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映画ファンとは映画に魅了されたために、映画館の暗闇にどうしても引き寄せられてしまう人たちです。そして映画作家といわれる人たちもまた、映画の魔力に深く囚われたが故に、映画づくりをどうしても止めることができない人々なのだと思います。今回上映する『危険なプロット』『パッション』は、そんな映画作家自身の姿が色濃く浮かび上がってくる作品です。

「この戯曲を通して、私自身がどういうふうに映画を撮っているのか、
どういうふうにストーリーや人物を語っていくのか、また創造するとはどういうことか、
私の映画づくりの方法を語ることができるのではないかと思いました。」

『危険なプロット』の監督フランソワ・オゾンは原作を映画化した理由をそう語ります。

映画には2人の人物が出てきます。創作行為のため禁忌をおかして突き進んでしまうクロードと、彼の創作の個人指導の立場ながら、彼の書いてくる物語を待ちわび、つづきを読みたいがために人生を狂わされていくジェルマン。危険な道に足を踏み入れていることを認識しながら、2人は物語を書くことと読むことをどうしても止めることができません。

おもしろさのためなら、常識を逸脱した地点に足を踏み入れてしまう可能性をもつ作り手としての自分と、それに気付き警告しながらも、タブーに踏み込むことをひそかに心待ちにしてしまういち観客としての自分。オゾンはクロードとジェルマンに作り手として、そして観客として映画の魔力から逃れられない自らの姿も重ねあわせているようです。オゾンの創作とは、作者の内なるクロードとジェルマンの葛藤の上に成り立っているのではないか。いや、これはオゾンに限らず創作に関わる者、全てに共通した危うさを描いているんじゃないか。そんな想像に誘われる作品です。

作品ごとに多彩な作風を披露する器用な才人というイメージのオゾンとは反対に、ブライアン・デ・パルマの作品には一貫したイメージがまとわりつきます。双子、のぞき、華麗な殺人、金髪悪女、スプリット・スクリーン、スローモーション…。

熱狂的なファンを持つ一方、「ヒッチコックのマネなんでしょ」と心ない批評家たちに冷たく言われてきたデ・パルマ。しかしそんな映画を40年以上に渡って(幾多の変遷を経ながら)作ってきたことからも、これらが単なるパクリや楽天的なオマージュなどではないことが誰の目にも明らかだと思います。これらはデ・パルマにとって繰り返し描かずにはいられないオブセッション(強迫観念)であり、人生の深いレベルでヒッチコック作品に魅せられてしまった人間の立派に切実な表現なのです。

デ・パルマの最新作『パッション』は、まさにどこを切ってもデ・パルマらしさに満ちた作品です。ファンにはお馴染みの双子のテーマのみならず、鏡や監視カメラ、映像モニターといった複数の虚像のイメージがこれでもかと溢れかえっています。それは中盤以降、主人公のイザベルが巻き込まれる不合理な展開と共鳴して確実に私たちを翻弄します。ファンであれば過去のデ・パルマ作品の記憶が複数脳裏に襲ってくるので彼女以上に混乱してきますし、初心者ならスクリーンで展開されるあまりの事態にただただ呆気にとられるばかりでしょう。

観る者を眩惑し、めまいにも似た感覚を引き起こしながら、『パッション』は手に汗握る怒濤のクライマックスへ辿り着きます。けっして論理的でわかりやすいわけではないのに不思議なエモーションを湛えた画面からは、誰に何と言われようと自分にしか撮れない映画を撮る! という御歳73才のデ・パルマのあっぱれなまでに昔と変わらない熱い想いがビンビンと伝わってきます。

フランソワ・オゾンとブライアン・デ・パルマ。生まれもキャリアもまったく異なりますが、どちらも映画に憑かれ、自分の信じる映画をずっと作りつづけてきました。そんな彼らだからこそ撮れる濃密なサスペンス映画の二本立て。是非ぜひ劇場の暗闇でご鑑賞あれ!

(ル―)

危険なプロット
DANS LA MAISON
(2012年 フランス 105分 dcp R15+ ビスタ) pic 2014年2月1日から2月7日まで上映
■監督・脚本 フランソワ・オゾン
■製作 エリック・アルトメイヤー/ニコラス・アルトメイヤー
■原作 フアン・マヨルガ「The Boy in the Last Row」
■撮影 ジェローム・アルメーラ
■音楽 フィリップ・ロンビ

■出演 ファブリス・ルキーニ/クリスティン・スコット・トーマス/エマニュエル・セニエ/ドゥニ・メノーシェ/エルンスト・ウンハウアー/ジャン=フランソワ・バルメール/バスティアン・ウゲット

教師と生徒の個人授業は、
いつしか息詰まる心理戦に変わる。

pic作家になる夢を諦めた高校の国語教師・ジェルマンは、生徒たちのつまらない作文の添削にうんざりした毎日を送っていた。ところが新学期を迎えたばかりのある日、クロードという生徒の作文に心をつかまれる。それはクラスメイトとその家族を皮肉たっぷりのトーンで描写したものだったが、ジェルマンは人間観察の才能を感じ取り、クロードに小説の書き方を個人指導していく。

ジェルマンの手ほどきにより才能を開花させたクロードは、クラスメイトの家の中を覗き見、美しい母親を観察して次々と"新作"を提出してくる。ジェルマンは他人の生活を覗き見る物語にためらいつつも心奪われ、いつしか"続き"を求めて歯車を狂わせていく…。

人間が持つ毒と日常に潜む狂気を、
ユーモアを交えて炙り出す極上の知的サスペンス!

pic本国フランスでは、動員120万人を超える大ヒットを記録。現代フランス映画界を支える若き鋭匠フランソワ・オゾン監督が、スペイン人作家フアン・マヨルガの戯曲「The Boy in the Last Row」をもとに創り上げた本作は、審美眼を持つ高校教師と文才に恵まれた生徒との緊張感漂うやりとりから生まれる、サスペンスを孕んだ緻密な人間ドラマだ。

pic物語が進むごとに観客はジェルマンとともに、クロードが紡ぎだすストーリーの中に引き込まれ、いつしか現実とフィクションの間にある混乱に取り込まれていく。それは、魅力的な文学と出会ったとき、ページをめくる手が止められなくなるのと同じ。ほんの数秒先の展開すら待ち焦がれるようになり、物語から目が離せなくなっていくのだ。想像するとはどういうことか。観客であるとはどういうことなのか、その魔力と本質について迫る意欲作となっている。


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パッション
PASSION
(2012年 フランス/ドイツ 101分 dcp R15+ ビスタ) pic 2014年2月1日から2月7日まで上映
■監督・脚本 ブライアン・デ・パルマ
■製作 サイド・ベン・サイド
■オリジナル脚本 アラン・コルノー/ナタリー・カルテール
■撮影 ホセ・ルイス・アルカイネ
■音楽 ピノ・ドナッジオ

■出演 レイチェル・マクアダムス/ノオミ・ラパス/カロリーネ・ヘルフルト/ポール・アンダーソン

女の敵は、女。
その時、寄せた好意は、
抑えられない殺意へと変貌した――。

若くして世界的な広告会社の重役の地位にのぼりつめたクリスティーンは、仕事でもプライベートでもとことん貪欲な女性。キャリアアップのためなら手段を選ばない彼女は、有能かつ従順な部下のイザベルが考案した斬新なアイデアを横取りし、まんまと社長の信頼を勝ち得ることに成功する。

しかし都合のいい操り人形として手なずけたはずのイザベルがまさかの反撃に転じたことから、ふたりの出世争いは危険なパワーゲームへと激化。女性の内なる魔性のダークサイドを呼び覚ますその攻防は、ついにはおぞましい殺人事件へと発展するのだった……。

目を奪われる裸体。何も語らない死体。息を飲む展開。
鬼才ブライアン・デ・パルマが仕掛ける
官能的なサスペンス・スリラー!

picめくるめく恐怖と謎に満ちた『キャリー』『殺しのドレス』『ミッドナイトクロス』といった傑作で“ヒッチコックの後継者”と呼ばれるほどの魔術的なサスペンス演出を披露し、『アンタッチャブル』『ミッション:インポッシブル』などの娯楽大作でも世界中を魅了してきたブライアン・デ・パルマ監督。他の追随を許さない独創的なヒット作を世に送り続けてきたこの鬼才が、『リダクテッド 真実の価値』以来5年ぶりとなる待望の新作を完成させた。

故アラン・コルノー監督の遺作となった『ラブ・クライム 偽りの愛に溺れて』を独自の解釈で大胆にリメイクした『パッション』。デ・パルマ監督が最も得意とするサスペンス&ミステリー・ジャンルへの復帰を果たした本作は、鬼才の完全復活を鮮烈に印象づけるとともに、このうえなくセンセーショナルな題材に挑んだ意欲作である。流麗な技巧を極めたサスペンス術で観る者を幻惑し、エクスタシーにも似た甘美な陶酔へと誘う“デ・パルマ・マジック”の真骨頂がここにある。

野心、欲望、嫉妬が渦巻く世界。美しい化粧の下に潜む殺意と情熱、その素顔。 果たしてイザベルは復讐を遂げたのか? 謎が螺旋状に積み重なり合う殺人ミステリーの結末とは? 女の諍いに運命の女神は誰に微笑みかけたのか――。



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