幸福の黄色いハンカチ
(1977年 日本 143分)
2003年9月13日から9月19日まで上映 ■監督・脚本 山田洋次
■原作 ピート・ハミル
■脚本 朝間義隆
■出演 高倉健/倍賞千恵子/武田鉄矢/桃井かおり/たこ八郎/太宰久雄

★本編はカラーです

(C)松竹

山田洋次の一番脂が乗り切っているときの作品と言っていいのではないか。ハナ肇主演『馬鹿まるだし』『馬鹿が戦車でやってくる』等、哀愁漂うちょっと抜けた純粋な男の像は、テレビで車寅次郎を産み、沖縄でハブに噛まれて死んでしまったはずの寅さんをスクリーンに復活させ、ギネスに載るぐらいの大シリーズとして国民に親しまれるようになり、松竹が誇る代表監督となった、金字塔的作品である。

picそして高倉健にとって、東映で作り上げた「仁侠映画黄金期」に陰りが出だした1970年代中頃にこの作品にめぐり合ったことは、その後の健さんのイメージを決定付けるものとなっていく。元やくざ、もしくは誤って殺人を犯してしまって出所したての男…そんな男が黄色いハンカチを求めて夕張に戻ってきて以来、『冬の華』の加納秀次、『遥かなる山の呼び声』の田島耕作、『夜叉』の修治、『居酒屋兆冶』の兆次と続き、いまや本物の「銀幕のスター」と呼べるのは高倉健ただ一人と言っても言い過ぎではない。

1976年公開のこの作品、妙に胴の長くて金八先生にはまだ程遠い武田鉄矢が、安易に車さえあれば女の子をナンパできると乗り込んだ大自然北海道で、『青春の蹉跌』ですでに大女優の風格を感じさせてなおかつまだ初々しい桃井かおりとともに健さんの愛の旅に同乗する。

この三人を倍賞千恵子他、山田組総出演でしっかりと固めている。

picアメリカの代表的なフォークソングとなったピート・ハミル原作の「幸せの黄色いリボン」は山田洋次の手によって、この年から始まった「日本アカデミー賞」をはじめ、キネマ旬報賞、毎日、報知の各映画賞、ブルーリボン賞を総なめにした。

昨年、『たそがれ清兵衛』で初めての時代劇を撮った山田洋次監督はその輝くばかりの才能に25年という重厚さが加わったようだ。日本人が持つ義理人情、そして愛の世界を、寅さんとは違った側面で感じさせてくれる山田洋次監督作品『幸せの黄色いハンカチ』…今一度、あらためてご覧ください。


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砂の器
(1974年 日本 143分)
pic 2003年9月13日から9月19日まで上映 ■監督 野村芳太郎
■原作 松本清張
■脚本 橋本忍/山田洋次
■出演 丹波哲郎/森田健作/加藤剛/島田陽子/緒方拳/渥美清/山口果林/加藤嘉/笠智衆

★本編はカラーです

(C)松竹

国内はもちろん、海外の映画祭においても数々の受賞に輝く『砂の器』は、松竹と提携製作に当たった橋本プロダクション第一回作品であり、原作の松本清張氏と野村芳太郎監督の結びつきを強め、新たに構想された清張・野村シネ・フェアを実現させる端緒ともなった、日本映画界にとっての記念碑的名作である。

pic物語は、迷宮入りと思われた殺人事件を捜査する2人の刑事が、東奔西走苦心さんたんの末その犯人に接近した時、いま正に栄光の階段を上りつめようとする天才音楽家の数奇な生い立ち、暗い宿命を負った秘密につきあたるというもの。

宿命とは人がこの世に生まれ出て自分自身の責任に帰さない運命(さだめ)である。

ある殺人事件をきっかけに、その容疑者である男の過去が明らかになっていくのだが、その宿命の悲しさ、深さ、強さ、おそろしさには誰もが共通の傷みを覚えるはずである。

pic撮影は厳冬の津軽海峡、信州路の春、新緑の北関東、山陰の盛夏、そして北海道阿寒の紅葉まで日本列島の四季を縦断して、追う者と追われる者のスピーディな推理とサスペンス、ダイナミックな音楽、そして人間の宿命を浮き彫りする重厚な画調が象徴的なまでに哀しく美しい。



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