『女神の見えざる手』の主人公エリザベス・スローンは敏腕ロビイスト。 政治を影で動かす戦略のプロだ。 勝つ為には手段を選ばない。 内部の人間にも疑いの目を向け、ためらいもなく利用する。 彼女の正義はどこにあるのか、それは本当に正義なのか、 私たち観客にさえも分からなくなってしまうほどだ。 しかし、常に先手を打っていく彼女の仕事ぶりは実に鮮やか。 誰に何と言われようと、休む時間がなかろうと、一切気を抜かない。 他人と馴れ合うことも、誰かに甘えることもしない。 他人に厳しく、それ以上に自分にも厳しい。 そんな鉄のような女だが、 誰にも知られないところで、感情をむき出しにしたり、 睡眠抑制剤に頼っていたりと、ちょっとした弱さが見え隠れする。 その人間くささがあるから、惹きつけられるのだ。 こんな上司、近くにいたら絶対嫌なんだけど、 こんな人、友達にもしたくないけど… だけど、憧れてしまう。カッコいい女だ。
いっぽう、『ドリーム』では、『女神の〜』のエリザベスとは打って変わって、 とてもチャーミングな女性たちが主人公。 1960年代にNASAの研究所で宇宙開発の偉業を支えた、実在する3人の黒人女性数学者たちだ。 当時は宇宙開発に関わる難しい計算を人力で行っていた。 その計算手のチームには多くの黒人女性たちが従事しており、彼女たちもその一員。 当時の人種・女性差別が色濃く残る時代では、 ただの駒にすぎない扱いをされる。 それでも、自分たちの仕事に誇りを持ち、 前向きに仕事に取り組む姿はとても魅力的。 だけど、まじめ腐っていないところはもっと魅力的。 冒頭のシーンで、出勤途中に車が故障して、「もうこれ遅刻だわ」ってときでも、 どこかその場を楽しんじゃうような雰囲気が私はとても好きだ。 理不尽な差別に屈せず、人生を切り開いていく姿はとにかくかっこいい。
女性なら、「女性は女性らしく」なんて言葉、沢山耳にするだろう。 特に働く女性は、男女の壁にぶち当たることが少なくないはず。 たとえその壁が小さくなることはあっても、無くなることはないかもしれない。 だけど、それを不幸だと言わない強さを持てばいいのだ。 彼女たちが「女性らしさ」に囚われず、「自分らしく」働く姿が 多くの女性に勇気を与えるに違いない。 そして、そんな強い女に私もなりたい。
(もっさ)
女神の見えざる手
Miss Sloane
(2016年 フランス/アメリカ 132分 )
2018年4月28日から5月4日まで上映
■監督 ジョン・マッデン
■脚本 ジョナサン・ペレラ
■撮影 セバスチャン・ブレンコー
■音楽 マックス・リヒター
■出演 ジェシカ・チャステイン/マーク・ストロング/ググ・バサ=ロー/アリソン・ピル/マイケル・スタールバーグ/サム・ウォーターストン/ジョン・リスゴー
■第74回ゴールデン・グローブ賞主演女優賞ノミネート
©2016 EUROPACORP - FRANCE 2 CINEMA
大手ロビー会社の花形ロビイスト、エリザベス・スローン。勝つためには手段を選ばず、一切の妥協を許さない仕事ぶりは高く評価され、政府やメディアからも一目置かれる存在だった。ある時、銃擁護派団体から、新たな銃規制法案を女性の銃保持を認めるロビー活動で廃案に持ち込んでくれと依頼される。エリザベスはその仕事をきっぱりと断るが、その結果、上司から「依頼を断るなら、ここにいる必要はない」と言い渡される。
その夜、パーティに出席したエリザベスは、銃規制法案の成立に尽力する小さなロビー会社のCEO・シュミットから、一緒に闘わないかと誘いを受ける。次の日、エリザベスは部下を引き連れ、シュミットの会社へ電撃移籍。奇策ともいえる戦略によって、形勢を有利に変えていく。だが、巨大な権力をもつ銃擁護派団体や元同僚も負けてはおらず…。
真っ赤なルージュ、一流ブランドとハイヒールで武装し、天才的なひらめきと無敵の決断力で巨大な勢力を敵に回すロビイストの“女神”。これ以上ないほど強烈なインパクトの本作のヒロインを演じるのは『ゼロ・ダーク・サーティ』のジェシカ・チャステイン。観客の目もあざむく演技で新境地を拓き、ゴールデン・グローブ賞主演女優賞にノミネートされた。
政治家の心や世論を動かし、マスコミも操作し、世界を変える決断に深く関与する。そんなプロフェッショナル集団=ロビイスト。いったい彼らはどんな戦略を立て、その見えざる手で人々の心や巨大な権力すら操作するのか? 一瞬先も読めないロビイストたちの闘いを、アカデミー賞作品賞に輝いた『恋におちたシェイクスピア』のジョン・マッデン監督が、圧巻のエンタテインメントに仕上げている。
ドリーム
Hidden Figures
(2016年 アメリカ 127分 )
2018年4月28日から5月4日まで上映
■監督・製作・脚本 セオドア・メルフィ
■製作 ドナ・ジグリオッティ/ピーター・チャーニン/ジェノ・トッピング/ファレル・ウィリアムス
■撮影 マンディ・ウォーカー
■音楽 ハンス・ジマー/ファレル・ウィリアムス/ベンジャミン・ウォールフィッシュ
■出演 タラジ・P・ヘンソン/オクタヴィア・スペンサー/ジャネール・モネイ/ケビン・コスナー/キルスティン・ダンスト/ジム・パーソンズ/マハーシャラ・アリ/キンバリー・クイン/グレン・パウエル/オルディス・ホッジ
■2017年アカデミー賞作品賞・助演女優賞・脚色賞ノミネート/ゴールデングローブ賞助演女優賞・作曲賞ノミネート ほか多数受賞ノミネート
©2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
1961年、ヴァージニア州ハンプトン。ソ連との熾烈な宇宙開発競争を繰り広げるNASAのラングレー研究所には、ロケットの打ち上げに必要不可欠な“計算”を行うために、優秀な頭脳を持つ黒人女性のグループがあった。そのひとり、キャサリンは数学の天才的な実力を見込まれ、宇宙特別研究本部のメンバーに抜擢されるが、白人男性だけのオフィス環境は劣悪そのもの。同僚のドロシーとメアリーも、それぞれ理不尽なキャリアの壁に直面することに。それでも仕事と家庭を両立させながら夢を追い求めることを諦めなかった3人は、NASAの歴史的な偉業に携わり、自らの手で新たな扉を開いていく…。
1960年代初頭、アメリカが超大国の威信をかけて推進していた有人宇宙飛行計画を背景に、その“マーキュリー計画”において黒人の女性数学者たちが多大な貢献を成し遂げた史実を描き出した『ドリーム 』(原題:Hidden Figures)。彼女たちは、当時まだ色濃く残っていた人種差別に直面し、職場でさまざまな苦難に見舞われるが、卓越した知性、たゆまぬ努力、不屈のガッツで次々とハードルを突破していく。その驚くべきサクセスストーリーに、誰もが魅了されずにいられない!
2017年1月にアメリカで公開された本作は、あらゆる業界関係者も驚くほどの快進撃を見せた。それまで3週連続1位だった『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』を退け、全米興収首位を奪取。その後もロングラン・ヒットし、アカデミー賞では作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門ノミネートを果たした。