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今週の早稲田松竹は、中国映画の第六世代とその周縁の映画作家を特集します。彼らの共通点は、その撮影の主題や方法にあります。身近な題材を手持ちカメラでとらえるスタイルが映し出すのは、現代中国が抱える矛盾と歪みによる、痛みや悲しみ。社会批判を含む彼らの映画は、中国当局との軋轢を生むため、しばしばインディペンデントでの活動を余儀なくされます。しかし、自由とは押しこめられるほどに勢いが増すもの。権力の抑圧を受けてなおほとばしる才気に、ぜひ触れて頂きたく思います。

『青の稲妻』の主人公は、オリンピック開催決定の歓喜に沸く北京の喜びと喧騒からはほど遠い大同で、日々の幻滅をやり過ごす二人の若者。『一瞬の夢』は、当時のケ小平政権による治安強化活動“厳打”(イェンダー)が吹き荒れる中で、自身が「何者にもなれない」ことにいらだつ社会のはぐれ者。どちらの作品も、胸のくすぶりを抑えきれない彼らの不器用な恋と青春がすくい取られています。ジャ・ジャンクー作品に共通する小道具がテレビです。劇中で流れるテレビ番組は、世相の鏡であるとともに、物語の伏線でもあり、また痛烈な社会批判の道具として機能しています。また、『一瞬の夢』で主人公シャオ・ウーを演じた、当時はノンプロの役者だったワン・ホンウェイは、次作『プラットホーム』でも主役に抜擢。以降『青の稲妻』はもちろん、ジャ・ジャンク―作品に不可欠な常連俳優になります。

『鳳鳴(フォンミン)― 中国の記憶』は、静寂の中、雪を踏みしめる老婆をカメラが追うファーストシーンから、これから語られる苦難の物語がすでにはじまっているかのように、彼女=和鳳鳴(ホー・フォンミン)の背中には崇高な闘いの歴史が刻まれています。体制を批判する者を粛清した反右派闘争と文化大革命を生きた鳳鳴の半生は、自伝「経歴 我的1957」として著されています。それがこうしてワン・ビン監督によって「語りの映像」として表現されたとき、彼女の一言一言が立体的な重みを持ちます。そのずしりとした感覚は、観る者の心からいつまでも消えることがありません。

『天安門、恋人たち』は、豊かな詩情とむき出しのセックスシーンという、ロウ・イエ監督の主義が存分に満ちた作品です。原題「頤和園」とは北京に実在する広大な公園のことで、監督は「(主役の恋人たちである)ユー・ホンとチョウ・ウェイが最も美しい瞬間が、頤和園の池でボートに乗るシーンだったから」と語っています。多くの若者が犠牲となった1989年の天安門事件について、本作はそれほど描写を割きません。しかし、ささやかな青春のきらめきさえ守れなかった時代の混乱と残酷さは、ユー・ホンとチョウ・ウェイの愛の芽生えと終焉を通じて浮き彫りにされています。

今回ご紹介する4人の監督の中で、中国の現代人へ最も冷徹なまなざしを投げかけているのがリー・ユー監督の『ロスト・イン・北京』です。マッサージ店主とその従業員女性が肉体関係を持ち、生まれる子供を買いたい店主と、売りつけたい女性の夫との間で交わされる、露骨な金銭のやりとり。そこには、もはや旧来の家族制度は機能しない現実が垣間見えます。過度な拝金主義と希薄な人間関係の中で、しわ寄せは弱者へゆき、命は紙くずのように軽視されていく悲劇を、ぎりぎりのところでユーモアに昇華させ、苦い艶笑譚に仕上げた手腕は見事です。エンドロールにまで徹底しているアイロニカルな描写は、ストイックなまでの辛辣な姿勢がうかがえます。

(ミ・ナミ)

青の稲妻
任逍遥/Unknown Pleasures
(2002年 中国/日本/韓国/フランス 112分 35mm ビスタ/SR) pic 上映日 3/17(土)、20(火)、23(金) ■監督・脚本 ジャ・ジャンクー
■撮影 ユー・リクウァイ

■出演 チャオ・タオ/チャオ・ウェイウェイ/ウー・チョン/リー・チュウビン/チョウ・チンフォン/ワン・ホンウェイ

■2002年カンヌ国際映画祭パルムドールノミネート

© 2002 OFFICE KITANO LUMEN FILMSE-PICUTRES BITTERS END

★3日間上映

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中国の地方都市・大同(ダートン)。年上のダンサー・チャオチャオに恋をした19歳のシャオジイ。彼の親友で19歳のビンビンと受験生の恋人ユェンユェンは、まだキスさえしたことがない。都会の生活に憧れながらも、生まれ育った土地を離れられない。ニュースでは、WTO加盟やオリンピック開催決定など報じている。恋や現実に揺れ動きながら、未来を掴もうと手を伸ばす。まだ見ぬ享楽(Unknown Pleasures)を求め、疾走する彼らのココロは…。

『青の稲妻』は、急速に変化し続ける中国の地方都市に生きる2組のカップルを描く、切ない青春映画。変わりゆく社会に期待しながらも、目の前には大きな壁が立ちはだかる。それでも必死にもがき、走り続ける若者たちの姿を、ジャ・ジャンクー監督は鮮烈に切り取ってゆく。揺れ動く理想と現実、希望と不安…中国のみならず、世界中の人々の心に共感をもたらした傑作青春映画。

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一瞬の夢 ★ラスト1本割対象作品
小武/Xiao Wu
(1997年 中国/香港 108分 35mm SD/MONO)
pic 上映日 3/17(土)、20(火)、23(金) ■監督・製作・脚本 ジャ・ジャンクー
■撮影 ユー・リクウァイ

■出演 ワン・ホンウェイ/ハオ・ホンジャン/ズオ・バイタオ/マー・ジンレイ

■1998年ベルリン国際映画祭最優秀新人監督賞・最優秀アジア映画賞受賞/プサン国際映画祭グランプリ受賞/ナント三大陸映画祭グランプリ受賞ほか

©Hu Tong Communication

★3日間上映

スリに生きる青年が、ある日、心を盗まれた。
ジャ・ジャンクー27歳、驚愕のデビュー作!

スリで日銭を稼ぎ、所在なく日々を送る小武(シャオウー)。かつての仲間は更生し、もう彼を相手にさえしない。しかし、現実を受け入れられず、目標も定まらず、小武はスリを繰り返す。ある日、カラオケ・バーに行った彼は、メイメイという女性と出会う。静かに横で歌うメイメイの姿に心が騒ぐ小武。その時から、彼の中に人を愛する感情が芽生え始める…。

27歳にして長編デビューを果した、中国新世代の新たなる新鋭・賈樟柯(ジャ・ジャンクー)。『一瞬の夢』は、アンチ・ヒーローの物語を借りながら、経済発展の裏で失業者や犯罪者が増加している中国の厳しい現実の姿を背景に流し込み、そこに息づく人間の感情の機微が鮮烈に描かれている。舞台となった小さな地方都市、山西省・汾陽(フェンヤン)は監督の出身地でもある。

香港資本で製作し、そのため製作上の中国本土の検閲を逃れることができたという本作。ベルリン国際映画祭にて最優秀新人賞、最優秀アジア映画賞、ナント三大陸映画祭ではグランプリを受賞した。

ジャ・ジャンクー プロフィール

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鳳鳴(フォンミン)― 中国の記憶
和鳳鳴/Fengming: A Chinese Memoir
(2007年 フランス/香港 183分 bluray ビスタ) pic 上映日 3/18(日)、21(水) ■監督・脚本・撮影 ワン・ビン
■編集 アダム・カービー

■2007年カンヌ国際映画祭正式出品/山形国際ドキュメンタリー映画祭2007大賞受賞

© Wil Productions

★2日間上映
★1本立て上映のため、ラスト1本割引はございません。

恐ろしいほどに、シンプルで、巨大な映画である。
――リベラシオン紙

picひとりの老女が雪道を歩きアパートへ向かう。赤い服を身にまといソファーに腰を掛けた彼女の名は、和鳳鳴(ホー・フォンミン)。地方の新聞記者として働いて結婚したが、同じく記者である夫の執筆した記事が原因で右派分子のレッテルを貼られ、ふたりは別々の強制収容所へ送られてしまうことに。1950年代以降の中国で起きた反右派闘争や文化大革命の粛正運動で数々の迫害を受け、1974年に名誉回復するまでの、約30年にわたるひとりの女性の壮大な物語が綴られていく。

「私は母とともに農村で育った。母はいつも畑で働いていて、私も子どもの頃よく畑仕事を手伝った。子どもだった私は、村で開かれる“闘争”大会をよく見に行き、再教育のために村に送られた“悪質分子”が批判される様子を見ていた。私にとって、鳳鳴の記憶は、とてもリアルに感じられる。彼女は教養のある自立した老婦人で、真の意味であの時代の代弁者だ。」
――ワン・ビン監督インタビュー

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ロスト・イン・北京
苹果/Lost in Beijing
(2007年 中国 109分 bluray ビスタ)
pic 上映日 3/19(月)、22(木) ■監督・脚本 リー・ユー
■共同脚本 ワン・リー
■撮影 ワン・ユー
■編集 ズン・ジエン
■音楽 ペイマン・ヤザニアン

■出演 ファン・ビンビン/レオン・カーフェイ/トン・ダーウェイ/エイレン・チン/ツアン・メイホイツ

©LAUREL FILMS

★2日間上映

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picピングォはマッサージ師として働きながら、夫アン・クンと貧しいが楽しい都会生活を送っている。ある日、ピングォはしたたかに酔ってしまい、勤務先のマッサージパーラーのオーナー、リン・トンと誤って関係を持ってしまう。しばらくしてピングォは妊娠したことを知るが、夫の子かリン・トンの子か分からない。リン・トン夫妻には子供がなく、リン・トンはアン・クンと、生まれた子の血液型で自分の子と判明したら、子供を引き取り二人には多額の報酬を払う約束をするが――。

2008年のベルリン映画祭コンペティション部門出品作。経済発展著しい現代中国の拝金主義を戯画的に浮き彫りにし、高い評価を得た作品である。中国のトップ女優、ファン・ビンビンの体当たりの演技と、中国の格差社会を描いたそのテーマ性から、中国国内ではカット版の上映を余儀なくされ、その後上映禁止処分になった。

リー・ユー プロフィール

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天安門、恋人たち ★ラスト1本割対象作品
頤和園/Summer Palace
(2006年 中国/フランス 140分 35mm R-18 ビスタ/SRD) pic 上映日 3/19(月)、22(木) ■監督・脚本・編集 ロウ・イエ
■脚本 メイ・フォン/イン・リ
■撮影 ホァ・チン
■編集 ツアン・チアン
■音楽 ペイマン・ヤザニアン

■出演 ハオ・レイ/グオ・シャオドン/フー・リン/チャン・シャンミン/ツゥイ・リン

■2006年カンヌ国際映画祭パルムドールノミネート

© LAUREL FILMS/DREAM FACTORY/ROSEM FILMS/FANTASY PICTURES 2006.

★2日間上映

1989年、6月。
自由を求める炎の中で、私はあなたに夢中だった――
鬼才ロウ・イエが激動の中国現代史を背景に描く
恋人たちの心の旅

1987年、中国東北地方から北京の大学に入学した美しい娘ユー・ホン。そこで彼女を待っていたのは運命の恋人チョウ・ウェイとの出会いだった。折しも学生たちの間には自由と民主化を求める嵐が吹き荒れていた。そんな熱気のなかで狂おしく愛し合い、そして激しくぶつかり合うふたり。しかし1989年6月の天安門事件を境に、恋人たちは離ればなれになってしまう――。

picすれ違い、遠く離れ、また近づいていく恋人たちの姿を、中国社会が激しく揺れ動いた80年代末から2000年代初頭を背景に描いた『天安門、恋人たち』。2006年のカンヌ国際映画祭で上映されると、すぐさま大きな物議を醸した。その理由は、中国国内では未だに公にその話題を取り上げることすらできない天安門事件が作中で扱われているためである。さらに本作には、中国映画としてはかつてない過激な性描写が含まれている。

『天安門、恋人たち』はカンヌでの上映の後、政府当局から「技術的に問題がある」という理由で中国国内での上映禁止と監督の5年間の表現活動禁止という処分が言い渡された。

ロウ・イエ プロフィール

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