“相棒”という言葉って、いいですよね。単に気が合うだけでなく、時には喧嘩したり、衝突したりすることもあるけれど、心の底で通じ合っている。ただの友達や恋人とはちょっと違う、“相棒”には、ふたりだけの特別ななにかがある気がします。今週は、そんな“スペシャルな相棒”が登場するとっておきのヒューマンドラマ二本立てです。
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パラグライダーの事故で全身麻痺になった富豪のフィリップは、車いす生活を送る日々。そんな彼のもとに介護士の面接を受けに来たのが、スラム出身の黒人青年ドリスでした。これだけでもわかる通り、このふたり、あらゆるところで正反対です。音楽の趣味から始まって、年齢も人種も、これまでの生き方も。でも、嘘が嫌いで、根っからの女性好きなところはふたりとも一緒でした。そしてドリスは常に、歯に衣着せぬまっさらな態度でフィリップに接します。自分のことを障害者としてではなく一人の人間として向き合うドリスに、フィリップは心を許していくのでした。
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妻の浮気現場に出くわし、相手の男にブチ切れてしまったパット。愛する妻からは去られ、教員の仕事も追われてしまいます。そんな時出会ったのが、近くに住むティファニー。彼女もまた事故で夫を亡くしたばかり。しかも深い悲しみから混乱し、職場の全員と関係を持つという奇行を起こしていました。このちょっとイカれたふたりのコンビは、やっぱりなかなかにハードです。ティファニーの激情型の行動にパットが振り回されたかと思えば、妻との思い出の曲(嫌な意味でも)を聴き、街中で暴れるパットをティファニーが助けたり…。ぶつかったり、励まし合ったりと忙しい彼らだけど、最愛の人を失った者同士、お互いの傷は痛いほどわかるのでした。
『最強のふたり』と『世界にひとつのプレイブック』。
どちらの作品も、世界中で公開され、ロングランを記録し、映画祭で数多くの賞を受賞しました。でもそれは障害や人種差別、心の病など万国共通の社会問題を扱っているからだけではありません。二本の作品に共通しているのは、そうゆうシリアスな辛いこともぜーんぶ飲み込んで笑いに変えてしまう、底抜けに明るいパワーなのです。それぞれの“スペシャルな相棒”は、思いっきり笑い、思いっきり怒り、さらには思いっきり踊ります! その姿のなんと気持ちいいこと!
『世界にひとつのプレイブック』の原題は「Silver Linings Playbook」。このSilver Liningsとは英語のことわざ、“Every cloud has a silver lining.”から来ているそう。意味は“どの雲にも銀の裏地(太陽の光)がついている”、つまり“悪いことの反面には必ず良いことがある”ということです。
どんな生い立ちや境遇でも、どんなに心が傷ついても、希望の光は必ず差す。そして支えてくれるパートナーとの出会いがある! 映画のもつミラクルな輝きが、私たちの心を明るく照らしてくれるでしょう。それにしても、、、こんな相棒、いたらいいなぁ!!

ビスタ)

全身麻痺で車いす生活を送る富豪フィリップは、介護士面接にやってきて開口一番「不採用のサインをくれ」と切り出したスラム出身の黒人青年ドリスをまさかの採用。そこから始まった異文化二人のセット生活。クラシックとソウル、高級スーツとスウェット、文学的な会話と下ネタ──全てにわたり衝突し続ける二人だが、偽善を憎み本音で生きる姿勢は同じだった。
それは、幸福な騒ぎだった。2011年にフランスで公開された映画が、ハリウッドの並み居る強豪をおさえて年間興収第1位に躍り出たのだ。「笑いも涙も止まらない」「予測不可能な展開に拍手喝采!」という絶賛の声が、たちまちヨーロッパ中に広がった。遂にはフランス映画の興行収入歴代3位に輝き、実にフランスの国民3人に1人が観たという大記録を樹立した。
ナカシュとトレダノの二人の監督が本作の基となるドキュメンタリーと出会ったのは2003年のこと。パラグライダーの事故にあって頸髄損傷になったフィリップと、彼を介護するために雇われた若者アブデル(本作ではドリス)を描いた作品だ。感銘を受けた二人はこの企画を温め続け、時が熟すのを待ってついに製作に乗り出した。そして映画が完成し、試写にやってきたフィリップとアブデル。上映中フィリップの椅子が動いているのを見たナカシュとトレダノは、彼が笑っているのだと思った。ところが、映画が終わると、彼は目に涙を浮かべていた。そして、「こんな状態になって、私は何年も前に鏡を見るのをやめた。久しぶりに自分の瞳を見たよ」と語り、「私は両手で拍手しているんだ!」と微笑んだ。アブデルはほほ笑み、監督たちに、ありがとう、と優しく言ったという。

最愛の人を失くして心が壊れた男女が立ち直ろうとするシリアスな物語のはずが、観客席は爆笑の嵐! そうこれは、常識を軽快に裏切る型破りの映画なのだ。監督・脚本は、アカデミー賞2部門を獲得した