恋をしたら、相手のすべてが愛おしくなる。
1分1秒でも長くそばに居たいと思う。いつも触れていたいと思う。
優しくされたら、体中に血がめぐる。
少しでも冷たくされたら、この世の終わりのように目の前が暗くなる。
会っていない時は、その人の表情を、
仕草を、匂いを、着ていた服を思い出す。
いま何をしているのか、誰といるのか、
そんなことを考えてあっという間に一日が終わる。
自分を形作る世界のほとんどが、その人によって成り立ってしまう。
『グッバイ・ファーストラブ』のカミーユは恋人のシュリヴァンが大好きだ。
いつもいつも一緒にいたい。でもシュリヴァンの気持ちはちょっと違う様。
カミーユを残して遠くへ旅立ってしまう。
カミーユは自殺未遂まで起こすほど絶望に突き落とされる。
日々は味気なく過ぎてゆき、心に空いた穴はなかなか埋まらない。
やがて高校を卒業し、長い髪をばっさり切ったカミーユは建築学に興味を持つ。
そして同時にすべてを包んでくれるような年上の男性と出会う。再び色づき始めるカミーユの日常。
このまま優しさに溢れた新たな生活を始めていくように思えた時、シュリヴァンに再会する。
「あなたを愛さなかったことなんか1秒もないわ」と、シュリヴァンにカミーユは迷うことなく言う。
映画を観ていて私は愕然とした。でも、“忘れられない初恋”とはこうゆうものだと妙に納得もした。
甘く切ないその記憶はどんなに大人になっても鮮烈に蘇り、永遠に輝きを失わない。
初恋は瑞々しく素晴らしいが、同時に自分勝手で愚直なものでもあるということ。
シュリヴァンの前ではカミーユはいつでも恋する少女に戻ってしまう。
でも、彼女は決して成長していないわけではなく、前を向いて進もうともしている。
その等身大の恋愛が、至極シンプルなラブストーリーであるこの物語の他にはない魅力である。
『アデル、ブルーは熱い色』のアデルは、ある日、道端で青い髪の女性エマにすれ違う。
「人生に偶然はない」と言うエマは、レズビアンであることを隠さず、
画家を目指すため美大に通い、自分の生きたいように生きていた。
そんなエマに、アデルはあこがれも入り混じる熱烈な恋をする。
数年後、ふたりは共に暮らし、エマは画家に、アデルは教師になっていた。
変わらず愛し合ってはいたが、クリエイティブなエマに対してアデルはどこか引け目を感じている。
そしてその溝がやがて寂しさとなり取り返しのつかない過ちを生む。
ひとりの女性の、恋の始まりから終わりまで。ただそれだけのストーリーがこんなにも胸を締め付ける。
アデルがエマを見つけた時のとまどいの表情。一瞬で恋に落ちたアデルの心がまるごと伝わってきて私は泣いた。
エマと初めて体を重ねた時のアデルの歓びに泣いた。
辛い別れの後、エマにもう一度会い、涙でぐしょぐしょになりながら「いつもあなただけが欲しい」と懇願するアデルにまた泣いた。
彼女が経験する大恋愛を観ていたら、180分という時間はあっという間に過ぎてしまう。
一生に一度と思った恋愛にもいつか終わりは来る。その堪えがたい悲しみを乗り越えて、アデルの人生は続いていくのだ。
恋愛映画で感動する時とは、たいていの場合、自分がどれほど共感できるかによるのではないだろうか。
私たちは、登場人物を自らに置き換えて、過去の記憶に胸を焦がし、そうでなければ追体験して涙する。
それはとても原初的で、物語がまず一番に持ち得るべきものだと思う。
今週の二本立ては“忘れられないラブストーリー”。
カミーユとアデル、ふたりのそれぞれの恋物語を、映画館のスクリーンの中で彼女たちと共に経験してみてください。
グッバイ・ファーストラブ
UN AMOUR DE JEUNESSE
(2011年 フランス/ドイツ 110分 ビスタ/SRD)
2014年8月9日から8月15日まで上映
■監督・脚本 ミア・ハンセン=ラブ
■撮影 ステファーヌ・フォンテーヌ
■録音 ヴァンサン・ヴァトゥ/オリヴィエ・ゴワナール
■編集 マリオン・モニエ
■出演 ローラ・クレトン/セバスティアン・ウルゼンドフスキー/マーニュ・ハーバード・ブレック/ヴァレリー・ボヌトン/セルジュ・レンコ/オゼイ・フィヒト
■2011年ロカルノ国際映画祭<Special Mention>受賞
1999年、パリ。高校生のカミーユとシュリヴァンはお互いに愛し合っていた。シュリヴァンは17歳、ほとんど学校に行かず9月に退学して南米に行こうと考えている。カミーユは15歳、彼に夢中で勉強にもなかなか身が入らない。夏になり、二人は南仏に出掛けるが、楽しく過ごす間にも気まずい雰囲気が漂っていた。シュリヴァンは人生の目的を見つけるために外国へ行きたがっているが、カミーユは彼と離れたくない。夏が終わり、シュリヴァンは南米へ。カミーユには旅先から手紙が次々と送られてくる。やがて冬になると彼は手紙で別れを告げてきた。悲しみのあまり、カミーユは自殺を図り…。
『あの夏の子供たち』のミア・ハンセン=ラブ監督が、自身が10代のころに経験した初恋をモチーフに描いた青春映画、それが『グッバイ・ファーストラブ』だ。真夏の南仏で燃え上がった二人の恋も、バカンスの終わりとともに色褪せていく。微妙なバランスの中で揺れ動く、多感な少女が大人への階段を登り始める瞬間を、季節の移りかわりの中で美しくとらえた。主演の二人、ローラ・クレトン、ゼバスティアン・ウルゼンドフスキーは共に2000年代にスクリーンデビューを果たした若手の成長株。ヒロイン、カミーユが大人の女性へと成長を遂げる手助けをする中年の建築家ロレンツに、シェイクスピア等の舞台で活躍し、『あの夏〜』にも出演したベテラン、マーニュ・ハーバード・ブレックが脇を固める。“初恋”という誰もが経験するであろう普遍性を持つストーリーが、観る者にいつかの記憶を呼び覚まさせてくれる。
アデル、ブルーは熱い色
LA VIE D'ADELE CHAPITRES 1 ET 2
(2013年 フランス 179分 ビスタ)
2014年8月9日から8月15日まで上映
■監督・脚本 アブデラティフ・ケシシュ
■脚本 ガリア・ラクロワ
■原作 ジュリー・マロ「ブルーは熱い色」(DU BOOKS刊)
■撮影 ソフィアン・エル=ファーニ
■音響 ジェローム・シュヌヴォワ
■編集 アルベルティーヌ・ラステラ/カミーユ・トゥブキ/ジャン=マリー・ランジェレ、ガリア・ラクロワ
■2013年カンヌ国際映画祭パルムドール・国際批評家連盟賞受賞/2013年ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞ノミネート/2013年全米批評家協会賞外国語映画賞受賞/2013年NY批評家協会賞外国語映画賞受賞/2013年LA批評家協会賞女優賞・外国語映画賞受賞/インディペンデント・スピリット賞外国映画賞受賞 ほか多数受賞・ノミネート
運命の相手は、ひとめでわかる――。高校生のアデルは、道ですれ違ったブルーの髪の女性に、一瞬で心を奪われる。夢に見るほど彼女を追い求めていたその時、アデルは偶然バーで彼女との再会を果たす。彼女の名はエマ。画家を志す美学生だった。アデルはエマのミステリアスな雰囲気と、豊かな知性、感性に魅了され、身も心も一途に、彼女にのめり込んで行く。数年後、教師になる夢を叶えたアデルは、エマの絵のモデルをつとめながら彼女と共に暮らし、幸せな日々を送っていたが…。
2013年カンヌ国際映画祭でパルムドールを審査員の全員一致で受賞した、愛の衝撃作。本来は監督1人に授与される賞を、主演女優のアデル・エグザルコプロスとレア・セドゥにも贈られるというサプライズが起き、興奮を巻き起こした本作。その後も、ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞にノミネート、NY批評家協会賞外国語映画賞を受賞するなど世界中で称賛を受けた。
本作は、二人の女性の激しくも切ない愛の日々を描く感動のラブストーリー。主演女優の二人が挑んだラブシーンは、センセーショナルにして絵画のように美しいと大喝采を浴びた。監督・脚本を務めるのは、これまで数々の映画賞に輝いてきた俊英、アブデラティフ・ケシシュ。本作でヨーロッパから世界へと羽ばたいた異才の最高傑作にして、待望の日本初公開となる。
『アデル、ブルーは熱い色』を観ること、それは恋と愛にまつわるすべてを体験すること。愛の真実に迫る、生涯忘れられない出逢いをあなたに――。