おまる
映画や音楽なんかで「自分らしく」「ありのままに」っていうフレーズをよく目にします。もはや使い古された感もありますが、それでもやっぱり素敵なことです。でも、自分らしくいるということは、同時に他者のそれも受け入れるということでもありますよね。色んな人がいて良いんだと。
ソフィア・コッポラ監督の『オン・ザ・ロック』は、NYのある家族のお話。夫と娘2人と暮らすローラは、作家でありながら日々の生活は完全に育児中心。空いた時間に執筆をするも、あいにくのスランプ状態。いつも優しいグッドガイな夫は、最近出張ばかりでロクに会話もできてない…なんなら浮気までしてるかも!?そんなモヤモヤを払拭するべくローラは、稀代のプレイボーイである父・フェリックスと探偵まがいの尾行調査をスタート!ビル・マーレイ演じるこの父が、ヤバいくらいに自由人なんです。
行く先々で女性を見つけては声をかけたり、赤いオープンカーで爆走したり、少々考え方も前時代的。「女の子は髪が長い方がいい」「男性はすべての女性を支配したいと思ってる」と、今の時代じゃいろいろアウトな発言もしばしばです。それでもこの古い価値観を切り捨てないのがソフィアらしい。映画の中で、フェリックスの生き方を実にチャーミングに愛おしく描いているのです。
グレタ・ガーウィグ監督の『ストーリー・オブ・マイライフ』の場合でも、女性が生きていく多様性を示したという点でとても革新的です。言わずと知れた少女小説の古典「若草物語」の映画化。南北戦争に従軍する父をボストンの家で待ちながら慎ましく暮らすマーチ家の四姉妹のお話は、世界名作劇場のアニメ作品として馴染みがある人も多いのではないでしょうか。
この作品をグレタの目線を通して観て思うのは、原作が生まれてから150年以上経った今でも、抱えている問題は変わらないということです。結婚のこと、仕事のこと、お金のこと、将来のこと。私には自分の道を進むための自信を見つけようと19世紀を生きる4人の姿と、グレタ監督デビュー作『レディ・バード』で“自分”を模索する女子高生が重なってみえました。その女子高生が自分を見つけて、監督となり、この四姉妹の映画を撮ったことは偶然ではないように思います。
オリヴィア・ワイルド監督が『ブックスマート』で描いたのは、ずばり学園青春コメディ“最新版”!モリーとエイミーの仲良しコンビは、将来の夢に向け大学合格するために高校生活を費やしてきた優等生タイプ。だからといって、学園ドラマによくある静かで根暗キャラってわけじゃないんです。ふたりだったら冗談も言い合うし、テンションが上がったらダンスだって踊っちゃう。そんなふたりは、いわゆるイケてるパリピグループのことを見下しちゃってます。どうせ高校時代がピークで、そっから先は下り坂の人生を送るんでしょ、と。がしかし卒業式前日、フタを開けてみれば彼らも自分らを同レベルの大学に進学することが判明!
この映画のすごいところは、ジェンダー・人種・スクールカーストなどといったあらゆる障害を軽やかにぶっ壊しているところ。エイミーはフツーにレズビアンであることをモリーにカミングアウトしているし、モリーもそれを受け入れている。青春コメディでありがちな見た目やセクシャリティといった個性をバカにする悪者キャラは出てこないし、ひとりひとりが多様性に溢れていきいきと魅力的に描かれているんです。こんな学園コメディみたことない!
多様な価値観や考え方を軽やかに受け入れてきた彼女たちが作った映画だから見たくなる。今週はそんな“いま”の空気を、3人の監督それぞれが軽妙に描いた今年選りすぐりの3作品をお届けします♪
オン・ザ・ロック
On the Rocks
■監督・脚本 ソフィア・コッポラ
■製作 ユーリー・ヘンリー/ソフィア・コッポラ
■製作総指揮 フレッド・ルース/ミッチ・グレイザー/ロマン・コッポラ
■撮影 フィリップ・ル・スール
■編集 サラ・フラック
■音楽 フェニックス
■出演 ビル・マーレイ/ラシダ・ジョーンズ/マーロン・ウェイアンズ
©2020 SCIC Intl
Photo Courtesy of Apple
【2020年12月12日から12月25日まで上映】
稀代のプレイボーイである父と、一緒に夫を尾行する!?
ローラは順風満帆な人生を送っていると思っていた。しかし、夫のディーンが新しく来た同僚と残業を繰り返すようになり、良からぬことが起こっているのではと疑いを抱く。そこでローラは稀代のプレイボーイである父親のフェリックスに相談を持ち掛ける。フェリックスはローラにこの事態を調査すべきだとアドバイスし、父娘2人で夜のニューヨークへと繰り出す。アップタウンのパーティーやダウンタウンのホットスポットを駆け巡る内に、フェリックスとローラは自分たち父娘の関係についてある発見をすることになる――。
監督ソフィア・コッポラ×ビル・マーレイが再タッグ! スパイをしながらNYを冒険する、父と娘の物語。
ソフィア・コッポラ監督が『ロスト・イン・トランスレーション』『ビル・マーレイ・クリスマス』に続く3度目のタッグでビル・マーレイを主演に描く最新作。Apple Original FilmsとA24が製作を手掛け、ニューヨークへの溢れる想いに軽快なタッチをブレンドし、父娘ならではの世代の違いが生む衝突や、現代の家族のややこしくておかしな繋がりを描く。
これまでのフィルモグラフィのなかでもっとも台詞が多い、ソフィア曰く「往年のスクリューボール・コメディ」のような、軽やかでテンポの良いコメディ。ビルの娘ローラ役には『セレステ∞ジェシー』のラシダ・ジョーンズ、夫ディーンは『G.I.ジョー』のマーロン・ウェイアンズが演じている。
ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語
Little Women
■監督・脚本 グレタ・ガーウィグ
■原作 ルイーザ・メイ・オルコット
■撮影 ヨリック・ル・ソー
■編集 ニック・フーイ
■衣装 ジャクリーヌ・デュラン
■音楽 アレクサンドル・デスプラ
■出演 シアーシャ・ローナン/エマ・ワトソン/フローレンス・ピュー/エリザ・スカンレン/ローラ・ダーン/メリル・ストリープ/ティモシー・シャラメ/ルイ・ガレル/ボブ・オデンカーク/ジェームズ・ノートン/クリス・クーパー
■2020年アカデミー賞衣装デザイン賞受賞、作品賞・脚色賞・主演女優賞・助演女優賞・作曲賞ノミネート/ゴールデン・グローブ賞主演女優賞・作曲賞ノミネート
【2020年12月12日から12月25日まで上映】
今日も「自分らしく」を連れて行く――
19世紀、アメリカ、マサチューセッツ州ボストン。ジョーはマーチ家の個性豊かな四姉妹の次女。情熱家で、自分を曲げられないため周りとぶつかりながら、小説家を目指して執筆に励む日々。控えめで美しい姉メグを慕い、姉には女優の才能があると信じるが、メグが望むのは幸せな結婚だ。また心優しい妹ベスを我が子のように溺愛するも、彼女が立ち向かうのは、病という大きな壁。そしてジョーとケンカの絶えない妹エイミーは、彼女の信じる形で家族の幸せを追い求めていた。
共に夢を追い、輝かしい少女時代を過ごした4人。そして大人になるにつれ向き合う現実は、時に厳しく、それぞれの物語を生み出していく。小説家になることが全てだったジョーが、幼馴染のローリーのプロポーズを断ることで、孤独の意味を知ったように――。
アカデミー賞6部門ノミネート! 監督グレタ・ガーウィグがいま映画化する「若草物語」
監督・脚本を手掛けるのは、長編映画監督デビュー作『レディ・バード』で女性監督として史上5人目のアカデミー賞監督賞候補になったグレタ・ガーウィグ。アメリカ映画界で最も称賛を集める若き才能が2作目に選んだのは、19世紀を代表する女性作家ルイーザ・メイ・オルコットの世界的ベストセラー小説「若草物語」の映画化だった。
オルコットが自らの生き方を重ねて書き上げたジョー・マーチを演じるのは、『レディ・バード』に続く出演となるシアーシャ・ローナン。25歳という若さで本作も含め既に3度アカデミー賞主演女優賞にノミネートされている。そのほか、ジョーのソウルメイトであるローリー役にティモシー・シャラメ、長女メグをエマ・ワトソン、末っ子エイミーをフローレンス・ピューなど若手実力派が集結。さらにローラ・ダーンとメリル・ストリープといった名優が華を添える。
「若草物語」がこれまでの自分を形作る上で大切な作品であったというグレタ・ガーウィグの手により、時代を超えて愛されるジョーの物語が、まるで現代に生きる女性たちを新しい世界へといざなうように、あざやかに描き上げられる。
ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー
Booksmart
■監督 オリヴィア・ワイルド
■脚本 エミリー・ハルパーン/サラ・ハスキンズ/スザンナ・フォーゲル/ ケイティ・シルバーマン
■製作 ウィル・フェレル/アダム・マッケイ/ジリアン・ロングネッカー/スコット・ロバートソン/アレックス・G・スコット
■撮影 ジェイソン・マコーミック
■編集 ブレント・ホワイト/ジェイミー・グロス
■音楽 ダン・ジ・オートメイター
■出演 ケイトリン・デヴァー/ ビーニー・フェルドスタイン/ジェシカ・ウィリアムズ/ リサ・クドロー/ウィル・フォーテ/ジェイソン・サダイキス/ビリー・ロード/ダイアナ・シルヴァーズ/スカイラー・ギソンド/モリー・ゴードン/ノア・ガルヴィン/オースティン・クルート/ヴィクトリア・ルエスガ/エドゥアルド・フランコ/ニコ・ヒラガ/メイソン・グッディング
© 2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.
【2020年12月12日から12月25日まで上映】
最高な私たちをまだ誰も知らない
明日は卒業式。親友同士のモリーとエイミーは、高校生活の全てを勉学に費やし輝かしい進路を勝ちとった。ところが、パーティー三昧だった同級生たちも同じくらいハイレベルな進路を歩むことを知り驚愕。2人は失った時間を取り戻すべく、卒業パーティーに乗り込むことを決意する。
オリヴィア・ワイルド監督デビュー作! 一夜限りの爆走青春コメディ!
“俺たち”シリーズ、『バイス』の製作コンビ、ウィル・フェレル×アダム・マッケイによるバックアップの下、女優オリヴィア・ワイルドが長編監督デビュー。これまでになく大胆でパワフルな青春コメディは、数々の映画賞を席巻する快進撃で全米を熱狂させた。監督、脚本、主演の全てが女性主導という作品にテイラー・スウィフト、ナタリー・ポートマンら多くのセレブが絶賛し、支持表明したことも大きな話題となった。
主演は、本作でゴールデン・グローブ賞主演女優賞にノミネートを果たした『デトロイト』『ショート・ターム』のケイトリン・デヴァーと『レディ・バード』のビーニー・フェルドスタイン。息の合った演技を見せともに大ブレイク、今後も公開待機作がたくさん控えている。
たった一晩のはちゃめちゃな冒険が、全ての登場人物に気づきを与え、爆笑の後には過ぎ去った時間の愛しさと、彼らを待つ未来の美しさを予感させてくれる。2020年代の青春コメディの傑作が誕生!