ハチ公物語
(1987年 日本 107分)
2004年8月28日から9月3日まで上映
■監督 神山征二郎
■原作・脚本 新藤兼人
■出演 仲代達矢/八千草薫/田村高廣/長門裕之/石野真子/三木のり平/柳葉敏郎
利口そうな瞳、意志の強さを感じるピンと立った耳。そして愛らしくカールした尻尾。彼の名はハチ。純粋な秋田犬である。
昭和初期の東京、渋谷。ここが舞台である。
大学教授、上野の元にやってくることになったハチ。娘がとついだ矢先であった上野はハチにあふれるほどの愛情を注ぐ。ハチも、教授の愛情に応えるのだった。そしていつからか、雨の日も雪の日も、夕方5時30分になると帰ってくる上野を、渋谷駅で出迎えるのがハチの日課になっていた。
周囲の人もそんな2人をほほえましく思っていただろう。そんなある日の午後、ハチは見えない何かに向かって悲しげな声で狂ったように吠え始めた。その瞬間こそハチと上野教授のお別れの時だった…。
ハチは犬だ。でももう主人がこの世にいないことは本能的にさとったはずである。それでも愛する主人がまた帰って来る気がして、毎日毎日駅の前で待つのだ。
愛する相手を失ってもまだひたすらその相手を思う気持ち。私たちにも痛いほど分かる。だからこそ理屈もなにもなくただまっすぐな思いだけで待つハチの姿は、私たちの胸をうつ。
ちなみにこのハチ、本当に愛らしいです。
(カツオ)
クイール
(2003年 日本 100分)
2004年8月28日から9月3日まで上映
■監督 崔洋一
■原作 秋元良平/石黒謙吾
■脚本 丸山昇一/中村義洋
■出演 小林薫/椎名桔平/香川照之/戸田恵子/寺島しのぶ/黒谷友香/名取裕子
東京のとある家で、五匹のラブラドール・レトリーバーの子犬が誕生した。その中に一匹だけ、脇腹に鳥が羽根を広げたようなブチ模様がある子犬がいた。
生ませ親の水戸レン(名取裕子)は子犬たちを父犬と同じように盲導犬にしたいと願っていた。両親とも盲導犬でなければ難しいのだが、レンに頼まれた訓練士の多和田(椎名桔平)は、一匹だけならと渋々承知する。レンはおっとりしたブチ模様のある子犬を選ぶ。多和田はボランティアで子犬を育てるパピーウォーカーの元に子犬を預ける。そこで“鳥の羽根”という意味の「クイール」という名前をもらう。
楽しい日々は瞬く間に過ぎていく。しかしパピーウォーカーが預かるのは、一歳の誕生日まで。一歳になったクイールはパピーウォーカーの元を離れ、盲導犬センターで生活を始める。だが、他の犬たちが着々と力を付けていく中で、クイールだけが取り残されてしまう。多和田が諦めかけていたその時、彼はクイールの特別な才能を発見する。「ウェイト」と言われると何時間でも動かずに待っているのだ。
ついにクイールのパートナーが決まる。盲導犬を拒否し続けていた渡辺(小林薫)だ。しかし、なかなかコミュニケートできず呼吸が合わない。ある夜、ふとした事から心の鎧を取り払った渡辺は、初めてクイールだけを頼りに歩き出す。そして一人と一匹の心が、徐々に一つになってゆく。クイールと出会ったことで、生活が一変する渡辺。生きている事がいとおしくなってくる。が、ある日突然、予想もしない別れがやって来た…。
監督は、『月はどっちに出ている』『刑務所の中』などを手がけ、深い人物描写に定評のある崔洋一。犬のいい表情を撮るために、通常の5倍ものフィルムを使ったという、鬼才がこだわりぬいた本作。クイールの優しさ、一生懸命さがスクリーンからにじみ出て、観客一人一人の心に感動を与えてくれるはず。
(マコト)