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都会に出たものの居場所を見つけられず、生まれ故郷に戻ってきた女性が、自分自身を見つめなおしていく――。『リトル・フォレスト』はどこにでも転がっているような、ありふれた小さな物語。でもその小さな物語には、確かな幸福感が詰まっています。

主人公・いち子の毎日はいたってシンプル。田んぼや畑で農作物を育てて汗をかき、日々の食事をつくって、食べる。たまに集落の人から請け負ったアルバイトをして(鴨の解体作業とか)、友人と他愛のないおしゃべりをする。テレビもパソコンもなく、娯楽といえば本を読むことくらい。映画はそんないち子の日常を映し出します。

彼女がつくる四季折々の素材を活かした料理はどれもとてもおいしそうです。真夏の農作業の後に飲む米サワーなんてぜひ飲んでみたいし、しょうゆベースの自家製ウスターソースはどんな味がするのだろうとわくわくします。秋に集落の人たちの間で流行ったという栗の渋皮煮は、小腹がすいたときにちょうど良さそう。移り行く自然のなかで、色とりどりさまざまな料理たちが、リズミカルにつくられていきます。

「育て、つくり、食べる」。とりたてて大きなストーリーがあるわけではないのに、いつの間にか引き込まれていきます。淡々と流れる彼女の生活のリズムに、だんだんこちらもなじんできて、その空気感が心地良くなってくるのです。いつまでも観ていたくなるような、美しい音楽をずっと聴いているような気持ち。

もちろん、自給自足のシンプルライフを送ってハッピーという映画ではありません。「自分は、今のままでいいのだろうか」という切実な悩み。そんな誰でも一度は感じる迷いを持ち、葛藤し続けているいち子の姿が描かれるからこそ、わたしたちは深く共感し、彼女を応援したくなってくるのです。

小さな物語が終わり、エンドロールの後(エンディング曲は春夏秋冬4作すべて違うのでぜひ最後までご鑑賞を!)、劇場の明かりがつくと、なんだか体が軽くなっています。悪いものすべてが流れ出ていったような不思議な感覚。そして幸福な気持ちがじわじわっと体中に広がってくるのです。とても静かに、確かに、心を満たしてくれる『リトル・フォレスト』全4部作。ぜひご覧ください。 (かわうそ)

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pic 言葉はあてにならないけど、
私のからだが感じたことは信じられる。

“小森”は東北のとある村の中の小さな集落。いち子は一度都会に出たけれど、自分の居所を見つけることができず、ここに帰ってきた。近くにスーパーやコンビニもない小森の生活は自給自足に近い暮らし。稲を育て、畑仕事をし、周りの野山で採った季節の食材から、毎日の食事をつくる。夏は畑でとれたトマトを使ったパスタや麹から作った米サワー、秋には山で採ったくるみの炊き込みごはん、栗の渋皮煮、冬は温かいひっつみや、小豆を入れて焼いたマフィン、春はふきのとうを使ったばっけ味噌、春キャベツのかき揚げ――

四季折々に様々の恵みを与える一方で、厳しさも見せる東北の大自然。時に立ち止りながら、自分と向き合う日々の中で、いち子は美味しいものをもりもり食べて明日へ踏み出す元気を充電していく…。

自然の恵みを食べて、生きる力を充電する春夏秋冬の4部作

原作は「月刊アフタヌーン」に連載された五十嵐大介の人気コミック。生きるために食べ、食べるために作る。全てがひとつながりになったシンプルな暮らしの中で、自分の生き方を見つめなおしていく主人公の姿を描き、高い評価を得ている。映画では、美しい四季の移ろいを映しとるため、約1年間に渡って岩手県奥州市にてオールロケを敢行。春夏秋冬の4部作として完成させた。

監督・脚本を務めたのは『Laundry』『重力ピエロ』の森淳一。主人公・いち子を演じるのは、『桐島、部活やめるってよ。』『寄生獣』の橋本愛。いち子の幼馴染役には、同じく『桐島、部活やめるってよ。』の松岡茉優、『サムライフ』をはじめ今年主演作が目白押しの三浦貴大ら、若手実力派が揃った。 また、いち子が畑や周りの野山で採ってきた旬の食材を使って作る食事も見どころのひとつ。女性から絶大な支持を得る野村友里率いる「eatrip」チームのディレクションにより、原作に登場する料理が忠実に再現されている。

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リトル・フォレスト 夏・秋/冬・春
(2014-2015年 日本 夏・秋:111分/冬・春:120分 DCP ビスタ)
2015年5月30日から6月5日まで上映
■監督・脚本 森淳一
■原作 五十嵐大介「リトル・フォレスト」(講談社刊『月刊アフタヌーン』所載)
■フードディレクション eatrip
■撮影 小野寺幸浩
■編集 瀧田隆一
■美術 禪洲幸久
■音楽 宮内優里
■主題歌 FLOWER FLOWER「春」「夏」「秋」「冬」(gr8!records)

■出演 橋本愛/三浦貴大/松岡茉優/温水洋一/桐島かれん

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