【2021/6/1(土)~6/4(金)】<再上映>『鵞鳥湖の夜』『薄氷の殺人』/『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ(2D)』『凱里ブルース』

ミ・ナミ

『薄氷の殺人』『鵞鳥湖の夜』のディアオ・イーナン、『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』『凱里ブルース』のビー・ガン。今週は、中国現代映画を牽引する二人の監督の二本立てです。

中国映画界を世代別に分けたとすると、ディアオ・イーナン監督は第7世代を自称し、一方でフランスの著名な映画プロデューサーピエール・リシェントによれば、ビー・ガン監督はフー・ボー監督(大作『象は静かに座っている』を遺して命を絶った新鋭)と並び、さらに新しい第8世代に属するとされています。一方で、どこかこの4作品に親和性を見てしまうのです。ルックやテクニックには新奇性が満ち満ちていながら、涙がじんわりするような風景の懐かしさや男女のメロドラマは、古(いにしえ)と現代とがない交ぜになった、これまで観たことのない映画世界がスクリーンに表現されています。

そんなディアオ・イーナン監督とビー・ガン監督とで最もわかりやすく共通しているのは、魅惑的な女性のキャラクターです。ある者は事件の重要な鍵を握る不遇な女性として。ある者は水辺で体を売りながら強かに生き抜こうとする女性として。またある者は、誰かにとってずっと忘れられない象徴的な女性として。そしてある者は、異世界のように映る凱里へ誘う女性として――。全く違う監督の作品にもかかわらず、女性たちの姿はまるで軽やかにスクリーンを行き交い、それぞれが心地よい幻を見せるようにしているかのように感じます。「二本立てはいつも化学反応」。早稲田松竹で働く私が個人的にいつも思っていることですが、今週は特に、そう胸を躍らせています。

薄氷の殺人
Black Coal, Thin Ice

ディアオ・イーナン監督作品/2014年/中国・香港/109分/DCP/PG12/ビスタ

■監督・脚本 ディアオ・イーナン
■製作 ヴィヴィアン・チュイ/ワン・チュアン
■撮影 ドン・ジンソン
■編集 ヤン・ホンユー
■音楽 ウェン・ツー

■出演 リャオ・ファン/グイ・ルンメイ/ワン・シュエビン/ワン・ジンチュン/ユー・アイレイ/ニー・ジンヤン

■2014年ベルリン国際映画祭金熊賞・最優秀男優賞受賞

©2014 Jiangsu Omnijoi Movie Co., Ltd. / Boneyard Entertainment China (BEC) Ltd. (Hong Kong). All rights reserved.

【2021年6月1日から6月4日まで上映】

疑惑の女に堕ちていく――

1999年、中国の華北地方。6都市にまたがる15ヵ所の石炭工場で、ひとりの男の切り刻まれた死体の断片が次々と発見された。私生活に問題を抱えた刑事ジャンが捜査を担当するが、容疑者の兄弟が逮捕時に抵抗して射殺されたため、真相は闇の彼方に葬られてしまう。

そして2004年、しがない警備員となったジャンは、5年前と似た手口のふたつの殺人事件を警察が追っていることを知り、独自の調査に乗り出す。被害者たちは殺される直前、いずれも若く美しいウーという未亡人と親密な仲だった。そしてジャンもまた、はからずもウーに心を奪われていく…。

中国の気鋭監督ディアオ・イーナンが、独自のリズムと映像美で魅せるクライム・サスペンスの傑作!

『薄氷の殺人』はディアオ・イーナン監督の長編3作目。第64回ベルリン国際映画祭では、金熊賞(グランプリ)と銀熊賞(主演男優賞)をダブル受賞の快挙を達成。先鋭的なオリジナリティに世界が賞賛した。

主演は『戦場のレクイエム』『ライジング・ドラゴン』などで活躍するリャオ・ファンと、『藍色夏恋』『GF*BF』のグイ・ルンメイ。ふたりが体現する哀愁、官能、狂気をまとった罪深き愛のかたちは、ただならぬ凄みを発散し、観る者の胸をざわめかせ続ける。

本作の英語タイトル『BLACK COAL, THIN ICE』は、バラバラ死体の一部が発見される“黒い石炭”と、殺人現場となるスケート場の“薄氷”を意味し、中国語タイトル『白日焔火』は“白昼の花火”と訳される。まさしく苛烈な現実のなかに一瞬の幻のごとく“白昼の花火”がスクリーンに炸裂するラスト・シーンは、あらゆる観客を驚嘆させるに違いない。

鵞鳥湖の夜
The Wild Goose Lake

ディアオ・イーナン監督作品/2019年/中国・フランス/111分/DCP/PG12/ビスタ

■監督・脚本 ディアオ・イーナン
■撮影 トン・ジンソン
■美術 リュウ・チアン
■照明 ウォン・チーミン
■編集 コン・ジンレイ/マチュー・ラクロー
■音楽 B6

■出演  フー・ゴー/ グイ・ルンメイ/リャオ・ファン/レジーナ・ワン/チー・タオ

■2019年カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品

©2019 HE LI CHEN GUANG INTERNATIONAL CULTURE MEDIA CO.,LTD.,GREEN RAY FILMS(SHANGHAI)CO.,LTD.,

【2021年6月1日から6月4日まで上映】

孤独に溺れて、闇夜を彷徨う――

2012年、中国南部。再開発から取り残された鵞鳥湖の周辺地域は、ギャングたちの縄張り争いが激化していた――。刑務所を出所して古巣のバイク窃盗団に舞い戻った裏社会の男チョウは、縄張りをめぐる揉め事に巻き込まれ、逃走中に誤って警官を射殺してしまう。たちまち全国に指名手配され、警察の包囲網に追いつめられたチョウは、自らに懸けられた報奨金30万元を妻のシュージュンと幼い息子に残そうと画策する。

そんなチョウの前に現れたのは、妻の代理としてやってきたアイアイという見知らぬ女。リゾート地の鵞鳥湖で水浴嬢、すなわち水辺の娼婦として生きているアイアイと行動を共にするチョウだったが、警察の捜索を指揮するリウ隊長、報奨金の強奪を狙う窃盗団に行く手を阻まれ、後戻りのできない袋小路に迷い込んでいく……。

魅惑的な闇と色彩が渦巻く鮮烈なヴィジュアルで現代中国の暗部をえぐる、革新的ノワール・サスペンス

前作『薄氷の殺人』で圧倒的な評価を受け、フランスとの合作で製作された本作『鵞鳥湖(がちょうこ)の夜』は、中国の気鋭監督、ディアオ・イーナンの5年ぶりとなる待望の新作。ノワール調のアーティスティックな映像感覚がいっそう研ぎ澄まされ、警官殺しの逃亡者となった男と謎めいたファムファタールが織りなす危ういクライム・ストーリーから、一瞬たりとも目が離せない。

主人公チョウに扮し、破滅的な運命に魅入られた男のあがきを熱演するのは、ジャッキー・チェン主演の歴史的大作『1911』のフー・ゴー。『薄氷の殺人』で主演を務めたグイ・ルンメイとリャオ・ファンが、それぞれアイアイ、リウ隊長役で再共演を果たした。

さらに、前作に続いてイーナンとコンビを組んだ撮影監督トン・ジンソン、ウォン・カーウァイ監督作品『花様年華』『2046』の照明監督ウォン・チーミン、『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』の美術監督リュウ・チアンといった優れたスタッフも集結。中国の知られざるアンダーグランドの犯罪や社会の底辺で生きる人間たちの現実をあぶり出し、本国チャートで初登場2位を記録する大ヒットとなった。

凱里ブルース
Kaili Blues

ビー・ガン監督作品/2015年/中国/110分/DCP/ビスタ

■監督・脚本 ビー・ガン
■撮影 ワン・ティアンシン
■編集 クィン・ヤナン
■音楽 リン・チャン

■出演 チェン・ヨンゾン/ヅァオ・ダクィン/ ルナ・クォック/ユ・シシュ/シェ・リーシュン/クオ・ユエ/ルオ・フェイヤン

■第68回ロカルノ国際映画祭新進監督賞・特別賞受賞 ほか多数受賞・ノミネート

© Blackfin (Beijing) Culture & MediaCo., Ltd –
Heaven Pictures (Beijing) The Movie Co., –
LtdEdward DING – BI Gan / ReallyLikeFilms

【2021年6月1日から6月4日まで上映】

ポエティックな世界観の中に紡がれる、男の魂の彷徨。愛したひとたちの幻影を追って、彼が辿り着いた街とは…。

エキゾチックな亜熱帯、貴州省の霧と湿気に包まれた凱里(かいり)市の小さな診療所に身を置いて、老齢の女医と幽霊のように暮らすチェン。彼が刑期を終えてこの地に帰還したときには、彼の帰りを待っていたはずの妻はこの世になく、亡き母のイメージとともに、チェンの心に影を落としていた。さらにしばらくして、可愛がっていた甥も弟の策略でどこかへと連れ去られてしまった。チェンは甥を連れ戻すため、また女医のかつての恋人に想い出の品を届けるため、旅に出たのだが、辿り着いたのは”ダンマイ”という名の、過去の記憶と現実と夢が混在する、不思議な街だったーー

中国第8世代の最前線に立つ、ビー・ガン監督の衝撃のデビュー作!

『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』で日本初上陸を果たしたビー・ガン監督がその名を全世界に知らしめた驚愕のデビュー作『凱里ブルース』。自己資金と借金、周囲の援助で完成へと漕ぎつけた本作は、ロカルノ国際映画祭でお披露目されるや、各国のメディアやジャーナリストから驚きと称賛を持って向かい入れられた。その時の興奮を、後に「過去五年間で一番優れた中国国産映画」「中国映画を五十年進歩させる」と絶賛されたと新華社通信は伝えている。

40分間にわたって展開されるノーカットのロングショットで。主人公の魂の彷徨が哀愁と夢幻の世界の中に綴られる。ビー・ガン監督独自のスタイルが、このデビュー作で既に確立されていることに、観客は驚嘆するだろう。

ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ(2D上映)
Long Day's Journey into Night(2D)

ビー・ガン監督作品/2018年/中国・フランス/138分/DCP/ビスタ

■監督・脚本 ビー・ガン
■撮影 ヤオ・ハンギ/ドン・ジンソン/ダーヴィッド・シザレ
■編集 イエナン・チン
■音楽 リン・チャン/ポイント・スー

■出演 タン・ウェイ/ホアン・ジュエ/ シルヴィア・チャン/チェン・ヨンゾン/リー・ホンチー

■第71回カンヌ国際映画祭ある視点部門正式上映/第55回金馬奨撮影賞・音楽賞・音響賞受賞

★当館での上映は2D上映となります。

© 2018 Dangmai Films Co.,LTD, Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD – Wild Bunch / ReallyLikeFilms

【2021年6月1日から6月4日まで上映】

俺たちの夜は、あまりにも短い。

父親の死を機に、12年ぶりに故郷へ帰ってきた男。彼はその地で、若くしてマフィアに殺害された幼馴染みや、自分を捨てて養蜂家の男と駆け落ちした母親の記憶のかけらを拾い集めるように、想い出の街を彷徨っていた。

そして何より彼の心を惑わせたのが、ある運命の女のイメージだった。その女は、自分の名前を香港の有名女優と同じ、ワン・チーウェンだと言った。男はその女の面影を追って、現実と記憶と夢が交差する、ミステリアスな旅に出る——。

彗星の如く現れた新世紀の鬼才ビー・ガン監督が誘う後半60分間、驚異のワンシークエンスショット!

映画史上初めての試みである、2Dで始まった上映の途中から3Dへ(※当館では全編2D上映)、さらに一発勝負のロングショット撮影へ。俳優やスタッフたちの同時進行による息遣いまでもが聞こえてきそうな、スリリングでリアルなシーンの連続。この革新的な映像ギミックを駆使しているのは、2015年に『凱里ブルース』で彗星の如く現れ、弱冠26歳で稀代の天才と称されたビー・ガン監督だ。

ビー・ガン監督は瞬く間に国際的評価を獲得し、同年の新人監督に与えられる賞を総なめにしていった。その彼が3年の歳月を経てカンヌ国際映画祭で本作を発表。予想外の仕掛けとその完成度に映画のプロフェッショナルから驚嘆と賞賛の声が上がり、中国本土ではたった1日で41億円の興行収入を記録。全米でも30週に迫るロングランヒットを記録した。