今週の『ウインド・リバー』『ビューティフル・デイ』の主人公たちは、
過去の耐え難い経験によって深く心に傷を負っています。
そんな心を抱えながら
『ウインド・リバー』の主人公コリーは冷静なまなざしで、
凍てつき荒涼としたウインド・リバーの大地に、地に足をつけ生きていきます。
一方、『ビューティフル・デイ』の主人公ジョーは壊れた心のまま、
出口のない闇の世界をさまよい続けています。
二人の行く先にあるのは、隠された冷たく暗い世界の歪。
それでも、唯一そこに射す一筋の光は、
人と人との魂の共鳴ではないでしょうか。
たとえそれがいつ消えてしまうかも分からぬ、危うい光だとしても。
両作品を取り巻く今にも切れそうな張り詰めた糸は、
徐々に振動を帯び、観る者の五感をスリリングに刺激してゆきます。
今週の早稲田松竹は、極上の傑作サスペンス二本立てです。
ウインド・リバー
Wind River
(2017年 アメリカ 107分 ビスタ)
2019年1月5日から1月11日まで上映
■監督・脚本 テイラー・シェリダン
■撮影 ベン・リチャードソン
■編集 ゲイリー・D・ローチ
■音楽 ニック・ケイヴ/ウォーレン・エリス
■出演 ジェレミー・レナー/エリザベス・オルセン/ジョン・バーンサル/ギル・バーミンガム
■第70回カンヌ国際映画祭ある視点部門監督賞受賞
© 2016 WIND RIVER PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
雪深いアメリカの、ネイティブアメリカンが追いやられた土地“ウインド・リバー”で見つかった少女の死体――。新人捜査官ジェーン・バナーが単身FBIから派遣されるが、慣れない雪山の厳しい条件により捜査は難航。ジェーンは地元のベテランハンターで、遺体の第一発見者であるコリー・ランバートに協力を求め、共に事件を追うが、そこには思いもよらなかった結末が…。
全米4館でスタートした本作は口コミで話題を呼び拡大公開、6週連続トップテン入りのロングラン・ヒットを記録し、世界中の批評家に絶賛された。監督は、『ボーダーライン』『最後の追憶』でアカデミー賞脚本賞に連続ノミネートされるなど、アメリカに潜む問題を鋭く捉えてきたテイラー・シェリダン。監督デビューとなる本作では、舞台となるウインド・リバーで頻発する女性たちの失踪や性犯罪被害にインスパイアされ、その信じがたい現状を告発し、まさに今のアメリカに渦巻く闇を衝撃的なストーリー展開でえぐり出していく。
孤高のハンター・コリーをジェレミー・レナー、新人捜査官・ジェーンをエリザベス・オルセンが演じる。二人は“マーベル・シネマティック・ユニバース”のホークアイ、スカーレット・ウィッチ役で共演経験があり、両者の新たな“共闘”が実現したことも大きな話題となった。
ビューティフル・デイ
You Were Never Really Here
(2017年 イギリス 90分 ビスタ)
2019年1月5日から1月11日まで上映
■監督・製作・脚本 リン・ラムジー
■原作 ジョナサン・エイムズ「ビューティフル・デイ」(ハヤカワ文庫刊)
■撮影 トム・タウネンド
■編集 ジョー・ビニ
■音楽 ジョニー・グリーンウッド
■出演 ホアキン・フェニックス/ジュディス・ロバーツ/エカテリーナ・サムソノフ/ジョン・ドーマン/アレックス・マネット/アレッサンドロ・ニヴォラ
■第70回カンヌ国際映画祭脚本賞・男優賞受賞
Copyright © Why Not Productions, Channel Four Television Corporation, and The British Film Institute 2017. All Rights Reserved. c Alison Cohen Rosa / Why Not Productions
元軍人のジョーは行方不明の捜査を請け負うスペシャリスト。ある時、彼の元に舞い込んできた依頼はいつもと何かが違っていた。依頼主は州上院議員。愛用のハンマーを使い、ある組織に囚われた議員の娘・ニーナを救い出すが、彼女はあらゆる感情が欠落しているかのように無反応なままだ。そして二人はニュースで、依頼主である父親が飛び降り自殺したことを知る――。
主人公を演じるのは、アカデミー賞に3度ノミネートされた経験を持つホアキン・フェニックス。監督は前作『少年は残酷な弓を射る』で美しき母子の歪んだ関係性を描きセンセーションを巻き起こしたリン・ラムジー。二人はそれぞれカンヌ国際映画祭でフェニックスが男優賞、ラムジーが脚本賞を受賞するという2冠の快挙を達成した。
説明的な描写やセンチメンタリズムを排除し、徹底的に研ぎ澄まされたスタイリッシュな映像美を創出したリン・ラムジー監督の演出力は圧巻の一言。ジョーの痛切な内面を表現したフラッシュ映像、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドが手がけたソリッドな音楽と相まって、観る者の視聴覚をスリリングに刺激してやまない一作となった。