あなたがそばにいる、この場所に

すみちゃん

『小さき麦の花』『ジョージア、白い橋のカフェで逢いましょう』を並べて観てみたら、なだらかな空気が流れていると思った。けれど、空気は目に見えるものではない。なぜ、“なだらかに見える”と思ったのだろう?

映画の中で暮らす人々が息をしている、歩いている、ご飯を食べている。それを観客のわたしたちが眺めている。穏和なひととき。日々生活を営んでいる自分をもしも客観的な視点でみることができたなら、こんなにも穏やかに暮らしているのか、と驚いてしまいそうだ。カフェで座ってゆっくりとする、おまんじゅうをもぐもぐと食べる。特別なことではない。けれど、特別な時間に感じる。時間は過ぎ去ってしまう。わたしたちは、毎日問題なく過ごしたいし、少しでも災難を回避したいと思うけれど、抗えないことはいくらでもある。会いたい人にもう会えないとか、自然の脅威とか、死、とか。だからこそ、このただ眺めていられる時間の尊さがある。

人間は、この世界にたくさん存在し、生きている。この土地の一部として、またはこの土地の歴史の一部となるべくして。今回上映される映画を観ていると、もはや人間という存在が、地形の一部に見える瞬間もある。“なだらかに見える”のは、人間と場所が等しく存在しているからなのだろう。『小さき麦の花』でのある台詞が心に残る。「…すべては土から生まれ 土から育つ 土は人を嫌わない 人も土を嫌わなくていい…」

苦しみを嫌うのではなく、困難な状況とともに、柔らかく平行に生きていくという姿勢、抗えないものへの身のこなし方を、映像から得られるのだとわたしは知った。今いる自分の地点が、マイナスなのではなく常に出発地点だと思えるような作品との出会いを感じてもらいたいなと思います。

小さき麦の花
Return to Dust

リー・ルイジュン監督作品/2022年/中国/133分/DCP/ビスタ

■監督・脚本 リー・ルイジュン
■撮影 ワン・ウェイホア
■美術 リー・ルイジュン/ハン・ターハイ
■音響 ワン・チャンルイ
■音楽 ペイマン・ヤズダニアン

■出演 ウー・レンリン/ハイ・チン/ヤン・クアンルイ/チャオ・トンピン/ワン・ツァイラン/ワン・ツイラン/シュー・ツァイシャ/リウ・イーフー/チャン・チンハイ

■2022年ベルリン国際映画祭コンペティション部門正式出品 ほか多数受賞・ノミネート

©2022 Qizi Films Limited, Beijing J.Q. Spring Pictures Company Limited. All Rights Reserved.

2023/7/22~7/28 上映

いつか土に還る。

2011年、中国西北地方の農村。貧しい農民ヨウティエと体に障がいのある内気なクイイン。互いに家族の厄介者だったふたりは、見合い結婚。やがて、互いを慈しみ、力を合わせ、作物を育て、質素な家を作り、慎ましくも日々を生きるのだが、自然の猛威や変わりゆく時代の波にさらされる……。

互いに家族から厄介払いされたふたりの永遠の愛の物語。世界の批評家が賞賛、中国で<奇跡>とまで呼ばれた大ヒット作。

ベルリン国際映画祭の星取りでは驚異の4.7点(5点が満点)をマークし、金熊賞最有力と絶賛されるも無冠だった本作。しかし、中国で公開されるとTik Tokでの絶賛口コミが火付け役となり、若い世代を中心に社会現象に。<奇跡の映画>とまで呼ばれ大ヒットを記録した。監督は『僕たちの家に帰ろう』のリー・ルイジュン。リアリズムの中にファンタジーを織り込ませた演出が輝きを放つ。「第5世代の名作やジャ・ジャンクー作品を思い起こさせる。『小さき麦の花』は現代中国の名作との比較に値する」と海外で評された新たな名作である。

妻のクイインを演じるのは、かつて「国民の嫁」と呼ばれた人気女優ハイ・チン。ノーメイクで農村の女性になりきった名演は必見。夫のヨウティエを演じるのは、監督の叔父で実際に農民でもあるウー・レンリン。ふたりが互いに寄り添い、大地に寄り添い生きる姿。口数少なくどこかぎこちないふたりは、「愛している」なんて言葉は決して口にしない。けれど、これが本当の愛、本当の優しさなんだと、観客の心に訴えかけてくる。

ジョージア、白い橋のカフェで逢いましょう
What Do We See When We Look at the Sky?

アレクサンドレ・コベリゼ監督作品/2021年/ドイツ・ジョージア/150分/DCP/ヨーロピアンビスタ

■監督・脚本 アレクサンドレ・コベリゼ
■撮影 ファラズ・フェシャラキ
■編集 ヴェレナ・ファイル
■音楽 ギオルギ・コベリゼ

■出演 ギオルギ・アンブロラゼ/オリコ・バルバカゼ/ギオルギ・ボチョリシヴィリ/アニ・カルセラゼ/ヴァフタング・パンチュリゼ

■第71回ベルリン国際映画祭国際映画批評家連盟賞受賞/第22回東京フィルメックス最優秀作品賞・学生審査員賞受賞

© DFFB, Sakdoc Film, New Matter Films, rbb, Alexandre Koberidze

2023/7/22~7/28 上映

逢えない貴方を、隣で想っていた。

ジョージアの美しき古都、クタイシ。通勤途中で本を落としたリザと拾ったギオルギ。たった数秒、言葉を交わしただけの2人は夜の道で再会する。あまりの偶然に、名前も連絡先も訊かないまま、翌日白い橋のそばにあるカフェで会う約束をする。しかし邪悪な呪いによって、朝2人は目覚めると外見が変わってしまい、さらにリザは仕事である薬剤師の知識を失う。

一方、サッカー選手だったギオルギは自在にボールを操ることが出来なくなった。それでもリザとギオルギは約束したカフェに向かい、現れない相手を待ち続ける。待ち人も姿が変わっているとは知らずに…。

ジョージアの美しい街で偶然に出会った男と女――呪いで外見が変わってしまった2人のすれ違いから始まるラブストーリー

ヨーロッパの桃源郷と呼ばれるジョージア(旧:グルジア)から、おとぎ話のようなラブストーリーが誕生した。初夏の光に包まれた部屋、そよ風に揺れるカーテン。どこを切り取っても絵画のように美しいこの街で、1組の男女が偶然に出会う。2人は翌日会う約束をするが、呪いによってお互い姿形が変わり、持っていた才能と知識までも失う――。“呪いと一目惚れ”という、人の感情を強く揺さぶる現象を、ジョージアの穏やかな空気のなかで描き、日常を魔法がかかったように輝かせて見せる。

監督はジョージアの新星アレクサンドレ・コベリゼ。本作が第71回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞、第22回東京フィルメックス最優秀作品賞&学生審査員賞ほか、海外の映画祭でも多数の賞を受賞し、今後の活躍が注目されている。呪われる前の男にアームレスリング世界王者のギオルギ・アンブロラゼが抜擢され、カフェの気ままなオーナーをジョージア映画の名優ヴァフタング・パンチュリゼが演じている。

【レイトショー】はだかのゆめ
【Late Show】Visit Me in My Dreams

甫木元空監督作品/2022年/日本/59分/DCP/ビスタ

■監督・脚本・編集 甫木元空
■製作 仙頭武則/飯塚香織
■撮影 米倉伸
■音響 菊池信之
■音楽 Bialystocks

■出演 青木柚/唯野未歩子/前野健太/甫木元尊英

■第35回東京国際映画祭Nippon Cinema Now部門正式招待作品

★本作品はレイトショー上映です。
☟入場料金
一律1000円/割引なし
★チケットは、朝の開場時刻より受付にて販売いたします(当日券のみ)。

★7/24(月)トークショー決定!
日時:7/24(月)『はだかのゆめ』終映後
ゲスト(予定):
・甫木元空監督
・廣瀬純さん(映画批評家)
⇒トークショーレポはこちら

©PONY CANYON

2023/7/22~7/28 上映

いつか夢にくらい少しは顔をだしてくれたら…

四国山脈に囲まれた高知県、四万十川のほとりに暮らす一家の人々。祖父の住む家で余命を送る決意をした母、それに寄り添う息子ノロ。嘘が真で闊歩する現世を憂うノロマなノロは、近づく母の死を受け入れられず徘徊している――。土地に刻まれた時間の痕跡と、幽かな生と確かな死。これは若くして両親を亡くし、高知県で祖父と暮らす監督自身の現在を半ば投影した、親子3代にわたる時間と、その時間の境界線を飛び越えた触れ合いの、そしてそれでも触れることのできない残酷な距離の物語である。

青山真治監督に見出された才能――映画監督でミュージシャンでもある甫木元空の最新作

監督は、『EUREKA ユリイカ』のプロデューサー・仙頭武則と監督・青山真治によってプロデュースされた『はるねこ』(16)で長編映画デビューした甫木元空。甫木元は『はるねこ』の生演奏上映をきっかけに結成したバンド「ビアリストックス」としても活動しており、本作の音楽も手がけている。前作に続き、仙頭がプロデュースし、これからの日本映画を背負う若きスタッフたちに混じって、青山組の音響担当として『EUREKA ユリイカ』以降のほぼすべての作品を手がけてきた菊池信之が参加。死者と生者が同居する世界の音をわれわれの世界に届けてくれる。

主演に昨年公開の映画『うみべの女の子』『ひとひら』や、NHK朝ドラ「カムカムエヴリバディ」など話題作への出演が相次ぐ青木柚。さらに、俳優のみならず監督、小説家でもある唯野未歩子、シンガーソングライターで俳優としても活躍している前野健太が出演。