1907年パリ生まれ。兵役を終えラグビーの名門クラブに加入し、この頃から劇場で無声喜劇に出演し始める。46年に短編『郵便配達の学校』を初監督、49年に『のんき大将 脱線の巻』で長編デビュー。
『ぼくの伯父さんの休暇』('53)でタチの代名詞となる「ユロ氏」のキャラクターを確立し、続く『ぼくの伯父さん』('58)は世界的大ヒットとなる。それを受け製作された超大作『プレイタイム』('67)はしかし、巨額の製作費と興行の惨敗により自身の作品の権利も手放すことになった。
失意のなかいくつかの短編や『トラフィック』('71)、遺作となった『パラード』('74)を撮りあげる。82年11月4日死去。
乱暴者を求む('34)脚本/出演
陽気な日曜日('35)脚本/出演
左側に気をつけろ('36)脚本/出演
乙女の星('45)出演
肉体の悪魔('47)出演
郵便配達の学校('47)監督/脚本/出演
のんき大将脱線の巻('49)監督/脚本/出演
新のんき大将('49)監督/脚本/出演
ぼくの伯父さんの休暇('52)監督/脚本/出演
ぼくの伯父さん('58)監督/脚本/台詞/出演
プレイタイム('67)監督/脚本/出演
ぼくの伯父さんの授業('67)脚本/出演
トラフィック('71)監督/脚本/出演
パラード('74)監督/製作/脚本/出演
フォルツァ・バスティア'78/祝祭の島('00)監督
イリュージョニスト('10)オリジナル脚本
今回お送りする特集は、フランスの偉大な映画作家ジャック・タチ監督です。
軽やかな風が吹き抜けるような彼の作品ですが、よく見れば見るほど、その作品にこめられた視覚的・音響的創意工夫の途方もない緻密さや、人間洞察の鋭さに驚かされると思います。
『ぼくの伯父さんの休暇』は、タチの代名詞となったキャラクター「ユロ氏」を生み出しただけでなく、その後の作品でも顕著な独特のサウンドのあり方を確立した点でも革新的な作品です。ちなみに、日本公開順が前後したのでややこしい邦題がついていますが、原題は「ユロ氏の休暇」といい、『ぼくの伯父さん』よりも先に製作された作品です。
本作では、タチ演じるユロ氏の飄々とした振る舞いも愉快なのですが、監督としてのタチは、むしろユロを通して周囲のキャラクターたちのおかしみに私たちの目を向けさせます。実際に日頃から街中の人々の観察を怠らなかったというタチは、人間の何気ない仕草からチャーミングなおかしさを引き出していく天才です。
登場人物たちが海辺を去っていくラストを迎える頃には、彼らとひと夏のバカンスを共有した充実感と、それと共に去来する切なさに胸を締めつけられるはず。コメディでありながら観客に無理に笑いを強要しない、リラックスした独特の時間感覚はタチ作品の真骨頂です。
次作『ぼくの伯父さん』で描かれるのは、ノンシャランとマイペースに生きるユロ氏が、オートメーション化された邸宅や就職先の工場で巻き起こす騒動を描いたコミカルな物語です。念願だったカラー撮影が実現したこともあり、タチの完璧主義はここでひとつの到達点に達します。
この作品のために建てられたシュールなオープンセットも圧巻ですが、奇抜なインテリアから道端のひしゃげたゴミ箱に至るまで、画面の隅々まで周到に配慮された色彩センスや、無数の犬にまでも自然な名演を披露させる演出力は、もはや神業としかいいようがありません。エスプリに富んだ人物描写やキュートな音響設計も冴え渡り、リアリズムから絶妙にズレた、とぼけたユーモアと遊び心にあふれた不思議な世界が広がります。
フランソワ・トリュフォーからデヴィッド・リンチ、シルヴァン・ショメから細野晴臣にいたるまで、世界中の数えきれない映画作家やクリエイターが魅了され、オマージュを捧げてきたジャック・タチ監督。今回上映するのはそのエッセンスのつまった上記代表作2本+短編3本です。映画史上の宝石のようなその輝きに、ぜひスクリーンで触れてください!
(ルー)
LES VACANCES DE MONSIEUR HULOT
(1953年 フランス 89分 SD) 2015年2月21日から2月27日まで上映
■監督・脚本・出演 ジャック・タチ
■脚本 アンリ・マルケ
■撮影 ジャン・ムーセル/ジャック・メルカントン
■出演 ナタリー・パスコー/ルイ・ペロー/ミシェル・ローラ
■ルイ・デリュック賞受賞/カンヌ国際映画祭国際批評家賞受賞
とある海辺のリゾートホテル。バカンス客たちは海水浴に、テニス、乗馬、ピクニックを楽しんでいる。そこにボロ車でやってきたユロ氏。なぜだか彼の行くところ全てで騒動が巻き起こり…。
長編第2作目にして、「世界に通じる表現」を求めてタチが生み出した「ユロ氏」の記念すべきデビュー作。チロル帽にパイプ、個性的な歩き方、モゴモゴとしか話さないユロ氏。本作で観る人次第で無数の筋立てと結末があるという独自の喜劇世界を創出した。
MON ONCLE
(1958年 フランス/イタリア 116分 SD) 2015年2月21日から2月27日まで上映
■監督・脚本・台詞・出演 ジャック・タチ
■脚本 ジャック・ラグランジュ
■音楽 アラン・ロマン/フランク・バルチェッリーニ
■出演 ジャン=ピエール・ゾラ/アドリエンヌ・セルヴァンティー
■アカデミー賞最優秀外国語映画賞受賞/カンヌ国際映画祭審査員特別賞受/ニューヨーク映画批評家協会年間ベストテン選出/フランス映画批評家協会メリエス賞受賞
プラスチック工場を経営するアルベル氏の邸宅は、至る所が自動化された超モダン住宅。そこにはユロ氏の姉である夫人と息子のジェラールが暮らしている。ジェラール少年は堅苦しい自宅にいるよりユロ伯父さんと遊ぶのが大好き。だが、夫妻は下町暮らしで無職のユロ氏が心配で仕方がない。就職やお見合いを世話しようとするが…。
「ユロ伯父さん」の日常を描いた長編第3作目。大胆な色彩設計にもとづく大掛かりなセットを建設しカラー撮影を敢行した。米国流の効率や成長重視の姿勢に対する批評的な視線も鋭く、世界的な監督としての地位を確立した記念碑的作品。興行的にも大成功を収め、タチ=ユロ伯父さんのイメージを決定づけた。