をすること。その資金集めの為に、二人は「援助交際」を始める。チェヨンが客をとり、ヨジンは嫌悪感を抱きながらも見張り役とお金の管理を引き受けた。しかしある時、ヨジンがほんの僅かの間見張りを怠った隙に警察がホテルに踏み込む。追い詰められたチェヨンはヨジンの目の前で窓から落下する。
亡くなったチェヨンへの罪滅ぼしとして、ヨジンは客たちと会い、一人一人にお金を返しはじめる。そんなある日、刑事であるヨジンの父・ヨンギ(イ・オル)が、男とホテルにいる娘の姿を偶然目の当たりにしてしまう。娘の行為に驚き、怒り、苦悩するヨンギは、やがて客の男達に制裁を始めるのだった。
本作は3部構成の形をとっており、各章のタイトル(『バスミルダ』『サマリア』『ソナタ』)が登場人物や、彼らの行動を象徴するようになっている。チェヨン、ヨジン、ヨンギという主要人物たちの各々の関係性が変化する様を章立てにすることで、複数の視点による物事の捉え方の相違が浮き立つとともに、キム・ギドク作品の特徴の一つである、神話的な雰囲気が顕著になったように思われる。
また、本作『サマリア』は、これまでよりも低年齢の女性二人を主人公として、女性同士の友情や、父と娘の愛情も描いているという特徴がある。これによって、本作には従来のキム・ギドク作品にみられた男女間の激しい愛(憎)劇とは違った趣を感じることができる。これまでのギドク作品のファンにとっては新鮮であり、キム・ギドク初心者にとっては入りやすい作品といえるかもしれない。
主演の女子高生二人には、ほぼキャリアのない若手女優を起用。匿名性と存在感を奇妙に併せ持ち、キム・ギドクの神話的世界を見事に作り出している。尚、今作でチェヨン役を務めたソ・ミンジョン(本名)は、後にハン・ヨルム(芸名)へと名前を変更。併映作品の『弓』でも主演している。
2007年3月封切り予定の『絶対の愛』を最期に、引退を表明しているキム・ギドク。今後の動向が注目される中でのタイムリーな上映となる今回の2本立ては、キム・ギドクファンにも未体験の方にも自信をもってお勧めしたい。
(Sicky)
弓
THE BOW
(2005年 韓国 90分)
2007年1月27日から2月2日まで上映
■監督・脚本・編集 キム・ギドク
■出演 チャン・ソンファン/ハン・ヨルム/ソ・ジソク/チョン・グクァン
世界から切り離されたように、ぽつんと海に浮かぶ二隻の船。小さい方の船には、朴訥な老人と、まだあどけない少女が寄り添いながら住んでいた。老人は大きい方の船を、海釣りをする客に開放して生業を立てていた。時折、少女にいやらしいちょっかいを出そうとする釣り客から、老人は弓で少女を守った。我が子を慈しむように、少女を世話する老人。少女を風呂に入れて髪の毛を梳き、子守唄を唄うように弓を奏でた。
しかし少女を見つめる老人の眼差しは、限りない優しさと、今しがた土の中から沸いて出たような泥臭さに溢れていた。二人に血のつながりは無い。少女は幼い頃、無理矢理老人にさらわれてきたのだ。そして少女は、もうあと少し、17歳になったら老人と結婚しなければならない事を知っていた。
キム・ギドク。本国、韓国では「異端の映画監督」として知られた彼の名を聞いて、眉をひそめる女性がどれほどいるだろう。キム・ギドクの描く女はいつも、ひとつかみの幸福さえむしりとられて、不幸のどん底に突き落とされてしまうから。そしてキム・ギドクの描く世界は、強烈に飢えている。それは映画を見る者も持つ「飢え」に、乱暴に繋がる。仕事をして、家事をして、学校に行って、日常の中に、隠したつもりのヘドロのような欲望を、おかまいなしにぶちまける。「どうして自分は誰とも繋がれないのか」本当は野犬のように遠吠えたい。互いの存在を必死に手繰るように。
少女は、ある日船の上で、若い青年と恋に落ちた。二人は老人を船に置き去りにして、ボートで陸へ向かおうとする。しかしその時、老人が取った悲痛な行動で、いびつな絆は泥の中深く張り巡らせた根となり、少女は蓮の花の愛を見た。
小気味良い会話も、駆け引きも一切ない。ギリギリまで追い詰められた人々は、ただ死にもの狂いで繋がりを求める。ひどく自虐的に提示される愛の形に、感電する人は気の毒な人だ。それか気の毒なくらい幸せな人だ。
(猪凡)