toppic 太陽がいっぱい 冒険者たち

tx

『太陽がいっぱい』が製作された1959年は、
ジャン=リュック・ゴダールが『勝手にしやがれ』を製作した年でもあります。
『太陽がいっぱい』でアラン・ドロンが、『勝手にしやがれ』でジャン=ポール・ベルモンドが、
それぞれにスターの座を獲得、世界中を魅了しました。
その意味でも、『太陽がいっぱい』は、フランス映画史に残る記念碑的作品と言えます。

早稲田松竹は、この60年代を代表するスーパースター、
アラン・ドロンの出世作である『太陽がいっぱい』と、
今なお斬新さを失わない『冒険者たち』を、二本立てで上映します。
数多い青春映画の中で、これほど鮮烈な青春像を印象づけた作品は多くありません。

かつて公開時に熱狂した世代の映画ファンにとっても、
ビデオやDVDでしか見たことのない若いファンにとっても、
今もう一度新しい視点で見ることによって、
新たな発見をし、今までとはひと味違う醍醐味を味わえるはず!


冒険者たち
LES AVENTURIERS
(1967年 フランス 110分)
2006年2月25日から3月3日まで上映 ■監督・脚本 ロベール・アンリコ
■原作・脚本 ジョゼ・ジョヴァンニ
■脚本 ピエール・ペルグリ
■出演 アラン・ドロン / リノ・ヴァンチュラ / ジョアンナ・シムカス

配給:ザジフィルムズ

小型飛行機パイロットのマニュの夢は、パリ凱旋門を飛行機でくぐること。整備工のローランの夢は、世界最速のエンジンをつくること。芸術家のたまご、レティシアの夢は前衛芸術家として名を挙げること。しかし3人の夢はことごとく破れてしまうのだった。強い友情で結ばれていた彼らは、アフリカのコンゴ沖に眠っているかもしれないという宝捜しに一緒に出かけるのだが…

「青春映画」──青春映画ってなんだろう?若い俳優が夢を追ってれば青春映画?愛だの友情だの三角関係だの言ってれば青春映画?

一度は挫折した夢を、あきらめずに追いかけ、人間として強く成長する…『冒険者たち』は、そんな内容の映画ではありません。挫折したら「終わり。はい次の夢」とすぐにシフト。このへんのお気楽さがなんだかとても青春ぽく思えてしまう。3人とも浅くて青い。成長なんてしない。青いまま終わるのです。しかしその青さのなんとまぶしいことか!

若者が冒険する、という明るくはじけまくってそうなモチーフを扱いながらも、全編を覆う虚無感──この虚無感こそが、『冒険者たち』が青春映画たる所以です。結局、青春っていうのは「夢」ではなくて、「夢(しかしこれは金とか女とか、他のものでも十二分に代用化である)に突き動かされるエネルギー」のことを言うのかもしれないなぁ…などと思いました。

さて、どんな映画か?と聞かれれば、ベッソンの『グラン・ブルー』のような、青く美しい海を舞台に、トリュフォーの『突然炎のごとく』のような、強い友情と(三角関係的な)奇妙な愛情で結ばれた男2人・女1人が宝探しをする映画、と答えます。

ただし、『冒険者たち』には、『突然炎のごとく』よりもだいぶさっぱりとした味で(それは舞台となったアフリカ・コンゴ沖の広大な自然と眩しすぎる太陽の開放感のせいかもしれない)、尚且つ『グラン・ブルー』には決定的に欠けている甘酸っぱさがあります。

*余談ですが、『グラン・ブルー』には、この映画『冒険者たち』に対するオマージュのようなものを、感じさせるシーンがいくつかあります。今月は偶然にも2/4から『グラン・ブルー完全版』の上映アリ!どうぞ観比べてみてください。(mana)


太陽がいっぱい
PLEIN SOLEIL
(1960年 フランス/イタリア 118分)
pic 2006年2月25日から3月3日まで上映 ■監督・脚本 ルネ・クレマン(『禁じられた遊び』)
■原作 パトリシア・ハイスミス
■脚本 ポール・ジェゴフ
■出演 アラン・ドロン / マリー・ラフォレ / モーリス・ロネ

(C)COMSTOCK.LTD,

青い海にブルーグレーの瞳のアラン・ドロン。これだけでもう観ずにはいられない。

『太陽がいっぱい』の原作は、女性推理小説家パトリシア・ハイスミスの“トム・リプリー・シリーズ”第一弾「The Talented Mr.Ripley」。推理小説と聞くと、、あっさり人が殺されて…、謎解きがあって…と、人間の心理がそこに存在してはいるがそれは小説を面白くするための、ひとつの道具にすぎないのでは?と、なにか浅さを感じてしまうことがある。しかし、パトリシア・ハイスミスの推理小説=ミステリーには、深さがある。人間の心理は不可解だ。これこそ本物のミステリー。

25歳の青年トム・リプリーは、富豪グリーンリーフから、息子のフィリップをアメリカへ連れ戻して欲しいと依頼され、イタリアにやって来た。社会的地位も金もないトムにとって、報酬5000ドル付きのヨーロッパ旅行は、またとないチャンスだった。しかし、フィリップにはアメリカへ帰る気などまったくなかった。家とヨットを所有し、ローマやナポリで豪遊する生活。そしてマルジュ、彼女と別れて帰国することなどフィリップは考えもしなっかった。トムは、フィリップとの遊び暮らす日々に、自分の任務を忘れ、のめり込んでゆく。このままの日々が続けばいいと願うトム。しかし、グリーンリーフからの手紙で、いい仕事にありつける機会を無くし、将来を失う。そして、フィリップの態度も変化してゆく。トムに対し残酷な仕打ちをしては喜び、嘲るフィリップ。トムの心には焦燥と憎悪が溢れていった。

アラン・ドロン演じる、トム・リプリー。排他的なのに飢えている。乾いていて、粗雑な印象を持つこの人物は、彼が演じることによって、光と内包された影を持ち、とても魅力的だ。

永遠に消えない劣等感。そこから抜けだせる方法を探し、そうすればそうするほど、それは困難になってゆく。自分自身の闇に落ちてゆくことは簡単なのに、這い上がるのは難しい。望んでいるのはすごく単純なものなのに、それが手に入らない。どうしても、欲しくて手に入れたいのなら、手に入れなくては。それが、たとえどんな方法であっても。

人間の心理は不可解だ。それが、善であるか悪であるか、正しいのか誤りなのかを判断する手段さえ絶たれた時、何をもって自分を決定づければいいのだろうか。(ロバ)


このページのトップへ