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お気に入りの小説が映画化されることに、期待を抱く人は多いだろう。
そして楽しみに劇場へ足を運び、ガッカリした経験のある人も少なくないと思う。
大部分を読者のイメージに任せている小説と違い、映画はそれを具体化し、固定しなければならない。
それゆえ、原作ファンからイメージがぶち壊された!と非難ごうごう、そんな事態も起こり得る。

でも、だからって駄作だと決めつけられてしまうのは悲しいし、もったいない。
原作のある映画には、それなりの楽しみ方というのがあるんじゃないだろうか。

芸術というのはそれぞれ、その媒体でしか表現できない特性を持っている。
小説には小説でしか表現しえないもの、映画には映画でしか表現しえないもの。
だから、映画は最初から映像的発想で製作されるべきであって、
それによる新たな世界を味わうことが、原作付き映画の楽しみ方のひとつであると思うのだ。

ただし、そもそも原作へのリスペクトに欠いたものが論外であることは言うまでもないが…
憂うことなかれ。今回上映する2本はいずれもある作家の小説が映画化されたもの。
そして、そこには製作者の思い入れと、原作者の信頼が息づいていた。

その作家の名は伊坂幸太郎。

第5回新潮ミステリー倶楽部賞
第25回吉川英治文学新人賞
第57回日本推理作家協会賞短編部門
平成17年度宮城県芸術選奨文芸部門
第5回本屋大賞、第21回山本周五郎賞
そして5度の直木賞候補

読者の熱烈な支持を集め、話題をさらい続けてきた。
今や日本文学会を代表するベストセラー作家である。
続々と彼の作品が映画化される中で見えてきたのは、
彼が「人々に愛されている作家」であるというひとつの事実だった。

監督と伊坂の信頼関係
映画化したいという脚本家の熱い想い

原作の軽妙な語り口、重厚なテーマ、印象的なフレーズ…
伊坂小説の核を大切に残した上で、映像という新しい魂が吹き込まれている。
新しい伊坂ワールドの完成だ!なんて頼もしいんだろう。

もちろん、原作を知らない人は、映画だけ楽しんだっていいし、
映画の次に原作を読んでみてもいい。
実りの秋、読書の秋、映画の秋なのだから。
小説と映画のステキな関係を、是非味わって頂きたい。

フィッシュストーリー
(2009年 日本 112分 ビスタ・SR)

pic 2009年10月17日から10月23日まで上映 ■監督 中村義洋
■原作 伊坂幸太郎『フィッシュストーリー』
■脚本 林民夫
■音楽 斉藤和義

■出演 伊藤淳史/高良健吾/多部未華子/濱田岳/森山未來/大森南朋/渋川清彦/大川内利充/江口のりこ/眞島秀和/山中崇/波岡一喜/高橋真唯/石丸謙二郎

「フィッシュストーリーが、いつか世界を救うんだよ」そして迎えた2012年、それは地球滅亡の日―

1975年、20世紀の伝説的バンド、セックス・ピストルズが世界中にパンク・ムーブメントを巻き起こす1年前…知られざるパンクバンドが、ここ日本に存在した。まったく売れずに解雇を余儀なくされた彼らの名は「逆鱗」(ゲキリン)。最後のレコーディングの日、彼らは渾身の一発録りで“FISH STORY”を録音する。自分たちの音楽を信じている。今は理解されなくても、いつかきっと誰かに届くはずだと願って…。

pic全く関係の無い人々や出来事が、時空を超えて結びつく。かつて売れずに終わったその1曲によって……――1982年、「今日私と出会う男は、世界を救う男」…そう予言された気弱な大学生。2009年、正義の味方になりたかったコックと、シージャックに巻き込まれた修学旅行中の女子高生――……そして来る2012年、彗星衝突まであと5時間!全てが1つになった時、果たして地球は救われるのか?小気味よいテンポにのせて、爽快なラストが劇場を包む。

「アヒルと鴨のコインロッカー」から2年中村義洋監督チームが、再び伊坂ワールドに挑んだ

本作の映画化が決定したのは、同じく伊坂幸太郎原作・中村義洋監督の映画「アヒルと鴨のコインロッカー」の試写が終了した直後だったという。伊坂はこの映画を絶賛、中村は是非もう一度と意気込んだ。まだ単行本にもなっていない「フィッシュストーリー」を勧めたのは、他でもない伊坂本人だった。2人の信頼関係を物語るエピソードである。

pic脚本は「ルート225」で中村と共同作業の経験がある林民夫が手がけた。もとは短編集だった原作を1つのストーリーに繋げ、大胆でシリアス、かつ軽快な世界観を書き起こした。音楽は幅広い世代から絶大な支持を得る斎藤和義が担当。伊坂とも交流のあった斎藤は、原作にあるたった4行の歌詞から“FISH STORY”を完成させた。

伊坂の軽快な語り口をそのままに、映画独自の彩りと展開を。中村義洋監督チームの仕事ぶりに要注目だ。


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重力ピエロ
(2009年 日本 119分 ビスタ・SRD)

pic 2009年10月17日から10月23日まで上映 ■監督 森淳一
■原作 伊坂幸太郎『重力ピエロ』
■脚本 相沢友子

■出演 加瀬亮/岡田将生/小日向文世/吉高由里子/岡田義徳/渡部篤郎/鈴木京香

「本当に深刻なことこそ、陽気に伝えるべきなんだよ」

pic自称ピカソの生まれ変わりの弟「春」と、遺伝子の研究をする大学院生の兄「泉水」。壁に書かれた落書き(グラフィティーアート)を消す仕事をする春は、最近頻発している放火が自分の消した絵の近くで起こることに気付く。壁に描かれた文字が犯人からの暗号だと泉水に相談する春。やがて、文字の頭文字が遺伝子の文字列と一致することが判明した。

そんな中、泉水の元にある知らせが届く。24年前に起こったある事件の犯人がこの地に戻ってきたのだ。その被害者のうちの1人・梨江子は、今は亡き春と泉水の母親であった。泉水はこっそりと犯人を追跡し、DNA鑑定を行う。7年前の事件、母の死、明かされる秘密、家族の絆、父の病気、ストーカーの女性。そしてまた上がる火の手。

人生はとめどなく流れて、楽しいことばかりではない。それでも、光も闇もない世界なんて有り得ない。何が真実で、何が正義で、何が家族で、何が愛か…。家族の謎が明かされた時、未知の感動が溢れ出る。

伊坂幸太郎絶賛!人々に愛された小説が、ここに花開く―

pic「重力ピエロ」は、伊坂幸太郎の著作の中でも最も支持されている作品の一つだ。ファンサイトやSNSサイトの人気投票では堂々の1位を獲得。伊坂本人にとっても思い入れが強い作品だけに、映画化に対してはあまり乗り気ではなかったようだ。しかしいざ出来上がってみると、伊坂は大絶賛を寄せたのである。

映画化を押し進めた脚本・相沢友子、荒木美也子・守屋圭一郎プロデューサー、映画化してみたいと思える作品にようやく出会えたと語る森淳一監督。「フィッシュストーリー」同様、人々の熱意なしには完成し得なかっただろう。

数々の受賞歴を持ち、日本を代表する俳優へと成長した加瀬亮、近年著しい活躍をみせる新鋭の若手・岡田将生、数々の実績を誇る演技派・小日向文世、鈴木京香など、ファン注目のキャスト陣にも実力者が揃った。

(ザジ)


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