「俺は映画が大好きなんだ」と言わんばかりの強い熱意が、
タランティーノの映画のいたるところに溢れている。
お洒落な音楽、シリアスとコメディの絶妙なバランス、粋な計らいと唐突な下品さの背後に、
タランティーノが何かを熱く語りかけている姿を想像してしまう。
有名なものから聞いたこともないような映画のオマージュの一つ一つが、
彼のこだわりや集めた自前のコレクションのようであり、
その熱心な口調に驚いてしまうはずだ。
しかし煩わしさすら通り越して私たちに興奮をもたらすその熱意に、
タランティーノは盲目なわけではない。
『イングロリアス・バスターズ』や最新作『ジャンゴ 繋がれざる者』のような
デリケートな問題に果敢に取り組みながら、
エンターテイメントとして最高峰の映画であるのは
冷静な眼差しが存在するからだ。
それはただ映画が好きなだけでは成り立たない、
分析と独自の論理の追求の結果なのではないだろうか。
強い熱意と冷静さを兼ね備えたタランティーノから目を離すことができない。
「デス・プルーフ in グラインドハウス」の登場人物、
スタントマン・マイクの背中の刺繍「ICY HOT」が似合うのは
誰よりもタランティーノなのかもしれない。
※「ICY HOT」はアメリカで有名な湿布の商品名
断然タランティーノのほうが「ICY HOT」だ
(ジャック)
キル・ビル
KILL BILL: VOL. 1
(2003年 アメリカ 113分 シネスコ/SRD)
2013年6月22日から6月28日まで上映
■監督・脚本・キャラクター原案 クエンティン・タランティーノ
■アニメーション監督 中澤一登
■製作 ローレンス・ベンダー
■アニメーションキャラクターデザイン 石井克人/田島昭宇
■撮影 ロバート・リチャードソン
■美術監督 種田陽平/デヴィッド・ワスコ
■編集 サリー・メンケ
■衣装デザイン 小川久美子
■アニメーション美術監督 西田稔
■音楽 RZA/ラーズ・ウルリッヒ
■出演 ユマ・サーマン/デヴィッド・キャラダイン/ダリル・ハンナ/ルーシー・リュー/千葉真一/栗山千明/ヴィヴィカ・A・フォックス/ジュリー・ドレフュス/マイケル・マドセン/マイケル・パークス/ゴードン・リュウ/麿赤兒/國村隼/北村一輝
■2004年MTVムービー・アワード女優賞・格闘シーン賞・悪役賞受賞/2003年英国アカデミー賞主演女優賞ほか5部門ノミネート
ひとりの女が、長い長い眠りから奇跡的に目を覚ます。彼女は通称“ザ・ブライド”。世界を震撼させた毒ヘビ暗殺団で最強といわれたエージェントだった女。彼女はすべてを思い出す。あの、4年前の惨劇のすべてを。彼女は自分の結婚式の最中に、かつてのボス、ビルに殺されたのだ。ビルは手下と共に参列者を惨殺し、ザ・ブライドの頭を撃ち抜いた。こうして彼女はすべてを失った。友人も夫も、お腹の中に宿っていた子供までも…。
そして一命を取りとめたものの、4年もの間、昏睡状態に陥っていたのだ。目覚めたザ・ブライドには、「復讐」の2文字しかなかった。自分を不幸のどん底に突き落とした、全ての人間を血祭りにあげなくては。復讐は、神が彼女に与えた運命なのだ。ザ・ブライドはたったひとりで闘いの旅に出る。世界を股にかけた、長く、そして壮絶なる復讐の旅に…。
『キル・ビル』には、血の色を濃くして残酷度を抑えた欧米公開版と、オリジナルのままのアジア公開版がある。タランティーノは後者を「ジャパニーズ・バージョン」と呼んでいるというが、本作には彼が愛してやまないヤクザ映画、チャンバラ時代劇、香港カンフー映画、マカロニウエスタン、ギャングの世界を描くフィルム・ノワールなどのエッセンスがこれでもかと詰め込まれている。
優れた脚本家・映画監督である前に、自身も熱狂的な映画ファンであるタランティーノは、完成当時この作品を「自分の集大成」と評し、8分のシーンに8週間かけるほどのこだわりぶり。日本、中国、アメリカ、メキシコと4カ国にわたる撮影を敢行し、21世紀に名を残すスーパー・バイオレンス・アクション超大作として、公開から10年たった今でも変わらない人気を誇っている。
ジャンゴ 繋がれざる者
DJANGO UNCHAINED
(2012年 アメリカ 165分 シネスコ)
2013年6月22日から6月28日まで上映
■監督・脚本 クエンティン・タランティーノ
■撮影 ロバート・リチャードソン
■衣装デザイン シャレン・デイヴィス
■編集 フレッド・ラスキン
■出演 ジェイミー・フォックス/クリストフ・ヴァルツ/レオナルド・ディカプリオ/ケリー・ワシントン/サミュエル・L・ジャクソン/ドン・ジョンソン/ジョナ・ヒル/クエンティン・タランティーノ/ゾーイ・ベル
■2012年アカデミー賞助演男優賞・脚本賞/ゴールデン・グローブ助演男優賞・脚本賞/英国アカデミー賞助演男優賞・オリジナル脚本賞/放送映画批評家協会賞オリジナル脚本賞/MTVムービー・アワードトンデモ・シーン賞受賞 ほか多数受賞・ノミネート
南北戦争勃発直前のアメリカ南部。黒人奴隷のジャンゴは、旅の歯医者で凄腕の賞金稼ぎの超怪しいドイツ人、キング・シュルツと運命的な出会いを果たす。シュルツに銃の手ほどきを受け、白人&黒人のありえない最強賞金稼ぎコンビが誕生!
だが、ジャンゴの目的はただひとつ。美しい妻ブルームヒルダを取り戻し、白人に復讐することだ。彼女が囚われているのは、冷酷非情の極悪奴隷商人、ムッシュ・キャンディの大農園。シュルツとジャンゴ、生死を賭けた戦いが始まる!
ファンの期待を裏切らない、それがタランティーノだ。黒人奴隷制度と真っ向から向き合い、持ち味である過激なバイオレンスと痛快なアイロニーをたっぷりぶちまけながら、骨太な野郎どもの夢と信念、そして絆をのびやかに描く。しかも、マカロニウエスタン。映画好きなら誰もが胸を熱くせずにはいられないだろう。
主演ジャンゴを演じるのはジェイミー・フォックス。小さい頃から玩具の銃を使いこなし、劇中で乗っているのはなんと自分の馬(ちなみに名前はチータ)という、まさにハマリ役。歯科医シュルツには『イングロリアス・バスターズ』に続きアカデミー賞助演男優賞を見事受賞する快挙を成し遂げたクリストフ・ヴァルツ。そして、世間を驚かせたのが悪役キャンディを演じたレオナルド・ディカプリオ。圧倒的な存在感で魅せる極悪非道なレオ様はファンならずとも必見。タランティーノ自身も、永遠に愛され続ける傑作『パルプ・フィクション』から2度目となる脚本賞を受賞。これまでのキャリアで培ってきたノウハウと映画愛の全てを懸けて、巨匠の貫録を見せつけた入魂の一作となった。