パズー
先週に引き続き、Music Film Festival特集! 2021年のトリを飾る今週お届けするのは、『アメリカン・ユートピア』『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』! どストレートなライブ映画の二本立てです。
伝説的バンド「トーキング・ヘッズ」のフロントマンであるデイヴィッド・バーンが、世界中から集めた個性的なミュージシャンやパフォーマーとともに作り上げたブロードウェイ公演「アメリカン・ユートピア」。この公演を映像に収めたものが映画『アメリカン・ユートピア』です。トーキング・ヘッズ時代にも、ジョナサン・デミが監督したライブ映画『ストップ・メイキング・センス』を製作したバーンですが、本作で監督を依頼したのは『ドゥ・ザ・ライト・シング』『ブラック・クランズマン』の名匠スパイク・リーでした。
意外な取り合わせにも思えますが、二人は80年代からNYを拠点に活動していて親交があったそう。それだけではなく、バーンがリーを選んだ理由は、ライブのハイライトでもある、警官に殺された黒人を悼み、人種差別に抗議するジャネール・モネイの力強いプロテストソングをカバーしているところなどにもあるように思います。
分断の時代を生きる私たちへのたくさんのメッセージが詰め込まれたこのステージですが、頭で考えるようなライブではもちろんありません。最初から最後まで感じるのは、とにかく、めちゃくちゃかっこいい! めちゃくちゃ楽しい! に尽きます。幸福感に満たされて、誰もが笑顔になる魔法がかかったライブなのです。現在もブロードウェイで公演が続いているそうで、心の底から行きたいです。
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『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』は、“クイーン・オブ・ソウル”アレサ・フランクリンが1972年に教会で行ったゴスペルライブを撮影したドキュメンタリー。このライブの音源はアルバムとして300万枚以上の大ヒットを記録していますが、映像は技術的なトラブルによりお蔵入りになり、約50年経った今、ついに日の目を見ることになりました。監督する予定で撮影していたシドニー・ポラックは2008年に、アレサ自身は2018年に惜しくも亡くなっています。二人が一番、完成を望んでいたことでしょう。
牧師だった父のもとで、子供の頃からゴスペルを歌っていたアレサにとって、教会でのゴスペルライブは特別なものだったはず。序盤の緊張は画面を超えてこちらにまで伝染するほどですが、徐々に徐々に気持ちがノっていき、ボルテージが上がっていくのもわかります。後ろの聖歌隊のパッションもすごい。タイトルになっている「アメイジング・グレイス」の歌唱は、もう全身鳥肌ものです。
プロテスタントのゴスペルとは、神への祈り。奴隷制の時代に生まれた黒人たちの魂の叫びです。全身全霊で歌うアレサは神々しく、もしこの日この場にいたら、畏れさえ感じたのではないかと思います。
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そしてどちらの作品も、見どころはアーティストたちのパフォーマンスだけではありません。印象に残るのは、たくさんのカメラが捉えた観客の表情です。肩を揺らし、手を叩き、満面の笑顔と時には涙…ただ純粋に、目の前で演奏される音楽に全身で応えている姿に心を打たれます。ライブとは、観客がいて完成されるもの。デイヴィッド・バーンの言う「他者とのつながり」そのものなのだと気づかされるのです。
頻繁に海外アーティストのライブに出かけていた自分にとって、それが一切なくなってしまったことは、知らず知らずのうちにフラストレーションがたまっていました。「生」のエネルギーに満ち溢れた二本の映画を観て、この感動が足りなかったんだと思い知らされました。早くライブに行ける日が戻ってきますように。
皆さま、2021年の映画納めに、最高のライブ映画二本立てはいかがでしょうか。
アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン
Amazing Grace
■撮影 シドニー・ポラック
■映画化プロデューサー アラン・エリオット
■出演 アレサ・フランクリン/ジェームズ・クリーブランド/コーネル・デュプリー/チャック・レイニー/ケニー・ルーパー/パンチョ・モラレス/バーナード・パーディー/アレキサンダー・ハミルトン(聖歌隊指揮)
2018©Amazing Grace Movie LLC
【2021年12月25日から12月31日まで上映】
1972年に教会で行われた幻のライブが、49年を経てスクリーンに初登場! 音楽映画史に燦然と輝く、ソウル史上屈指のライブ・ドキュメンタリー
2018年8月16日、惜しくもこの世をさってしまった「ソウルの女王」アレサ・フランクリン。1972年1月13日、14日、ロサンゼルスのニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会で行われたライブを収録したライブ・アルバム「AMAZING GRACE」は、300万枚以上の販売を記録し大ヒット。史上最高のゴスペル・アルバムとして今も尚輝き続けている。その感動的な夜が遂に映像で蘇る。
コーネル・デュプリー(ギター)、チャック・レイニー(ベース)、バーナード・パーディー(ドラム)らに加えサザン・カリフォルニア・コミュニティ聖歌隊をバックに、アレサが自らのルーツである“ゴスペル”を感動的に歌い上げた今や伝説となっているこのライブは、実はドキュメンタリー映画としても撮影されていた。
監督を務めたのは、映画『愛と哀しみの果て』で知られアカデミー賞を受賞しているシドニー・ポラック。アルバム発売の翌年に公開される予定だったが、カットの始めと終わりのカチンコがなかったために音と映像をシンクロさせることができないというトラブルに見舞われ、未完のまま頓挫することに。しかしいま、長年の月日が経てテクノロジーの発展も後押しし、遂に映画が完成。音楽史を塗り替えたといわれる幻のライブが、日本で初めてスクリーンに登場する!
アメリカン・ユートピア
David Byrne's American Utopia
■監督 スパイク・リー
■製作 デイヴィッド・バーン/スパイク・リー
■撮影 エレン・クラス
■編集 アダム・ゴフ
■振り付け アニー・B・パーソン
■プロダクション・コンサルタント アレックス・ティンバーズ
■出演 デイヴィッド・バーン/ジャクリーン・アセヴェド/グスターヴォ・ディ・ダルヴァ/ダニエル・フリードマン/クリス・ギアーモ/ティム・カイパー/テンデイ・クーンバ/カール・マンスフィールド/マウロ・レフォスコ/ステファン・サン・フアン/アンジー・スワン/ボビー・ウーテン・3世
©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED
【2021年12月25日から12月31日まで上映】
デイヴィッド・バーン×スパイク・リー 目も眩むほどの幸福と感動のブロードウェイ・ショーがいま、幕をあける
映画の原案となったのは、2018年に発表されたアルバム「アメリカン・ユートピア」。この作品のワールドツアー後、2019年秋にスタートしたブロードウェイのショーが大評判となった。2020年世界的コロナ禍のため再演を熱望されながら幻となった伝説のショーはグレーの揃いのスーツに裸足、配線をなくし、自由自在にミュージシャンが動き回る、極限までシンプルでワイルドな舞台構成。マーチングバンド形式による圧倒的な演奏とダンス・パフォーマンス――元トーキング・ヘッズのフロントマン、デイヴィッド・バーンと11人の仲間たちが、驚きのチームワークで混迷と分断の時代に悩む現代人を”ユートピア”へと誘う。
この喜びと幸福に満ちたステージを、『ブラック・クランズマン』でオスカーを受賞し、常に問題作を作り続ける鬼才・スパイク・リーが完全映画化。ジョナサン・デミによるトーキング・ヘッズの傑作ライブ・ドキュメンタリー『ストップ・メイキング・センス』から36年。かつて誰も見たことのない、全く新しいライヴ映画が誕生した。
これは、更なる進化を続けるデイヴィッド・バーンからの、迷える今を生きる私たちの意識を揺さぶる物語であり、熱烈な人生賛歌である。
※本作は光に対して敏感なお客様がご覧になられた場合、光の点滅など、光感受性反応による諸症状を引き起こす可能性のあるシーンが含まれております。ご鑑賞いただく際にはあらかじめご注意ください。