ベルヴィル・ランデブー
LES TRIPLETTES DE BELLEVILLE
(2002年 フランス/ベルギー/カナダ 80分)
2006年8月5日から8月11日まで上映
■監督・脚本・絵コンテ・グラフィックデザイン シルヴァン・ショメ
■音楽 ブノワ・シャレスト
■声の出演 ジャン=クロード・ドンダ / ミシェル・ロバン / モニカ・ヴィエガ
■2003年NY批評家協会賞アニメーション賞受賞 / LA批評家協会賞音楽賞・アニメーション賞受賞ほか
(C)2002 Les Armateurs / Production Champion / ViVi Film / France 3 Cinema / RGP France / Sylvain Chomet人里離れた小さな一軒家で、寄り添うように暮らすおばあちゃんと孫のシャンピオン。両親がいないシャンピオンに笑顔を取り戻そうと、おばあちゃんはある日ピカピカの三輪車を贈る。水を得た魚のように喜び、三輪車を漕ぎ回るシャンピオン。
やがて時は流れ、シャンピオンは世界最大の自転車競技、ツール・ド・フランスの選手になった。コーチはもちろんおばあちゃん。しかし大会当日、シャンピオンは謎の黒服の男達に誘拐されてしまう。
…と、ここからがアニメの本領、大発揮!とでも言わんばかりのはっちゃけた展開で、誘拐一味を追って、なんとおばあちゃん、足漕ぎボートで荒れ狂う大海原を横断してしまう(無表情で)。そしてたどりついたのは巨大都市ベルヴィル。シャンピオンの運命やいかに?おばあちゃんは無事シャンピオンと再会できるのか…?
アニメである。元々はパラパラ漫画のあの、アニメである。なのにまるで誰かの人生の貴重な一部始終に立ち会ったように、この慎ましくも滑稽で、ほろ苦い後味はなんだろう。映画を観終わった後もまだ日常のそこかしこで、あのくたびれた老犬や、ほとんど物言わぬ老婆とその孫、シャンピオンの姿を恋しく思う気持ちは一体何なんだろう。
上映時間80分という時間のうち、セリフと呼べるセリフはたったの二言だけ。二次元のアニメのキャラクター達は、言葉よりも、よく煮込まれたシチュウのようにコクのある表情と、いびつなくらい細やかな動きでなんとも饒舌に物語る。
パラパラ漫画を知っている人ならば、ちらりとでも想像してみてほしい。この映画がどれほど手の込んだものか、そしてアニメを生み出す、アニメーターという仕事を。実写の映画の華やかな撮影現場とは真逆の仕事場である。来る日も来る日も絵を描いては絵の山に埋もれ、80分間の絵空事を描くために費やした製作期間はなんと約五年である。すごい、とか驚異を感じるとかでなく、何と言うか、もう哀しい。しかしこの映画から滲み出すセピア色の哀愁は、そんな現実的な哀しみをいとも簡単に塗りつぶしてしまう。
「映画は好きだけどアニメは観ない」という人にこそ、物語の最後にシャンピオンからこぼれ落ちた一言を聞いてほしい。そして堪能してほしい。幾人かの人達が時間をかけて丹念に磨き上げた時間の結晶を。
(猪凡)
ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!
WALLACE & GROMIT: THE CURSE OF THE WERE-RABBIT
(2005年 イギリス/アメリカ 85分)
2006年8月5日から8月11日まで上映
■監督・製作・脚本 ニック・パーク
■監督・脚本 スティーヴ・ボックス
■声の出演 ピーター・サリス / レイフ・ファインズ / ヘレナ・ボナム=カーター
■日本語吹替版・声の出演 萩本欽一 / 飯島直子 / 大川透
■2005年アカデミー賞長編アニメ賞受賞 / LA批評家協会賞アニメーション賞受賞ほか
■オフィシャルサイト http://wandg.jp/
手作業であるからこそ生まれる温もりある動き、イギリス的ジョークとゆるい間、昔の映画やテレビ作品のパロディー、ちょっと見えてる指紋の跡などなど、それら全てが愛しく感じてしまう。それが『ウォレスとグルミット』である。
年に一度の巨大野菜コンテストまであと数日。町の住人達は大きな野菜をつくることばかりを考えてる。しかしそんな中、畑を荒らすウサギが大繁殖。そこで、町の発明家ウォレスとその忠犬グルミットの二人(一人と一匹)は、害獣駆除隊<アンチ・ペスト>を結成。ウサギ吸引マシーン”BV6000”で、ウサギを捕獲し、野菜を守る仕事を始める。しかし、ある夜、巨大なウサギ男に畑が襲われる大事件発生。町はウサギ男の恐怖に包まれる。はたして、ウォレスとグルミットはこの難事件を解決することができるのか?
今までの『ウォレスとグルミット』は30分の短編だったけれども、今回は85分の長編に。初めての長編作品にもかかわらず、なんと宮崎駿の『ハウルの動く城』、ティム・バートンの『コープス・ブライド』をおさえて、栄えある第78回アカデミー長編アニメ賞を受賞した。
その結果が裏付ける通りに本作は面白い。昔のユニヴァーサル映画のパロディ(今回は特にB級ホラー・SF映画中心)がいっぱいあり、いつかどこかで見たことがあるものだらけ。そんなパロディを見つける度に思わずクスッと笑ってしまう。
しかし、パロディが分からなくても全然楽しむことができる。発明家としての腕は一流だがそれ以外はあまり得意ではないウォレス、何も話さなくてもその表情は口以上にモノを語るグルミット、心優しき美女レディ・トッティントン(飯島直子さんの吹替がとても素晴らしい)、悪役たちもどこか憎めない奴ら、そんな彼らのドタバタ劇を見ているだけで楽しくなるはず。
この夏はアニメ大作映画もいいですが、温かみのあるクレイアニメの面白さの方が心に残るはずです。
(パンプキン)