パズー
ジャン・ルノワール
1894年 フランス生
1979年 アメリカ没
ルイス・ブニュエル
1900年 スペイン生
1983年 メキシコ没
カール・テオドア・ドライヤー
1889年 デンマーク生
1968年 デンマーク没
ロベルト・ロッセリーニ
1906年 イタリア生
1977年 イタリア没
チャールズ・チャップリン
1889年 イギリス生
1977年 スイス没
今週上映する巨匠たちの生没年と国をリストアップしてみました。一人取り上げるだけでも十分すぎるほど、全員が映画の神様。名前を並べただけで背筋が伸びる思いです。
チャップリンとドライヤーが一番年上で同い年、ロッセリーニとチャップリンは同じ年に亡くなっているんですね。貧困と苦難に満ちた幼少期を過ごしたチャップリンとドライヤー、いっぽう裕福な家に生まれ恵まれた環境で育ったルノワールやロッセリーニ、ブニュエル。フランスに生まれてアメリカで亡くなったルノワール、自国スペインではなくフランス、アメリカ、メキシコを渡り歩き作品を撮り続けたブニュエル、イギリスからハリウッドに渡り最後はスイスに永住したチャップリン…激動の20世紀を生きた、それぞれ紆余曲折の人生。少し知るだけでも彼らの映画を理解する大きな手掛かりになりそうです。
ところで今回上映するのは、監督たちの最後期の作品や、代表作といわれるものを撮った後に作られた作品が揃っています。並べてみると面白いことにたくさんの共通点やエッセンスが見えてきます。
『捕えられた伍長』の伍長はなぜ幾度も脱走を繰り返し諦めないのか。『皆殺しの天使』のブルジョワたちはなぜ誰も部屋から出られない(出ようとしない)のか。理由は説明されないけれど、そうしたいからしているのだと納得してしまう説得力があります。『神の道化師、フランチェスコ』の、キリストの精神を生活の中の行為を通じて伝えんとする兄弟たちの純粋さ、『奇跡』の、信仰と家族という人生の難儀な問題を扱いながら、やがて起こる“奇跡”の明快さ。宗教を深淵なものというよりもむしろとても身近なものとして描いています。『ニューヨークの王様』で、王様が目の当たりにする「自由の国」での行き過ぎたコマーシャリズムや不寛容さへの容赦ない皮肉は、チャップリンが生涯を通じて訴えた「人間らしさ」への賛美に他なりません。
反戦、ブルジョワ批判、宗教への問い、反商業主義。どれも違うテーマを扱い唯一無二の輝きを持った作品たちですが、通底するのは、人の愚かさと愛おしさ、そして、生きるとは絶対的に自由であるべきだというシンプルなメッセージ。『ニューヨークの王様』を観たロッセリーニは当時「これぞ自由人の映画だ」と讃えたそうです。
同時に、今週の作品を観ていると、映画という芸術への揺るぎない確信を感じることができます。小手先のテクニックやストーリーラインに頼ることなく、映画とは画を、動きを映すものだという最も明確な原点を忘れていない。だからこそいつの時代に誰が観ても感動できるのだと気づかされるのです。
「巨匠たちの醍醐味」としてお送りする5本のラインアップ。醍醐味という言葉の意味は「本当の面白さ、かけがいのない楽しみ」、語源は仏教用語で「極上の味」なのだそう。この上なく贅沢な映画の時間を過ごせることをお約束します。
捕えられた伍長 4Kレストア
The Elusive Corporal
■監督 ジャン・ルノワール
■脚本 ジャン・ルノワール/ギイ・ルフラン
■原作 ジャック・ペレ
■撮影 ジョルジュ・ルクレール
■音楽 ジョセフ・コスマ
■出演 ジャン=ピエール・カッセル/クロード・ブラッスール/クロード・リッシュ/ジャン・カルメ
■1962年ベルリン国際映画祭金熊賞ノミネート
/1963年英国アカデミー賞総合作品賞ノミネート
© 1962 STUDIOCANAL. Tous droits réservés.
【2025/6/21(土)~6/27(金)】
ただひたすら、自由を求めて。
ドイツ軍捕虜収容所に収容されているフランス軍のなかに、脱走をくりかえす5人の兵士たちがいた。仲間が次々と脱走していく中で、ひとり”伍長”だけが自由を求めて6回目の脱走を試みるのだが…。
名作『大いなる幻影』の変奏ともいうべき傑作喜劇。生の歓びを高らかに謳い上げるルノワール最後の人生讃歌!
何度失敗しても果敢に捕虜収容所からの脱走を試みる伍長の姿を通して、生きる歓びと素晴らしさを描いたルノワールの遺作。自身の代表作『大いなる幻影』の変奏とも言える作品だが、シリアスでペシミスティックな『大いなる幻影』に対し、本作はより軽快なタッチと魅力的なキャラクター描写により軽快な喜劇に仕上がっている。
ルノワールは「敗れた者の精神についての映画を作りたかった。『大いなる幻影』はその反対に勝者の映画だった。先の大戦は私たちに一つのことを教えてくれた。そこには敗者しかないということである」と語る。『フレンチ・カンカン』の成功でフランス映画界へ復帰したルノワールだったが、その後の作品は不振が続き、晩年アメリカで暮らし母国へ帰ることは叶わなかった。何度失敗してもパリに帰りたいと願う本作の主人公の姿は、まさに自身の心情と重ね合わされていたのかもしれない。
出演は『ブルジョワジーの密かな愉しみ』のジャン=ピエール・カッセルと『はなればなれに』クロード・ブラッスール。エリック・ロメールは本作をオールタイムベストに挙げるほか、「カイエ・デュ・ シネマ」誌にてその年のベスト10 に選出された。
皆殺しの天使
The Exterminating Angel
■監督・脚本 ルイス・ブニュエル
■製作 グスタボ・アラトリステ
■原案 ルイス・ブニュエル/ルイス・アルコリサ
■撮影 カブリエル・フィゲロア
■音楽 ラウル・ラビスタ
■出演 シルビア・ピナル/エンリケ・ランバル/ジャクリーヌ・アンデレ/ルシー・カリャルド/エンリケ・G・アルバレス
■第15回カンヌ国際映画祭国際映画批評家連盟賞受賞
提供:シュルレアリスム100年映画祭
【2025/6/21(土)~6/27(金)】
夏の夜食の宴、上流階級の男女20人を襲った強烈な体験
ある夜、ブルジョアの邸宅で晩餐会が催される。会がはじまると、使用人たちは次々と姿を消し、執事一人が残される。晩餐を終えた招待客は、客間に腰を落ち着かせるが、夜が明けても全員が帰る方法を忘れたかのように何故か外に出ることができなくなってしまい、ついには食料も底をつき…。
シュルレアリスムの極致! ルイス・ブニュエル監督の伝説的傑作映画
人間の基本的な欲求が満たされなくなるにつれ、彼らの社会性が急速に崩壊していく様子を、解読不能なイメージを次々と登場させブラックユーモアたっぷりにブルジョア達を描いている。ブニュエルのメキシコ時代の最高傑作と称される、第15回カンヌ国際映画祭国際映画批評家連盟賞受賞。
奇跡
Ordet
■監督・脚本 カール・テオドア・ドライヤー
■原作 カイ・ムンク「御言葉」
■撮影 ヘニング・ベンツセン
■舞台美術 エーリック・オース
■出演 ヘンリック・マルベア/ビアギッテ・フェザースピル
■1955年ヴェネチア国際映画祭 金獅子賞/1956年ゴールデングローブ賞 最優秀外国語映画賞
©Danish Film Institute
【2025/6/21(土)~6/27(金)】
家族の葛藤と信仰の真髄を問う不朽の名作
ユトランド半島に農場を営むボーオン一家が暮らしていた。長男の妻で妊婦であるインガーはお産が上手くいかず帰らぬ人に。家族が悲嘆に暮れる中、自らをキリストだと信じ精神的に不安定な次男ヨハンネスが失踪、しかし突如正気を取り戻しインガーの葬儀に現れる。
巨匠カール・テオドア・ドライヤー監督の代表作にして、最も劇的な感動を呼ぶ名編。20世紀前半のデンマーク・ユトランド半島にある村を舞台に、室内の厳粛な空間と屋外の風吹く野をめぐる圧倒的な風景の中、家族の葛藤と大いなる愛が格調高い演出で描かれる。カイ・ムンクの戯曲「御言葉」を原作に、演劇的目線で家族の葛藤と信仰の真髄を問う傑作。
神の道化師、フランチェスコ デジタル・リマスター版
The Flowers of St. Francis
■監督 ロベルト・ロッセリーニ
■製作 ジュゼッペ・アマート
■脚本 ロベルト・ロッセリーニ/フェデリコ・フェリーニ
■撮影 オテッロ・マルテッリ
■美術 ヴィルジリオ・マルキ
■音楽 レンツォ・ロッセリーニ
■出演 ナザリオ・ジェラルディ/アルド・ファブリッツィ/アラベラ・ルメートル/セヴェリーノ・ピサカネ
©1950 RTI/Rizzoli
【2025/6/21(土)~6/27(金)】
巨匠ロベルト・ロッセリーニが描く聖なる隣人の物語
フランチェスコと彼の使徒たちはサンタ・マリア・デッリ・ アンジェリの丘に小さな小屋を立て、共同生活を送りながら布教活動を始める。しかし、彼らを待っていたのは理不尽な仕打ちや弾圧だった…。
『無防備都市』『戦火のかなた』などでイタリア・ネオリアリズモの巨匠と称されるロベルト・ロッセリーニが、アッシジの聖人フランチェスコと彼を慕う修道士たちの事績を、ユーモラスな描写も交えながら峻厳なスタイルで撮り上げた1950 年の作品。14世紀頃に精選された名詩選「聖フランチェスコの小さい花」と「兄弟ジネプロ伝」から着想を得て、1210年から1218年までのエピソードを導入部と9つの章からなる作品として構成。当時の生活の細部も丹念に描かれ、中世を舞台にしたネオリアリズモ映画とも謳われている。
【レイトショー】ニューヨークの王様
【Late Show】A King in New York
■プロデューサー・監督・脚本・作曲 チャールズ・チャップリン
■撮影 ジョルジュ・ペリナール
■出演 チャールズ・チャップリン/ドーン・アダムズ/マイケル・チャップリン/マクシーン・オードリー/オリヴァー・ジョンストン/シドニー・ジェイムズ
©Roy Export SAS
【2025/6/21(土)~6/27(金)】
チャップリンの最後の主演作。今こそ新しい、痛烈なアメリカ文明風刺!
革命を逃れて「自由の国」アメリカに亡命してきたシャドフ国王。ひょんなことから出席したパーティーの様子が隠しカメラでテレビ放送され、CMタレントとして人気者になってしまう。だが、共産党員の息子と知り合ったことから、反共主義のヒステリーに巻き込まれていく…。
戦勝に沸くアメリカ政府は、「平和の煽動者」たるチャップリンを事実上、国外追放にした。
本作は、チャップリンから「不自由の国」アメリカヘの抱腹絶倒のしっぺ返しだ。大御所の地位に安住することなく、67歳にして軽やかにギャグを繰り出し、現代文明の不条理を鋭く風剌! 名匠ロッセリーニ監督は「これぞ自由人の映画」と絶賛した。息子のマイケルが悲劇のルパート少年を好演!
「現代アメリカを痛烈な皮肉で笑いとばしたこの映画は当然当局をいたく刺激し怒りを買った。 1940年『独裁者』でファシズムを、1947年『殺人狂時代』で戦争の大量殺人を告発して非米活動委員会から、“アカ”の絡印を押されたチャップリンはついにアメリカを去ることになる。そのアメリカへの怒りと失望をこめて、ロンドンのシェパートン撮影所で完成させたのは1957年だった。」
――1976年公開時のチラシより抜粋