1924年鳥取県米子市に生まれる。大学卒業後、43年に東宝に入社するが、すぐに戦時徴用され、豊橋陸軍予備士官学校で終戦を迎える。この豊橋滞在時に空襲で多くの戦友たちの死を目の当たりにし、戦争に対する大きな憤りを抱く。復員後東宝に復帰し、マキノ雅弘、谷口千吉、成瀬巳喜男、本多猪四郎らに師事して修行を積む。
58年『結婚のすべて』で監督デビュー。5作目『独立愚連隊』('59)で、一躍若手監督の有望格として注目を浴び、以降、『独立愚連隊西へ』('60)、『江分利満氏の優雅な生活』('63)、『侍』('65)、『日本のいちばん長い日』('67)、『肉弾』('68)など、幅広い分野の作品を監督する。
東宝退社後の70年代後半からは、『ダイナマイトどんどん』('78)、『近頃なぜかチャールストン』('81)などを監督。『大誘拐 RAINBOW KIDS』('91)では日本アカデミー賞最優秀監督賞、最優秀脚本賞を受賞した。
2005年2月19日、食道がんのため死去。2001年の『助太刀屋助六』が遺作となったが、亡くなる直前まで山田風太郎作の「幻燈辻馬車」の映画化を構想していた。
・結婚のすべて('58)
・若い娘たち('58)
・暗黒街の顔役('59)
・ある日わたしは('59)
・独立愚連隊('59)
・暗黒街の対決('60)
・大学の山賊たち('60)
・独立愚連隊西へ('60)
・暗黒街の弾痕('61)
・顔役暁に死す('61)
・地獄の饗宴('61)
・どぶ鼠作戦('62)
・月給泥棒('62)
・戦国野郎('63)
・江分利満氏の優雅な生活('63)
・ああ爆弾('64)
・侍('65)
・血と砂('65)
・大菩薩峠('66)
・殺人狂時代('67)
・日本のいちばん長い日('67)
・斬る('68)
・肉弾('68)
・赤毛('69)
・座頭市と用心棒('70)
・激動の昭和史 沖縄決戦('71)
・にっぽん三銃士 おさらば東京の巻('72)
・にっぽん三銃士 博多帯しめ一本どっこの巻('73)
・青葉繁れる('74)
・吶喊('75)
・ダイナマイトどんどん('78)
・ブルークリスマス('78)
・英霊たちの応援歌/最後の早慶戦('79)
・近頃なぜかチャールストン('81)
・ジャズ大名('86)
・大誘拐 RAINBOW KIDS('91)
・EAST MEETS WEST('95)
・助太刀屋助六('01)
※劇場監督作品のみ
鬼才・岡本喜八監督の人生観は、彼が戦時中に入隊した陸軍工兵学校での強烈な体験に大きく影響されました。
「当時の私は、自分の寿命を“うまくいって二十三、下手をすれば二十一”と、大掴みに踏んでいたのだが、刻々と近づく死の恐怖をマジメに考えると、日一日とやりきれなくなって行く。それが高じて、もし発狂でもしたらみっともない。そんなある日、はたと思いついたのが、自分を取りまくあらゆる状況を、コトゴトク喜劇的に見るクセをつけちまおう、ということであった。」
(岡本喜八「マジメとフマジメの間」所収エッセイ「戦争映画と私」より)
地獄のような日常を必死に生きるための叡智は、その後の岡本の作品に力強く脈打ちます。人の死や戦争を厳粛に見つめながら、それと表裏一体にあるこっけいさに目を向ける視点。広いレンジで物事をとらえる岡本の知性は、卓抜した演出テクニックと合わさることで今なお私たちを魅了する、パワフルで多彩な傑作群を生み出しました。
今回の特集で上映する4本は、どれも喜八監督の代表作と呼ぶにふさわしいものです。娯楽精神を忘れることなく、自分の映画を生涯追求した喜八監督の魂に触れてください!
肉弾
(1968年 日本 116分 SD/MONO)
2014年8月23日から8月25日まで上映
■監督・脚本 岡本喜八
■製作 馬場和夫
■撮影 村井博
■編集 土屋テル子
■音楽 佐藤勝
■出演 寺田農/大谷直子/天本英世/三橋規子/今福正雄/笠智衆/北林谷栄/仲代達矢
★3日間上映です。
終戦時の政府の内幕を重厚に描いた大作『日本のいちばん長い日』を東宝で発表したのち、岡本はより自らの戦争体験に近い映画を作りたいと考え、日本アート・シアター・ギルドにこの作品の企画を持ちかける。
昭和20年の夏、上官にドヤしつけられ素っ裸で訓練をさせられていた落ちこぼれ工兵特別甲種幹部候補生の「あいつ」。特攻に赴く前日に外出を許された「あいつ」はひとりの少女に出会うのだが…。
人間魚雷を命じられた男のドラマには、岡本の実際の戦争体験が色濃く投影され、不条理劇じみた悪夢の世界を表出させる。強烈なブラックユーモアと実験精神、そしてやさしい詩情にあふれた本作は、自らの戦争体験を喜劇的にとらえることでなんとか生きながらえたという、岡本喜八にしか撮れない痛切な悲喜劇である。ラストでは、価値観の度重なる逆転に翻弄された、戦中派の人間の魂の叫びがこだまする。永遠に語り継がれるべき一本。
独立愚連隊
(1959年 日本 108分 シネスコ/MONO)
2014年8月23日から8月25日まで上映
■監督・脚本 岡本喜八
■製作 田中友幸
■撮影 逢沢譲
■美術 阿久根巌
■音楽 佐藤勝
■出演 佐藤允/上村幸之/中谷一郎/三船敏郎/中丸忠雄/南道郎/瀬良明/鶴田浩二/上原美佐/雪村いづみ
★3日間上映です。
第二次大戦末期の北支戦線、敵中に深く突出している小哨隊があった。各隊のクズを集めた独立第九十小哨――人呼んで独立愚連隊。その陣地を従軍記者の荒木と名乗る男が訪れた。実は、本名を大久保という元軍曹である彼は、小哨長の弟が情婦と心中したという報が信じられず、入院していた北京の病院を脱走してきたのだった…。
岡本監督の名を一躍世に知らしめた戦争アクション。「西部劇を目指した」という監督の言葉通りスピーディーなアクションとユーモアが見事に絡み合う展開は、日本の戦争映画の常識を打ち破るものだった。佐藤充が颯爽と馬に乗って走り去るタイトルバックからして、鳥肌ものにムチャクチャカッコいい!
痛快で明快な娯楽映画を志向しながら、ここには苛烈な戦争体験をした岡本監督なりの戦争へのアイロニカルな視点がある。そして、脇役ながら一度観たら忘れられない名演(怪演?)を披露する三船敏郎も必見!
江分利満氏の優雅な生活
(1963年 日本 102分 シネスコ/MONO)
2014年8月26日から8月29日まで上映
■監督 岡本喜八
■原作 山口瞳
■脚本 井手俊郎
■アニメデザイン 柳原良平
■撮影 村井博
■編集 黒岩義民
■音楽 佐藤勝
■出演 小林桂樹/新珠三千代/矢内茂/東野英治郎/英百合子/横山道代/中丸忠雄/ジェリー伊藤
★4日間上映です。
何をやってもおもしろくないと嘆くサラリーマン・江分利は、バーで出会った雑誌編集者に酔った勢いで執筆する約束をしてしまう。困った江分利は自分のような平凡な人間が一生懸命生きる日常を描くことにする。連載は評判に評判を呼び、あれよあれよという間に直木賞候補に選ばれるが…。
実際に直木賞を受賞した山口瞳の同名小説を原作にした異色のエッセイ映画。高度経済成長真っ只中に生きる戦中派サラリーマンのボヤキを映像化するに際し、岡本はアニメやストップモーションといった映像テクニックを総動員。いまだに新鮮でキラキラした魅力にあふれたユーモラスな快作だ。小林桂樹と新珠三千代の夫婦のやりとりが、なんともチャーミングでかわいらしい!
江分利が口にする「才能のある人間が生きるのはなんでもないことだ。本当に偉いのは一生懸命生きている奴だよ。」という言葉が胸にしみる。映画のトーンが大胆に変わる終盤の展開にも注目。都心に起こっていた建設ラッシュの映像で終わる本作は、これのつづきのように工事の映像で始まる市川崑監督『東京オリンピック』と共に、高度経済成長期の当時の日本の空気を濃密に伝えてくれる逸品だ。
ああ爆弾
(1964年 日本 95分 シネスコ/MONO)
2014年8月26日から8月29日まで上映
■監督・脚本 岡本喜八
■製作 田中友幸
■原作 コーネル・ウールリッチ「万年筆」
■撮影 宇野晋作
■美術 阿久根巌
■編集 黒岩義民
■音楽 佐藤勝
■出演 伊藤雄之助/高橋正/越路吹雪/砂塚秀夫/中谷一郎/沢村いき雄/本間文子/重山規子
★4日間上映です。
名門「大名組」組長・大名大作が三年ぶりに出所してシマに戻ってみると、俗界の様子は一変していた。組が、市会議員候補の矢東弥三郎に乗っ取らていたのだ。怒り心頭した大名は組に殴り込んだが果たせず、幼馴染みの椎野に救われた。その椎野も矢野の運転手をしているという。大名は、爆弾作り名人である太郎に万年筆型の爆弾を作らせ、矢東の万年筆とすり替えようとするが…。
おそらく、日本映画史上5本の指には入るヘンテコきわまる異形の映画。いきなり狂言調のミュージカルから始まる冒頭から確実にビックリする。自由奔放なイメージの洪水と遊び心いっぱいの音楽の使い方、主演の伊藤雄之助はじめ生き生きと楽しそうに演じる俳優たちを見れば、「こんな映画があったのか!」という驚きと喜びに襲われること必至。まさに唯一無二の和製ミュージカルコメディの大傑作!
(ルー)