風の前奏曲
THE OVERTURE
(2004年 タイ 106分)
2006年6月10日から6月16日まで上映
■監督・脚本 イッティスーントーン・ウィチャイラック
■出演 アドゥン・ドゥンヤラット / アヌチット・サパンポン / アラティー・タンマハープラーン
配給:東宝東和
ラナート、という楽器を知っていますか?この楽器はタイの古典打楽器、つまりタイの木琴です。木琴といえば子どもの頃の音楽の授業でお馴染みの存在であったと思います。そのせいか、どこか懐かしく、優しくて。木琴を弾くと心の中をぽんぽんと弾いているような、なんだかうれしい楽器でした。ラナートは、「心を癒す」という意味を持つ、素敵な楽器です。
この物語は、ある一人の老人が、今まさに息を引き取ろうとしているところから始まります。彼の名はソーン・シラパバンレーン師。実在した天才的なラナート奏者です。師が振り返る、若き日の想い出。
時はラーマ5世の時代からラーマ8世までの時代、つまり第二次世界大戦中までの時代を描いています。この間を、ソーン師の回想録として行き来しています。ラーマ5世時代とはタイ文化の黄金時代、タイ音楽の黄金時代です。一方ラーマ8世時代は文化の混乱期。当時の統治者は、欧米文化こそが文明であり、タイ文化は遅れているといった法規を打ち出したのです。
映画のシーンには音楽に対する規制も見られます。作詞、作曲に関しても検問が入り、演奏許可を発行しなければ公の場での演奏が許されませんでした。監督はこう語ります。本来、文化というものは規制できない性質のものだと。本当にその通りだと思います。文化とは自由から生まれるもので、少なくとも音楽に関して言えば、規制や管理をされた時点で音楽では無くなるような気がします。
タイトルから想像すると、穏やかで流れるような映画を想像されるかもしれませんが決してそんな事もありません。若かりし頃のソーン師がライバルと繰り広げる音楽バトルは、風どころか竜巻が起きそうなほど激しくダイナミック!だれもが優しいだけではないラナートの魅力に引き込まれるはずです。
時代が変われば、たくさんのことが変わって、変わらないことのほうが少ないかもしれない。だけど、音楽はいつの時代も、何も無かったみたいに変わらずそばにいる。ラナートの音色に耳を澄ませていると、そう思うのです。
(リンナ)
歓びを歌にのせて
AS IT IS IN HEAVEN
(2004年 スウェーデン 132分)
2006年6月10日から6月16日まで上映
■監督・脚本 ケイ・ポラック
■出演 ミカエル・ニュクビスト / フリーダ・ハルグレン / ヘレン・ヒョホルム
■オフィシャルサイト http://www.elephant-picture.jp/yorokobi/
配給:エレファント・ピクチャー
全くの私事で恐縮ですが、先日久しぶりにライブに行って、「音楽って本当にいいなぁ」としみじみしてしまいました。人生に音楽が無くたって、生きることは可能です。でも音楽のない人生と、音楽のある人生なら、後者の方が圧倒的に魅力的。
スウェーデン。ダニエル・ダレウスは天才指揮者として、誰もが羨むような成功を手にし、大きな名声を得ていた。しかし命を削るかのような激しい表現や分刻みのスケジュールは、文字通り彼の心臓を蝕んでいた。あるとき、ついに舞台で倒れてしまったダニエルは、全てを捨てて幼少時代を過ごした田舎町へと一人戻る。家族も友達も知り合いもいないその街で、ダニエルは教会の聖歌隊の指導を頼まれるが…
素人に対する音楽指導、メンバーの一人一人にはそれぞれ色々な人生や抱えている悩みがあって、教える側だって完璧な人間じゃない、どっかしら問題があって…。これって『天使にラブ・ソングを…』や『スクール・オブ・ロック』などのおなじみパターン。でも『歓びを歌にのせて』はその中で一番、音楽の素晴らしさを伝えてくれる映画です。怒りや嫉妬や不安や悩み、そういった人生のネガティブな要素を消し去ることがもしできるとしたら、そんな奇跡を起こせるのは音楽だけかもしれません。人の業をかきたてるのが音楽なら、人間の魂を浄化させるのもまた音楽です。この映画がうたいあげるのは、人間が生きるということと音楽の絆。
それにしても人間の声ってこんなに美しいものなのか!どんな楽器も及ばない強さと美しさに溢れています。ラストシーンのコーラスなんて、鳥肌は立つは涙は落ちるはで大変でした。
18年ぶりにメガホンを撮った、66歳の監督/脚本家ケイ・ポラックは、実際奥さんが聖歌隊のメンバーで、教会への送り迎えや、その聖歌隊の歌を聴いているうちに脚本が形になっていったとか。こんなに素敵な映画を撮る監督、次作が18年後なんてことだけはやめていただきたいですね。
(mana)