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私にとって映画は、一種の現実逃避のような側面があります。映画の中で起きている出来事は、いくら非現実的なことでも「どうせフィクションだし」と、映画という別世界に浸ることができるからです。でも、そんな世界が実は現実に起こったことだったら? 逃避するには受け止めきれない「事実」に戸惑うしかありません。
今週上映する『フェラーリ』と『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』の2本立ては、どちらも実在の人物である“エンツォ・フェラーリ”と“エドガルド・モルターラ”の衝撃的な人生を描いた作品です。平凡とは程遠い彼らの人生を、巨匠マイケル・マン監督とマルコ・ベロッキオ監督が圧倒的な熱量で見事に描き切り、史実だからこそフィクションには到底及ばない驚きと緊張感に満ち溢れた作品になっています。
また、モーニング&レイトショーではフランシス・フォード・コッポラ監督『ゴッドファーザー』を併せて上映いたします。こちらも実話…とはいきませんが、実在のマフィアに事前検閲されたほか、製作陣の車に銃弾が撃ち込まれたり、爆破の脅迫があったり…という嘘のような逸話が残されています。実際にマフィアに目を付けられる存在だったからこそ、今もなお色褪せない傑作なのかもしれません。
今回上映する作品たちは、いずれもイタリアが舞台となる作品です。共通するのは「家族」の絆や、それに葛藤する様子が描かれる点。世界でも類を見ない、家族との結びつきを重んじるイタリアという国において、それぞれ異なる時代を生きた「家族」のかたちと、その運命について、ぜひ注目してほしいと思います。
フェラーリ
Ferrari
■監督 マイケル・マン
■製作 マイケル・マン/P・J・ファン・サンドヴァイク/ジョン・レッシャー
■原作 ブロック・イェイツ「エンツォ・フェラーリ 跳ね馬の肖像」(集英社刊)
■脚本 トロイ・ケネディ・マーティン
■撮影 エリック・メッサーシュミット
■美術 マリア・ジャーコヴィク
■編集 ピエトロ・スカリア
■音楽 ダニエル・ペンバートン
■出演 アダム・ドライバー/ペネロペ・クルス/シャイリーン・ウッドリー/ガブリエル・レオーネ/サラ・ガドン/ジャック・オコンネル/パトリック・デンプシー
■2023年ベネチア国際映画祭コンペティション部門正式出品
© 2023 MOTO PICTURES, LLC. STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
【2024/11/9(土)~11/15(金)まで上映】
「レーサーというものは 誰もが 自分は死なないと信じている。 死と背中合わせの情熱、恐るべき喜びだ」
1957年、夏。イタリアの自動車メーカー、フェラーリの創始者エンツォ・フェラーリは激動の渦中にいた。業績不振で会社経営は危機に瀕し、1年前の息子ディーノの死により妻ラウラとの夫婦関係は破綻。その一方で、愛するパートナー、リナ・ラルディとの間に生まれた息子ピエロを認知することは叶わない。再起を誓ったエンツォは、イタリア全土1000マイルを走るロードレース”ミッレミリア”にすべてを賭けて挑む――。
F1界の帝王と呼ばれた男の情熱と狂気を圧倒的熱量で描く、衝撃の実話。
元レーサーにして、カーデザイナー、そして自ら立ち上げたフェラーリ社をイタリア屈指の自動車メーカーへと成長させた稀代の経営者、エンツォ・フェラーリ。映画『フェラーリ』は、1957 年、59 歳だったエンツォの波乱と激動の1 年を描く。
製作・監督は巨匠マイケル・マン。数々の傑作、秀作を手掛けてきたマンにとって、『フェラーリ』は構想30 年に及ぶ執念の企画だった。1991 年に原作が出版された際、シドニー・ポラック監督と脚本のトロイ・ケネディ・マーティンの3人で映画化を目指したが当時は叶わず、すでに二人とも世を去った。以来、ハリウッド・メジャー各社があまりの規模の大きさに恐れをなす中、マンは世界中から出資者を集め、インディペンデント作品としては類例のない破格の超大作を、遂に完成させた。エンツォ・フェラーリを演じるのは、今最も信頼篤い演技派、アダム・ドライバー。製作総指揮も担ったドライバーは、エンツォという人物を陰影深く演じ、二人の女性、ペネロペ・クルス演じるラウラとシャイリーン・ウッドリー演じるリナとの複雑な男女関係の機微が、ドラマの大きな見どころとなっている。
迫真の臨場感と壮大なスケール感で観る者を圧倒する【ミッレミリア】のレース・シーンを再現するにあたり、マンの下に結集した精鋭スタッフは、その持てる技術力を最大限に発揮。疾走するレーサーの表情から雄大に広がる景観までをダイナミックな構図で捉えた撮影は、『Mank/マンク』でオスカー受賞のエリック・メッサーシュミット。当時の看板から広告まで膨大なリサーチを尽し、1957 年当時の風俗、風景を今に甦らせた美術デザインは、『裏切りのサーカス』のマリア・ジャーコヴィク。そして、マンとは『ヒート』以来タッグを組んでいるミキサーのリー・オーロフ、アンディ・ネルソンらによる迫力と臨場感溢れる音響設計も絶大な効果を上げている。
エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命
Kidnapped: The Abduction of Edgardo Mortara
■監督 マルコ・ベロッキオ
■製作 ベッペ・カスケット/パオロ・デル・ブロッコ/シモーネ・ガットーニ
■脚本 マルコ・ベロッキオ/スザンナ・ニッキャレッリ
■撮影 フランチェスコ・ディ・ジャコモ
■音楽 ファビオ・マッシモ・カポグロッソ
■出演 パオロ・ピエロボン/ファウスト・ルッソ・アレジ/バルバラ・ロンキ/エネア・サラ/レオナルド・マルテーゼ
■2023年カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品/2023年ナストロ・ダルジェント賞作品賞・監督賞ほか5部門受賞/2023年金鶏奨監督賞・主演男優賞受賞 ほか多数受賞・ノミネート
© IBC MOVIE / KAVAC FILM / AD VITAM PRODUCTION / MATCH FACTORY PRODUCTIONS (2023)
【2024/11/9(土)~11/15(金)まで上映】
なぜ、僕だったの?
1858年、ボローニャのユダヤ人街で、教皇から派遣された兵士たちがモルターラ家に押し入る。枢機卿の命令で、何者かに洗礼を受けたとされる7歳になる息子エドガルドを連れ去りに来たのだ。取り乱したエドガルドの両親は、息子を取り戻すためにあらゆる手を尽くす。世論と国際的なユダヤ人社会に支えられ、モルターラ夫妻の闘いは急速に政治的な局面を迎える。しかし、教会とローマ教皇は、ますます揺らぎつつある権力を強化するために、エドガルドの返還に決して応じようとしなかった…。
イタリア史上最大級の波紋を呼んだ衝撃の史実を、巨匠マルコ・ベロッキオ監督が映画化。
ユダヤ人街で暮らしていた、7歳を迎えるエドガルド・モルターラが教皇領の警察により連れ去られた「エドガルド・モルターラ誘拐事件」。悲嘆に暮れながらもあらゆる手立てを講じるべく奔走する両親と、時の権力強化のため決して返還に応じようとしない教会側の争いは、イタリアをはじめ、時の皇帝ナポレオンやロスチャイルド家ら、全世界を巻き込んだ論争を紛糾させた。
スティーヴン・スピルバーグが魅了され、映像化に向けて書籍の原作権を押さえたことでも知られているが、映画化を実現したのはイタリアの巨匠マルコ・ベロッキオ。国家、教会、マフィアなどの絶対権力の歪さや、それに翻弄される人々の運命をイタリアの史実をベースに描き続けてきた彼が、その集大成とも言える衝撃作とともに舞い戻ってきた。監督が「突き詰めていくと、合理的な説明をすべて覆す人物像が浮かび上がって来る」と語る通り、エンドロールを迎えるその直前まで、エドガルドが迎える数奇な運命とその選択を、固唾をのんで迎えることになるだろう。
【モーニング&レイトショー】ゴッドファーザー <4Kリマスター版>
【Morning & Late Show】The Godfather
■監督・脚本 フランシス・フォード・コッポラ
■原作・脚本 マリオ・プーゾ
■製作 アルバート・S・ラディ/フランシス・フォード・コッポラ
■撮影 ゴードン・ウィリス
■音楽 ニーノ・ロータ
■出演 マーロン・ブランド/アル・パチーノ/ジェームズ・カーン/ロバート・デュヴァル/リチャード・カステラーノ/スターリング・ヘイドン/ジョン・マーリー/ダイアン・キートン
■第45回アカデミー賞作品賞・主演男優賞・脚色賞受賞
© 1972 by Paramount Pictures Corporation.
【2024/11/9(土)~11/15(金)まで上映】
権力という孤独 愛という哀しみ 男という生き方
ゴッドファーザーという最大の尊称で呼ばれるマフィアのドン、ビト・コルレオーネ。彼が一代で築き上げたこのファミリーは、すべてのマフィア組織の中でも最大、最強だ。その偉大な力は他の追随を許さず、最愛の家族を守り、そして自分をすがってくる者には愛と権力、知力で十分に報いた。しかし、対立するブルーノ・タッタリアの息のかかった麻薬の売人ソロッツォにより、ビトが襲撃される事件が起きる。コルレオーネ家の三男マイケルはファミリーの仕事に加わらず、組織外での正業につくことを望んでいたが、父親の狙撃事件を新聞で見るや、怒りと同時に内に秘めていた意地と野獣のような力が沸き立ち、すぐに病院へ駆けつける。そこで偶然にも、ソロッツォ一味による二度目の襲撃に遭遇。間一髪、父を救うのだった。やがてマイケルは恋人ケイの願いを振り切り、マフィア社会に身を投じてゆく…。
巨大マフィア・ファミリーを描いたマリオ・プーゾのベストセラー小説を映画化! 映画史に燦然と輝くギャング叙事詩3部作の第1作!
『ゴッドファーザー』は1969年、発売されるや全米のジャーナリズムの注目と称賛を集めたマリオ・プーゾの同名小説の映画化である。映画史に残る不朽の名作だが、映画化までには幾多の困難があった。
アメリカ最大の犯罪組織マフィアを真っ正面から描いた原作のため、そのボスで悪名高きジョセフ・コロンボは組織を動員して四万人にも及ぶ製作反対の大集会をひらき、これを支持する上・下院議員などからも百通を超す抗議文が寄せられた。予定されていた監督に断られたり、製作者の車に銃弾が撃ち込まれたり、そしてパラマウント社には爆破の脅迫騒ぎが二度も起こったりと、実在のマフィアの力によって製作が危ぶまれた。プロデューサーのラディは自分がコロンボと会う他に手はないと決意。劇中では”マフィア”やこれに類する言葉を使わないことと、多額(200万ドルと言われる)の落とし前を条件に、話し合いは成功したのだった!
監督には脚本家としての才能が先行していた当時30才のフランシス・フォード・コッポラが抜擢され、原作者プーゾと共に脚色も担当した。主演のゴッドファーザーには自らメイク・アップしたテストフィルムを送ったマーロン・ブランドが選ばれ、共演者にはアル・パチーノ、ジェームズ・カーン、ロバート・デュヴァルらの好演が光る。音楽は『太陽がいっぱい』『ロミオとジュリエット』などイタリア音楽の第一人者ニーノ・ロータで、哀調をおびた旋律はあまりにも有名である。
(公開時のパンフレット・チラシより一部抜粋)