【2024/12/21(土)~12/27(金)】『悪は存在しない』+『王国(あるいはその家について)』//【特別興行】『親密さ』

ジャック

草野なつか監督作『王国(あるいはその家について)』は、いわゆる「本番」にたどり着くまでの、脚本の読み合わせをそのまま切り取り映し出す。断片的に配置された会話から徐々に浮かび上がる物語。役者の座る位置や小道具の有無など、少しずつ状況を変えながら繰り返される同シーンのリハーサルは、何度も同じ線をなぞることでより色濃く、より筆圧を感じるような痕跡を残している。

音楽ライブのパフォーマンス用映像としてスタートし、そこから派生して生まれた濱口竜介監督作『悪は存在しない』。音楽とともに映し出される自然風景の抽象的な印象と相反した、生々しい人々のやりとり。幻想的な風景であるにもかかわらず、そこで描かれる人と人との関係性には、なぜだか「自分も知っている」「この状況には身に覚えがある」とさえ思える身近さがある。

この二つの物語で共通して描かれているのは、“それぞれの領域”について。人と人、人と場所が持つ、さまざまな領域が重なり生じてしまう“モアレ”が、丁寧かつ慎重に描かれていく。その重なった部分で起こる出来事はエモーショナルでもあり、残酷でもある。

しかしこの二つの映画が私を魅了するのは、領域の齟齬ではなく、すり合わせによってそれぞれの映画が作られているところにあると思う。交わらない酷たらしさが描かれる物語とは裏腹に、製作現場に関わる人達の領域の重なった部分を、“新たな領域”として映画という形に記録しているのではないだろうか。だからこそ、映像の隅々に力強さを感じ、妙に清々しい気持ちになるのかもしれない。

王国(あるいはその家について)
Domains

草野なつか監督作品/2018年/日本/150分/DCP/スタンダード

■監督 草野なつか
■脚本 高橋知由
■撮影 渡邉寿岳
■編集 鈴尾啓太/草野なつか
■音楽 黄永昌

■出演 澁谷麻美/笠島智/足立智充/龍健太

【2024/12/21(土)~12/27(金)上映】

あの台風の日、あの子を川に落としたのは私です。

出版社の仕事を休職中の亜希は、一人暮らしをしている東京から、1時間半の距離にある実家へ数日間帰省をすることにした。それは、小学校から大学までを一緒に過ごしてきた幼なじみの野土香の新居へ行くためでもあった。野土香は大学の先輩だった直人と結婚して子供を出産し、実家近くに建てた新居に住んでいた。その家は温度と湿度が心地よく適正に保たれていて、透明の膜が張られているようだった。まるで世間から隔離されているようだと亜希は思った。最初は人見知りをしていた野土香の娘・穂乃香は、亜希が遊びの相手をしているうちに彼女に懐いた。一方、野土香からはとても疲れているような印象を受けた。

数日後、亜希は東京の自宅にいた。彼女は机に座り手紙を書いていた。夢中でペンを走らせ、やがて書き終えると声に出して読み始める。「あの台風の日、あの子を川に落としたのは私です」そして今、亜希は警察の取調室にいる。野土香との関係や彼女への執着、直人への憎悪について、亜希は他人事のように話し始めた。

世界の評論家を騒然とさせた虚構と現実の揺らぐ衝撃作!

長編映画初監督作品である『螺旋銀河』(2014)で第11回SKIPシティDシネマ映画祭にて、SKIPシティアワードと観客賞のW受賞を果たした草野なつか監督による長編第2作『王国(あるいはその家について)』。脚本を務めるのは、『螺旋銀河』で共同脚本として参加し、『ハッピーアワー』などでも知られる高橋知由。出演者には澁谷麻美、笠島智、足立智充ら実力派俳優たちが名を連ねている。

『王国(あるいはその家について)』は演出による俳優の身体の変化に着目。脚本の読み合わせやリハーサルを、俳優が役を獲得する過程=“役の声を獲得すること”と捉え、同場面の別パターンまたは別カットを繰り返す映像により表現する。ドキュメンタリーと劇で交互に語るその手法は脚本が持つ可能性をも反復し、友人や家族という身近なテーマを用いて人間の心情に迫ることに成功している。

誰もが「王国」を作り上げると同時に、その支配からも逃れている。新たな映像言語でその試みの全貌を伝える綱渡りのような150分間。

悪は存在しない
Evil Does Not Exist

濱口竜介監督作品/2023年/日本/106分/DCP/ヨーロピアンビスタ

■監督・脚本 濱口竜介
■企画 石橋英子/濱口竜介
■撮影 北川喜雄
■編集 濱口竜介/山崎梓
■音楽 石橋英子

■出演 大美賀均/西川玲/小坂竜士/渋谷采郁/菊池葉月/三浦博之/鳥井雄人/山村崇子/長尾卓磨/宮田佳典/ 田村泰二郎

■第80回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(審査員グランプリ)受賞

©2023 NEOPA / Fictive

【2024/12/21(土)~12/27(金)上映】

これは、君の話になる――

長野県、水挽町(みずびきちょう)。自然が豊かな高原に位置し、東京からも近く、移住者は増加傾向でごく緩やかに発展している。代々そこで暮らす巧(大美賀均)とその娘・花(西川玲)の暮らしは、水を汲み、薪を割るような、自然に囲まれた慎ましいものだ。しかしある日、彼らの住む近くにグランピング場を作る計画が持ち上がる。コロナ禍のあおりを受けた芸能事務所が政府からの補助金を得て計画したものだったが、森の環境や町の水源を汚しかねないずさんな計画に町内は動揺し、その余波は巧たちの生活にも及んでいく。

濱口竜介(監督)×石橋英子(企画・音楽)の新たな試みに世界が騒然。観る者誰もが無関係でいられない、心を揺さぶる物語。

きっかけは、石橋から濱口への映像制作のオファーだった。『ドライブ・マイ・カー』(21)で意気投合したふたりは試行錯誤のやりとりをかさね、濱口は「従来の制作手法でまずはひとつの映画を完成させ、そこから依頼されたライブパフォーマンス用映像を生み出す」ことを決断。そうして石橋のライブ用サイレント映像『GIFT』と共に誕生したのが、長編映画『悪は存在しない』である。自由に、まるでセッションのように作られた本作。濱口が「初めての経験だった」と語る映画と音楽の旅は、やがて本人たちの想像をも超えた景色へとたどり着いた。

第80回ヴェネチア国際映画祭では銀獅子賞(審査員グランプリ)を受賞、濱口に世界3大映画祭制覇の快挙をもたらしたのち、各国での上映や映画祭へと広がり、世界中から絶賛の声が止まない。主演に、当初はスタッフとして参加していた大美賀均を抜擢。新人ながら鮮烈な印象を残す西川玲、物語のキーパーソンとして重要な役割を果たす人物に小坂竜士と渋谷采郁らが脇を固める。穏やかな世界から息をのむクライマックスまでの没入感。途方もない余韻に包まれ、観る者誰もが無関係でいられなくなる魔法のような傑作が誕生した。

親密さ
Intimacies

濱口竜介監督作品/2012年/日本/255分(途中休憩あり) /DCP/ビスタ

■監督・脚本 濱口竜介
■舞台演出 平野鈴
■撮影 北川喜雄
■編集 鈴木宏
■整音 黄永昌
■劇中歌 岡本英之

■出演 平野鈴/佐藤亮/田山幹雄/伊藤綾子/手塚加奈子/新井徹/菅井義久/香取あき

© ENBUゼミナール

【2024/12/21(土)~12/24(火)上映】

舞台「親密さ」の上演を間近に控える令子は、同棲する恋人でもある良平と演出を手掛けていたが、稽古場や私生活で数々のハプニングに見舞われる中で、二人の関係にも変化が生じていく…。

ENBUゼミナールの映像俳優コースの修了作品としてスタートした企画。「親密さ」という演劇を作り上げていく過程をフィクションとして演じる前半と、実際の上演を記録し映画として構成した後半の二部構成で描かれる傑作青春群像劇。現実と虚構が複雑に交錯し続け、虚実の彼岸にあるリアリティーの核心が胸を揺さぶる。