1944年、英国生まれ。
サザーランド美術学校で絵画を学び、その後はリーズ・カレッジの大学院に進む。映画撮影に興味を持つようになり、英国映画協会の援助を得て、30分の映画“One of the Missing”('72)を製作した。さらにロイヤル・カレッジ・オブ・アーツでは美術の修士号を取る。73年には兄リドリー・スコットと共にCMの製作会社、RSAを設立し、次々に話題のCMを製作、カンヌ国際映画祭の金賞やクリオ賞などを獲得している。
映画のデビュー作となったのはカトリーヌ・ドヌーヴ、デヴィッド・ボウイ主演の『ハンガー』('83)で、その後はハリウッドに進出してトム・クルーズ主演の『トップ・ガン』('86)を監督して大成功を収める。さらに『ビバリーヒルズ・コップ2』('87)、『デイズ・オブ・サンダー』('90)、『トゥルー・ロマンス』('93)などの話題作も手掛け、ハリウッドのヒットメイカーとして知られるようになる。デンゼル・ワシントンと初めて組んだ映画は潜水艦を舞台にしたサスペンス映画『クリムゾン・タイド』('95)で、その後も『マイ・ボディガード』('04)、『デジャヴ』('06)、『サブウェイ123 激突』('09)から『アンストッパブル』('10)まで長い信頼関係が続いた。
兄リドリーとは95年に映画とテレビの製作会社、「スコット・フリー」を設立し、キャメロン・ディアス主演の『イン・ハー・シューズ』('05)、ブラッド・ピット主演の異色作『ジェシー・ジェームズの暗殺』('07)、人気ドラマの映画化『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』('10)などの映画を製作。
多数のプロデュース作を抱え、意欲的に仕事をこなしていたが、2012年8月、ロサンゼルスのビンセント・トーマス橋から身を投げて亡くなる。遺書が見つかっていることから自殺との見方が強まっているが、動機など詳細は明らかにされていない。
・ストレンジ・ワールド(1965〜'98)<未>
・ハンガー('83)監督
・トップガン('86)監督
・ビバリーヒルズ・コップ2('87)監督
・リベンジ('90)監督
・デイズ・オブ・サンダー('990)監督
・ラスト・ボーイスカウト('91)監督
・トゥルー・ロマンス('93)監督
・クリムゾン・タイド('95)監督
・ザ・ファン('96)監督
・ザ・ハンガー('97)<TV>製作/製作総指揮
・ハンガー/トリロジー('97)<TV>監督/製作総指揮/「剣」監督
・エネミー・オブ・アメリカ('98)監督
・ムーンライト・ドライブ('98)製作総指揮
・ザ・ハンガー プレミアム('99)<TV>監督/製作総指揮
・ゲット・ア・チャンス!(2000)製作総指揮
・ラスト・デシジョン('00)<TVM>製作総指揮
・スパイ・ゲーム('01)監督
・チャーチル/大英帝国の嵐('02)<TVM>製作総指揮
・マイ・ボディガード('04)監督/製作
・ドミノ('05)監督/製作
・イン・ハー・シューズ('05)製作総指揮
・NUMB3RS ナンバーズ 〜天才数学者の事件ファイル(シーズン1)('05)<TV>製作総指揮
・NUMB3RS ナンバーズ 〜天才数学者の事件ファイル(シーズン2)('05〜'06)<TV>製作総指揮
・トリスタンとイゾルデ('06)製作総指揮
・デジャヴ('06)監督
・NUMB3RS ナンバーズ 〜天才数学者の事件ファイル(シーズン3)('06〜'07)<TV>製作総指揮
・ジェシー・ジェームズの暗殺('07)製作総指揮
・CIA ザ・カンパニー('07)<TVM>製作総指揮
・デンジャラス・デイズ/メイキング・オブ・ブレードランナー('07)<TVM>出演
・NUMB3RS ナンバーズ 〜天才数学者の事件ファイル(シーズン4)('07〜'08)<TV>製作総指揮
・アンドロメダ・ストレイン('08)<TVM>製作総指揮
・NUMB3RS ナンバーズ 〜天才数学者の事件ファイル(シーズン5)('08〜'09)<TV>製作総指揮
・サブウェイ123 激突('09)監督/製作
・チャーチル 第二次大戦の嵐('09)<TVM>製作総指揮
・汚れなき情事('09)<未>製作総指揮
・グッド・ワイフ('09〜'10)<TV>製作総指揮
・NUMB3RS ナンバーズ 〜天才数学者の事件ファイル(シーズン6)('09〜'10)<TV>製作総指揮
・特攻野郎Aチーム THE MOVIE('10)製作
・アンストッパブル('10)監督/製作
・ダークエイジ・ロマン 大聖堂('10)<TV>製作総指揮
・クリステン・スチュワート ロストガール('10)<未>製作総指揮
・僕の大切な人と、そのクソガキ('10)<未>製作総指揮
・グッド・ワイフ2('10〜'11)<TV>製作総指揮
・LIFE IN A DAY 地球上のある一日の物語('11)製作総指揮
・グッド・ワイフ3('11〜'12)<TV>製作総指揮
・THE GREY 凍える太陽 ('12)製作総指揮
・JAPAN IN A DAY [ジャパン イン ア デイ]('12)エグゼクティブプロデューサー
たとえば『ジョンQ』がニック・カサヴェテス監督作ではなく、トニー・スコットの作品だと勘違いしてしまうことがある。今公開している『デンジャラス・ラン』だって、トニー・スコットの監督作かもしれないなんて思ってしまう。もちろんデンゼル・ワシントンの出演作品であるうえでの勘違いであろう。しかし、そもそもこんな間違いはたくさんあるのだ。『96時間』はどこかトニー・スコット作品に似ていた気がしていたし、ブライアン・デ・パルマの『スネーク・アイズ』が、なぜか記憶の混乱で『エネミー・オブ・アメリカ』と混ざっていたりする。少し考えれば思い出せることだけど、ふとした混同が起こってしまう。
むしろトニー・スコットの監督作品だと思わずに、その作品を記憶していることが多い。『ビバリーヒルズ・コップ2』『ラスト・ボーイスカウト』『クリムゾン・タイド』『ザ・ファン』あたりは、観たことも覚えていないくらいで、どこかで目にしていたことを先日確認できた。観た順番も、製作された順番もぐちゃぐちゃに記憶している。
トニー・スコットの映画が公開され始めた年代は、家庭用レンタルビデオが普及した頃(1990年前後)と一致する。そもそもMTV的だと揶揄されてきたトニー・スコットは、ヒットメーカーであるにも関わらず、いわゆる賞レースに全く絡むことのない作品を作り続けてきた。シネコンもまだなくて、ミニシアター・ブーム。大手映画館も斜陽の頃。あまりはずれの無い彼の映画にも、公開時にヒットしなかった作品だっていくらかあるだろう。記憶の混乱も、そのほとんどがTV放送やレンタル業界で消費されてきたからかもしれない。
それにしてもトニー・スコットの近年の作品はどれも見応えがあって、面白かった。多重露光を積み重ね、トリップ感のある『マイ・ボディガード』や『ドミノ』も興行的には振るわなかったにしろ、断片的な映像の細かな編集や、俳優たちを魅力的に見せる技術にも、ここまでの集中力を持った仕事にはなかなかお目にかかれないという代物だった。
彼はモニター越しの、スポーツ観戦にも似た空間作りを意識していた。多数の人がモニターを見ながら、当事者たちと離れたところで祈りながら応援する。人々が成功や奇跡を願う姿を見れば見るほど、悲劇が頭から離れなくなるものだ。見る人、見られる人の視線の積み重ね、その強度。『デジャヴ』や『アンストッパブル』のほどない緊張感はその極限だろう。運命の密接な関わりをモニター越しに感じ取る主人公たちや、モンスターのような列車と格闘する男たちの一挙手一頭足に集中してしまう。劇場で観た時のその異常な、空間全体の興奮・緊張状態は忘れられない。
彼の映画の筋にはかなり似たところがある。簡単に言うと「新入生VS熟練」が世の中の判断の難しい案件に互いに接しながら、理性と狂気のギリギリのところで優れた才能を発揮し、感化され合いながら事件を納めるとともに、若者に世代交代が行われていく、という内容。そしていつもタイムリミットが登場人物を追い詰める。
そこには時間と空間の、また社会の不自由との闘争。その運命との追いかけっこを絶えず繰り返し、永遠に悩める若い感性が宿っていた。思えば、大空を誰よりも自由に飛び回る『トップガン』もまた、そんな悩める若者たちの憧れを受け止めて、今日まで名作として育てられたのかもしれない。
彼は主に社会派のサスペンス・アクションにジャンル分けされる作品を多く撮った。しかしその脇で、社会に背負わされた宿命に反して、新しい道を切り拓いていく正義感ある男たちの人間ドラマをあっさりと描いていた。アウトローとはかぎらないが、どうしても枠から飛び出してしまう人物たち。こういう男っぽい話を描かせて、彼ほど熟練したアメリカの映画監督は現在いるのだろうか。
影が影のまま消えていくのは嫌だ、というようなトニー・スコットの映画が好きだった。『トゥルー・ロマンス』のようなハッピーエンドを求める彼の映画を擁護したい気持ちになる。しかし詳細は明かされていないにしろ、彼は自ら川に身を投げてこの世を去った。
私はそんなトニー・スコットについて考え巡る混乱の中に、あるいは作家的な満足感に飽くことのない情熱と、アメリカ映画の現在として新たなる伝統を築いていった彼の親密さに、かつてフランク・キャプラが描いた『素晴らしき哉、人生!』のようなヒーローの姿を、彼がいない世界を想像した。
トップガン
TOP GUN
(1986年 アメリカ 110分 シネスコ/SRD)
2012年10月13日から10月19日まで上映
■監督 トニー・スコット
■製作 ドン・シンプソン/ジェリー・ブラッカイマー
■脚本 ジム・キャッシュ/ジャック・エップス・Jr
■撮影 ジェフリー・キンボール
■音楽 ハロルド・フォルターメイヤー/ジョルジオ・モロダー
■出演 トム・クルーズ/ケリー・マクギリス/ヴァル・キルマー/アンソニー・エドワーズ/マイケル・アイアンサイド/ティム・ロビンス/メグ・ライアン
■1986年アカデミー賞主題歌賞受賞「Take My Breath Away」、音響賞・音響効果編集賞・編集賞ノミネート/ゴールデングローブ歌曲賞受賞・音楽賞ノミネート
早朝のサンディエゴはミラマー海軍航空隊基地。耳を聾するジェット・エンジンのうなりが次第に高まってゆく。怪物のようにゆっくり動き出すのは、銀色に輝くF14トムキャット。それは1分間で3万フィートも上昇し、音速の倍以上のスピードを誇る、アメリカ海軍自慢の最高マシンだ。これを乗りこなすパイロットたち。そしてこの世界最高のパイロットを養成する学校と訓練生を“トップガン”と呼んだ。
今このトップガンの仲間入りしたひとりの若者。無謀な飛行技術で大空を駆け巡るマーベリックだ。その彼が心を奪われた一人の女性。彼女はなんと、トップガンの教官だった。クールで知的な美人教官。心ときめき、やがて恋になり、そしてめくるめく愛が燃えあがろうとしていた…。
トップガンとよばれるエリート集団に編入されたひとりの若者を通し、その青春、友情、希望、挫折、生と死そして高まる愛を描いた永遠の傑作。ダイナミックな迫力で迫る飛行シーンとロックビートを刻む素晴らしいミュージックと共に、1986年の全米No.1ヒット、日本でも1987年洋画配給収入第1位となったのが、『トップガン』である。
米海軍の全面協力を得て、普段は軍関係者以外立ち入ることのできない航空母艦での撮影が許可されたほか、実際にトップガンの司令官をしているボブ・ウィラードの創案した一大空中戦を、選び抜かれたパイロット達の操縦による戦闘機によって撮影するといった、これまでの映画では決して見られなかったシーンが、次々にスクリーンに展開する。
兄、リドリー・スコットの後を追って、83年『ハンガー』で長編監督デビューしたトニー・スコットは、本作の大ヒットにより、メジャー監督に躍り出た。また、主演したトム・クルーズは一躍トップスターの仲間入りをし、助演のヴァル・キルマー、メグ・ライアン、ティム・ロビンスら、若手俳優の出世作としても知られている。
アンストッパブル
UNSTOPPABLE
(2010年 アメリカ 99分 シネスコ/SRD)
2012年10月13日から10月19日まで上映
■監督・製作 トニー・スコット
■製作 ジュリー・ヨーン/ミミ・ロジャース/エリック・マクレオド/アレックス・ヤング
■脚本 マーク・ボンバック
■編集 クリス・レベンゾン/ロバート・ダフィ
■撮影 ベン・セレシン
■音楽 ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
■出演 デンゼル・ワシントン/クリス・パイン/ロザリオ・ドーソン/イーサン・サプリー/ケヴィン・ダン/ケヴィン・コリガン/ケヴィン・チャップマン
■2010年アカデミー賞音響賞ノミネート/2010年放送映画批評家協会賞アクション映画賞ノミネート
その時全米市民の目は、突如出現した“走る怪物”に釘づけとなった。運転士がブレーキをかけ損なった最新鋭の貨物列車777号が無人で走り出し、時速100キロ以上の暴走を始めたのだ。しかもこの39両編成の列車は全長800メートルの威容を誇り、大量の有毒化学物質と19万リットルのディーゼル燃料を搭載。軍事ミサイル級の破壊力を秘めた777号は、容赦なく人口密集地域に向かって驀進していく。
誰もが大惨事勃発のカウントダウンに天を仰いだとき、最後の“希望”が現れた。現場近くを走る旧式機関車1206号のベテラン機関士フランクと新米車掌ウィルが777号を急追し、暴走阻止に挑もうとしていたのだ。それは命懸けのリスクを伴う、あまりにも無謀で危険な決断だった…。
兄のリドリー・スコットと共にハリウッドを牽引し、幾多の話題作を放ってきたトニー・スコット。この創造性豊かなヒットメーカーが、“創造の女神”デンゼル・ワシントンと再び手を組み、『クリムゾン・タイド』『マイ・ボディガード』『デジャヴ』『サブウェイ123 激突』に続くコンビ5作目となる最高傑作、『アンストッパブル』を完成させた。
あくまで迫真性を追求するトニー・スコットの情熱に説得されたワシントンは、走っている列車の屋根を自ら駆け抜けることに何故か同意してしまったという。「私は正気ではないに違いない。時速45マイルで線路を疾走する列車の屋根を駆け抜ける。頭上10フィートでヘリコプターが空中静止している中、私は列車の横腹に宙吊りになるんだ。ありえないよね!」
傑出した演出力&演技力に実話ならではの重みと衝撃性、そしてCGIを多用する現代では珍しいほどリアルなスタントが巻き起こすこのスリル。列車が止まらない。ただそれだけがこんなに面白い! 公開後、日本でも熱狂的に迎えられた“アンストッパブル”な興奮を、是非劇場で体感して欲しい。