今週の早稲田松竹は『日本で一番悪い奴ら』と『葛城事件』。
この二本の映画では、明らかに犯罪であるにも関わらず、
飄々とその渦中に身を置いてしまった人々が描かれています。
加速的に人生を悪の道に転げ落し、汚職事件を起こしてしまう諸星要一。
無差別殺傷事件を犯し、反省や弁明すらしない葛城稔。
彼らはなぜ事件を起こしてしまったのか。
この映画で語られる出来事は、事件の顛末であるとともに、彼らの青春物語であったり、家族の物語であったりします。
そこには、純粋でどこか誠実でさえある彼らの姿を見つけることができます。
どこから(平気で人を殺すことができる)犯罪者になったのか。
映画はそれを私たちは定めることができないということを証明しようとしているのかもしれません。
あるいは、わたしたち自身もいつそうなるのか分からないと、警鐘を鳴らしているのかもしれません。
渦中にいる登場人物たちも、自分に起きている変化には気づいていないのです。
実際に起きた事件を扱いながらも、ある意味では虚構を恐れずに描く『日本で一番悪い奴ら』に対して、
赤堀雅秋監督の『葛城事件』は実際に起きた事件をベースにしているとはいえ、設定はすべて独自に作られたものです。
それでいて、この心情のリアルさ。人が変わるときには一瞬で簡単に変化してしまう様子を簡単に描いてしまいます。
この「簡単さ」が登場人物たちに大きな説得力を持たせて、わたしたちを驚かせるのです。
パワフルなエンタテインメント作品として、和製ギャング映画を構想したという白石和彌監督の『日本で一番悪い奴ら』。
監督は欲望は当然持つべきものとして、彼らの行いを魅力的に描くことを惜しみません。
当然彼らが行きつく先には大きな現実が待っているでしょう。
事件の発覚は物語のカタストロフィとして、私たちに言いようのない余韻を残します。
この余韻や登場人物たちの存在感は、観たあとの私たち自身を見つめ返す力に変わります。
ふと思い出してしまう瞬間があるような、そんな心の隙間に入ってくるような映画たち。
「事件の素顔、何が彼をそうさせたか。」と題してお届けします!
葛城事件
(2016年 日本 120分 ビスタ)
2016年11月19日から11月25日まで上映
■監督・脚本 赤堀雅秋
■撮影 月永雄太
■音楽 窪田ミナ
■出演 三浦友和/南果歩/新井浩文/若葉竜也/田中麗奈
©2016『葛城事件』製作委員会
抑圧的で思いが強い父親。長男はリストラされ孤立。妻は精神を病む。次男は無差別殺傷事件を起こし、死刑囚に。そして、死刑反対の立場から次男と獄中結婚した女――。壮絶な、ある家族の物語。
2012年に『その夜の侍』で監督デビューを果たし、国内外で高い評価を得た赤堀雅秋。本作は、2013年に赤堀の作・演出で劇団THE SHAMPOO HATにより上演された同名舞台の映画化。今回の映画化にあたり、自身が新たに改稿した。
主人公の葛城清役には三浦友和。理想の家族を求めながらも、崩壊へと向かわせてしまった父親を鬼気迫る迫力で演じている。そして、その家族に南果歩、新井浩文、若葉竜也、さらに獄中結婚する女性に田中麗奈と実力派俳優が集結し、問題をそれぞれに抱え極限に立たされていく家族を演じている。
凄惨な殺傷事件の背後にある加害者家族の隠された闇。人間の心の暗部を徹底したリアリティをもって丁寧に描き出し、観る者の心を鋭く抉る濃密な人間ドラマが完成した。
日本で一番悪い奴ら
(2016年 日本 135分 シネスコ)
2016年11月19日から11月25日まで上映
■監督 白石和彌
■原作 稲葉圭昭「恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白」(講談社刊)
■脚本 池上純哉
■撮影 今井孝博
■音楽 安川午朗
■出演 綾野剛/YOUNG DAIS/植野行雄/矢吹春奈/青木崇高/木下隆行/音尾琢真/ピエール瀧/中村獅童
©2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会
大学時代に馴らした柔道。その腕っ節の強さを買われ、北海道警・刑事となった諸星要一。強い正義感を持ちながらも、うだつの上がらない日々を過ごしていた。ある日、署内随一の敏腕刑事・村井から刑事の“イロハ”を叩き込まれる。それは「刑事は点数。点数稼ぐには裏社会に飛び込み、S(スパイ)をつくれ。」というものであった。言われるがままに“S”を率い、規格外の捜査に突き進む諸星だが――。
<日本警察史上最大の不祥事>と呼ばれる驚愕の実際の事件をモチーフに、北海道警察・刑事の壮絶な26年間が描かれる。主演には、今最も出演が熱望される俳優・綾野剛。“S”と呼ぶ裏社会のスパイを率い、あらゆる悪事に手を染めた道警の警察官・諸星要一を演じる。諸星を慕う“S”には、中村獅童、YOUNG DAIS、植野行雄(デニス)。さらに諸星の先輩刑事をピエール瀧が演じるなど、豪華出演陣が集結した。監督は、メジャーデビュー作となる『凶悪』('13)が、国内の各映画賞を総ナメにした白石和彌が務める。
「正義の味方、悪を絶つ」の信念のもと、規格外の捜査をまっとうしていく諸星が辿り着く先は――。日本一ワルな警察官と裏社会のワルたちのタッグが巻き起こす“ヤバすぎる事件”を描いたエンターテインメントが誕生した!