監督・脚本■テレンス・マリック
1943年、アメリカ合衆国イリノイ州オタワに生まれる。
ハーバード大学やオックスフォード大学で哲学を学び、マサチューセッツ工科大学で教える傍ら、ニューズウィーク誌などでジャーナリストとしても働いた。
その後、アメリカ映画協会で映画技術を学び、1972年にポール・ニューマン主演「ポケット・マネー」で脚本家として映画界に入り、73年の「地獄の逃避行」が初監督作品となった。
78年の「天国の日々」でカンヌ国際映画祭監督賞を受賞したが、その後監督業から離れ、フランスで教鞭をとる。20年後の98年「シン・レッド・ライン」でカムバックし、ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞。2005年の「ニュー・ワールド」を経て、2011年「ツリー・オブ・ライフ」で見事カンヌ映画祭パルム・ドールに輝いた。
アカデミー賞授賞式や各種映画祭には出席せず、またメディアへの露出もほとんどない。寡作の映画監督と知られていたが、2012年の「トゥ・ザ・ワンダー」を皮切りに、4本の新作が公開される予定である。
・ポケットマネー(72)<未>脚本
・地獄の逃避行(73)<未>脚本/監督/製作
・天国の日々(78)脚本/監督
・シン・レッド・ライン(98)監督/脚本
・至福のとき(02)製作総指揮
・ベアーズ・キス(02)脚本
・ニュー・ワールド(05)監督/脚本
・アメイジング・グレイス(06)製作
・ツリー・オブ・ライフ(11)脚本/監督
・トゥ・ザ・ワンダー(12)脚本/監督
今週はテレンス・マリック監督特集です。
最新作『トゥ・ザ・ワンダー』と監督の地位を決定的にした
『天国の日々』の二本立てを上映致します。
テレンス・マリックの初の長編監督作品は、男女の暗黒面に寄り添う、1973年の『地獄の逃避行』。 それから5年後、20世紀初頭のテキサスで時代に翻弄された4人の若者を描いた『天国の日々』(1978)は、 長編2作目にしてカンヌ国際映画祭監督賞など世界から高い評価を得た。 しかし、そこから彼は約20年の長い沈黙を守ることとなる。 その沈黙を破ったのは、太平洋戦争ガダルカナル島の戦いを舞台に 生死の狭間を生き抜く若き兵士たちの姿を描いた『シン・レッド・ライン』(1998)。 その後、『ニュー・ワールド』(2005)、『ツリー・オブ・ライフ』(2011)、 最新作『トゥ・ザ・ワンダー』(2012)と近年は映画製作の足を早め始めている。
これまであまり新作が出てこなかった事や、出演を熱望する俳優が多いこと、
表舞台に姿を現さないこと、もちろん作品が美しく印象深いことから、
人は彼の事を"伝説の映画監督"と呼ぶ。
テレンス・マリックの作り上げる作品には、その場所、その時代の環境の中で
人と人とが関係し合い、もがきながらも生きていこうとする姿を、
遠くから見つめ続ける眼差しがある。
その眼差しが垣間見える彼の一貫した撮影スタイル。
俳優にあまり情報を与えず、自然光での撮影を重視し、
現場で生まれ出てくる事を拾い上げる。
なにかこれは、いつも突然で、筋書きのない自由な人生だが、
周りのしがらみに影響され流れゆく、我々の日々の生活の一部を切り取る作業のようだ。
テレンス・マリックが沈黙を守り、遠くから見つめ続ける眼差しの先。
金色の麦畑からイナゴの大群が飛び立つ中、主人公達が青春の挫折を味わう。
潮騒が響き、夕日の輝くモンサンミッシェルの入江の中、男が永遠の愛を誓う。
人間たちに寄り添い、心情をより一層浮かび上がらせる風景。
けれど同時に、その広大な風景は人間がどんな事を考えていようともびくともしない。
そしてふと気がつく。この大地の上で今も続く生命の営みも、
全部がその一部であり、すべてが美しいのだと。
人間の心に、無限に湧きあがるあらゆるモノが、
宇宙に浮かぶこの地球という大地の上で過ごす
ちっぽけな我々の中で大きく動いている。
テレンス・マリックは眼差しの先に見えるそんな感覚を映画で撮るのだろう。
天国の日々
DAYS OF HEAVEN
(1978年 アメリカ 94分 ビスタ/ドルビーA)
2014年1月4日から1月10日まで上映
■監督・脚本 テレンス・マリック
■制作 バート・シュナイダー/ハロルド・シュナイダー
■撮影 ネストール・アルメンドロス/ハスケル・ウェクスラー
■美術 ジャック・フィスク
■音楽 エンニオ・モリコーネ
■出演 リチャード・ギア/ブルック・アダムス/リンダ・マンズ/サム・シェパード/ロバート・ウィルク/スチュアート・マーゴリン
■第32回カンヌ国際映画祭監督賞受賞/米アカデミー賞撮影賞受賞・ほか3部門ノミネート/ニューヨーク映画批評家賞監督賞受賞/ロサンゼルス映画批評家協会賞撮影賞受賞/ほか多数受賞
第一次世界大戦が始まって間もない頃、シカゴから放浪の旅に出たビルと妹のリンダ、ビルの恋人アビーの3人は、テキサスの農場で麦刈り人夫の職についた。見渡す限り黄金色の広大な麦畑に漠然と期待を抱くビル。しかし、労働者たちは朝から晩まで汗と泥にまみれて休む暇もない。少しでも麦を無駄にすると減給され、サボればクビに。代わりはいくらでもいる…それは都会と同じ苛酷な労働だった。
そんな日々が続くなか、彼らに転機が訪れる。若くハンサムな農場主チャックがアビーに目を付けたのだ。ひょんなことから彼の命が長くない事を知ったビルは、楽をしようとアビーに形だけの結婚を促すのだが――。
78年の公開当時、リチャード・ギアは『アメリカン・ジゴロ』や『愛と青春の旅立ち』で大ブレイクする直前であり、サム・シェパードは本作が本格的な映画デビュー作だった。大スターの出演作でもなく、観客にわかりやすく移民の説明がなされるわけでもない。歴史や宗教、社会的背景は暗黙の了解であって、ただ静かに移りゆく時間の中で予定調和的な悲劇が訪れる。それが地味だとされたのか、当初アメリカでは興行的に成功しなかった。しかし当然のことながら作品を見た批評家はこぞって大絶賛。ニューヨーク映画批評家賞監督賞をはじめ、数々の賞に輝いた。
『天国の日々』という題名は旧約聖書の「申命記」に出てくる言葉からとられたもの。「申命記」はモーゼが約束の地に入るイスラエル人に対して与えた律といわれ、「唯一の神ヤーウェを愛していれば約束の地(天国)に住む日数=天国の日々が多くなる」ことが強調されている。また、全体の構成が「創世記」から借りたもの(ビルとアビーが兄妹と偽るのはアブラハムとサラの関係と同じ)であったり、<小麦の刈り入れ>や<イナゴの来襲>などを映画の重要なシーンとして扱うなど、聖書を想起するエピソードが物語の骨格を成している。トゥ・ザ・ワンダー
TO THE WONDER
(2012年 アメリカ 112分 シネスコ)
2014年1月4日から1月10日まで上映
■監督・脚本 テレンス・マリック
■製作 サラ・グリーン/ニコラス・ゴンダ
■撮影 エマニュエル・ルベツキ
■音楽 ハナン・タウンゼント
■出演 ベン・アフレック/ オルガ・キュリレンコ/レイチェル・マクアダムス/ハビエル・バルデム/ロミーナ・モンデロ/チャールズ・ベイカー/マーシャル・ベル/タチアナ・シラン
物語はフランス西海岸に浮かぶ小島モンサンミシェルで幕を開ける。アメリカからやって来たニールは、そこでマリーナと出会い、互いに深く愛し合う。しかし、アメリカへ渡り、オクラホマの小さな町で生活を始めたふたりの幸せな時間は長く続かなかった。マリーナへの情熱を失い、やがて幼なじみのジェーンに心奪われるニール。そして、彼との関係に苦悩するマリーナはクインターナ神父のもとを訪れ…。
アカデミー撮影賞を受賞した『天国の日々』を始め、その壮大なスケールと息をのむような映像美によって人々を魅了してきたマリック作品。『ニュー・ワールド』(05)、『ツリー・オブ・ライフ』に続き、撮影監督にエマニュエル・ルベツキを起用した本作でも、フランスで“西洋の驚異=WONDER”と称されるモンサンミシェルの光や風が、あるいはオクラホマ州バートルズビルの荒涼とした自然や家並みが、スクリーンにまばゆく描き出される。ワーグナーやチャイコフスキーの楽曲を使用した音楽と共に、そこに織り成される究極の映像体験は、圧倒的な美しさで観客の心を揺さぶるだろう。
愛とは何か? 永遠の愛は可能なのか? 愛は彼らの人生を変え、破壊し、そして彼らを新たな人生に向き合わせる。激しく燃えた愛が、次第に熱を失い義務感や後悔へと移ろうさまを、マリック監督は広大な景観の中に映し出していく。真実の愛の物語ははかなく残酷で、だからこそ切ない――。