子供、女性、書籍、そして映画。
そうしたものたちへの愛情から映画を紡ぎだしたフランソワ・トリュフォー監督。
“自分の作りたいものを作る”という姿勢で撮られた作品たちは、スピルバーグ、
ウディ・アレン、アルノー・デプレシャンなど、今なお多くの監督に影響を与え続けています。
今週は、トリュフォーの自伝的色彩の濃い
“アントワーヌ・ドワネルの冒険”シリーズから3作品
『大人は判ってくれない』『アントワーヌとコレット<二十歳の恋>より』『夜霧の恋人たち』や、
彼のデビュー作で、少年たちの女性へのほのかな想いといたずら心を描いた
『あこがれ』など、手持ちカメラの心地よいスピード感や、
みずみずしい映像感覚、子供の繊細な感情、男と女の機微など、
トリュフォーの作品の魅力をあますところなく堪能できる上映プログラムとなっています。(ミスター)
監督■フランソワ・トリュフォー
1932年パリ生まれ。父親は設計技師で母親は雑誌社の秘書だった。生後すぐから祖母や叔母に預けられ、両親から愛された記憶を持たないという。そんな彼の孤独を癒したのは書物と映画だった。
初等教育を終え商店の使い走りをしていたが、映画に夢中になっていた彼は、47年にシネクラブを結成し、文化機関である「労働と文化」の映画部門を担当していたアンドレ・バザンと出会う。ところがシネクラブの上映会のトラブルから少年鑑別所に贈られ、バザンによって救い出される。彼の助手となったものの、バザンは病に倒れ、トリュフォーは職場を追われてしまう。そして工場勤めをしていたところ、女性誌「エル」の文芸部長に出会い、編集部で働くことになる。この頃、日参していたシネマテークやシネクラブで、エリック・ロメール、ジャック・リヴェッド、ジャン=リュック・ゴダールらと知り合っている。
50年、失恋の痛手から思いあまって兵役に志願。インドシナへの赴任直前に脱走を企てて失敗し、軍の刑務所に入れられる。ここでもバザンが働きかけ、52年に解放される。翌年、バザンのすすめで「カイエ・デュ・シネマ」誌に映画批評を書き始める。ここで伝統的なフランス映画を切り捨てた「フランス映画のある種の傾向」という論文を発表したため、“フランス映画の墓掘人”と恐れられるようになった。
その後も過激な批評を「アール」誌などに発表し続けていたが、54年には16ミリの短編習作を作り、また「勝手にしやがれ」のシナリオの原形も執筆している。56〜57年にはロベルト・ロッセリーニの助監督になり企画に参加するものの、実際の撮影は行われていない。
57年に初めて35ミリで撮った短編『あこがれ』を経て、58年に長編処女作『大人は判ってくれない』の撮影に入った。そしてこの作品は、撮影開始直後に亡くなったバザンに捧げられ、59年カンヌ映画祭に出品。監督大賞を受賞する。65年には敬愛するアルフレッド・ヒッチコックに50時間ものインタビューを行い、『映画術 ヒッチコック/トリュフォー』として出版している。
68年、アンリ・ラングロワがシネマテークを解雇された事件をきっかけに、シネマテーク擁護委員会を作り抗議運動を起こす。同年、5月革命の流れの中で、ゴダールらとともにカンヌ映画祭を中断させる。
73年には、『アメリカの夜』でアカデミー賞最優秀外国語映画賞を受賞。77年にはスティーヴン・スピルバーグの『未知との遭遇』に出演。
83年の夏、『日曜日が待ち遠しい!』の次の作品の脚本に取りかかっていたところ発作に襲われ、脳の手術を受ける。入院中には、ファニー・アルダンとの間に女の子が生まれている。84年10月、脳腫瘍のためこの世を去る。享年52歳だった。モンマルトル墓地で営まれた葬儀には2000人もの参列者が訪れたという。
・王手飛車取り('56)(未)出演
・水の話/プチ・シネマ・バザール('57〜'89)監督
・あこがれ('58)監督/脚本/台詞
・勝手にしやがれ('59)原案
・大人は判ってくれない('59)監督/原案/脚本/台詞
・ピアニストを撃て('60)監督/脚本/台詞
・突然炎のごとく('61)監督/脚本/台詞
・二十歳の恋(アントワーヌとコレット)('62)監督/脚本/台詞
・柔らかい肌('63監督/原案/脚本/台詞
・マタ・ハリ('64)脚本
・彼女について私が知っている二、三の事柄('66)製作
・華氏451('66)監督/脚本
・夜霧の恋人たち('68)監督/原案/脚本/台詞
・黒衣の花嫁('68)監督/脚本
・野性の少年('69)監督/脚本/出演
・暗くなるまでこの恋を('69)監督/脚本
・家庭('70)監督/脚本
・恋のエチュード('71)監督/脚本
・私のように美しい娘('72)監督/脚本/台詞
・映画に愛をこめて アメリカの夜('73)監督/脚本/出演/製作
・アデルの恋の物語('75)監督/脚本/製作
・トリュフォーの思春期('76)監督/脚本/製作
・恋愛日記('77)監督/脚本/製作
・未知との遭遇('77)出演
・緑色の部屋('78)監督/脚本/出演
・逃げ去る恋('78)監督/脚本/製作
・未知との遭遇 特別編('80)出演
・終電車('80)監督/原案/脚本/台詞
・隣の女('81)監督/脚本/製作
・日曜日が待ち遠しい!('82)監督/脚本
・小さな泥棒('88)原作
・フランソワ・トリュフォー/盗まれた肖像('93)出演
(1957年 フランス 19分 SD/MONO)
2010年12月25日から12月27日まで上映
★『私のように美しい娘』と同時上映致します。途中休憩はありません。
■監督・脚本・台詞 フランソワ・トリュフォー
■撮影 ジャン・マリージュ
■音楽 モーリス・ル・ルー
■出演 ベルナデット・ラフォン/ジェラール・ブラン
たった19分という短い時間に凝縮された、
トリュフォーの夏のロマンス
南仏のきらめくような陽光。腕白盛りの少年たちは、揃って年上の美しい女性、ベルナデットにあこがれを抱いている。彼女が乗る自転車、ひらめくスカートの裾、サドルの残り香…。ある日、ベルナデットが恋人のジェラールとデートしているのを見た少年たちは、心が嫉妬に疼くのを感じた。そして、どうせ手の届かない恋ならばと、2人の邪魔をしてやることにしたのだった。
(1972年 フランス 99分 SD/MONO)
2010年12月25日から12月27日まで上映
★『あこがれ』と同時上映致します。途中休憩はありません。
■監督・脚本・台詞 フランソワ・トリュフォー
■撮影 ピエール=ウィリアム・グレン
■音楽 ジョルジュ・ドルリュー
■出演 ベルナデット・ラフォン/アンドレ・デュソリエ/シャルル・デネル
皮肉たっぷり&コミカル&チャーミング
悪女をめぐる懲りない男たちのおとぎ話!
社会学者のスタニスラスは女性の犯罪について論文を書くために、女因カミーユにインタビューすることになった。カミーユは9歳の時に父親を“墜落死”させて以来、犯罪を繰り返している強者だ。インタビューをするうちに、生真面目なスタニスラスはすっかりカミーユの虜になっていく。再び殺人犯に仕立て上げられたカミーユを救うため、奔走するスタニスラスだったが…。
(1961年 フランス 107分 シネスコ/MONO)
2010年12月25日から12月27日まで上映
■監督・脚本・台詞 フランソワ・トリュフォー
■撮影 ラウル・クタール
■音楽 ジョルジュ・ドルリュー
■出演 ジャンヌ・モロー/オスカー・ウェルナー/アンリ・セール/マリー・デュボワ
揺れ動く三角関係の心
ジャンヌ・モローの輝く美しさに目が離せない
親友同士のジュールとジムは、情熱的で奔放な女性カトリーヌに恋をする。ジュールは彼女にプロポーズするが、ジムは、彼女は妻に向かないと言った。ジュールと結婚した彼女だが、ジムと再会したことで二人に愛の炎が燃え上がる。カトリーヌの気持ちを知ったジュールは、ジムに彼女と結婚して3人で暮らしたいと頼むのだった。しかし、小さな食い違いでジムとカトリーヌの関係が崩れはじめる。ある日出かけた河岸で、カトリーヌはジムをドライブに誘い、壊れた橋に向かってスピードを上げた。
(1962年 フランス 31分 シネスコ/MONO)
2010年12月28日から12月31日まで上映
★『夜霧の恋人たち』と同時上映致します。途中休憩はありません。
■監督・脚本・台詞 フランソワ・トリュフォー
■撮影 ラウル・クタール
■音楽 ジョルジュ・ドルリュー
■出演 ジャン=ピエール・レオー/マリー=フランス・ピジェ/パトリック・オーフェー
恋愛の仕方も判らない、青年のほろ苦い恋
世界各国の5人の監督が描いた<二十歳の恋>のフランス篇。17歳になったアントワーヌ・ドワネルはレコード会社で働いている。ある晩、旧友ルネと音楽会へ行き、そこで出会った美しい娘コレットに夢中になったアントワーヌは、彼女を追いかけ、ついに親しくなる。彼女の両親にも気に入られ、たびたび家に呼ばれるアントワーヌだったが、コレットは素っ気なく、ほかの男友達と出かけてしまう。『大人は判ってくれない』に続く、アントワーヌ・ドワネルものの第2作目。
(1968年 フランス 92分 ビスタ/MONO)
2010年12月28日から12月31日まで上映
★『アントワーヌとコレット <二十歳の恋>より』と同時上映致します。途中休憩はありません。
■監督・原案・脚本・台詞 フランソワ・トリュフォー
■撮影 ドニ・クレルヴァル
■音楽 アントワーヌ・デュアメル
■出演 ジャン=ピエール・レオー/クロード・ジャド
■全米批評家協会賞監督賞
大人になったアントワーヌの恋を
優しい眼差しで描いた佳作!
軍から除隊されたアントワーヌ・ドワネルは、パリに戻り、自分の気持ちを確かめようと昔の恋人・クリスティーヌの家を訪れる。だが、あいにくクリスティーヌは不在で、かわりに彼女の父親から仕事を紹介されたアントワーヌは、ホテルで夜勤を始めることになった。いくつか職を変え、いく人か恋人を持ったアントワーヌに対し、クリスティーヌはアントワーヌを待ち続けていて…。アントワーヌ・ドワネルものの第3作目。
(1959年 フランス 99分 シネスコ/MONO)
2010年12月28日から12月31日まで上映
■監督・原案・脚本・台詞 フランソワ・トリュフォー
■撮影 アンリ・ドカ
■音楽 ジャン・コンスタンタン
■出演 ジャン=ピエール・レオー/アルベール・レミー/クレール・モーリエ
■カンヌ国際映画祭監督賞
少年映画の金字塔!悲しみ、孤独、独立への渇望――
若き天才・トリュフォーの名を世界に知らしめた永遠の傑作!
12歳のアントワーヌ・ドワネルは、共働きの両親のために家事を手伝い、宿題も手につかなかった。ある日、友達のルネと学校をさぼったアントワーヌは、街で母親が見知らぬ男とキスしているのを見かける。翌日、目の仇にされている教師からさぼった理由を聞かれ、思わず「母が死んだ」と嘘をつくが、それがばれて父親に平手打ちされてしまった。家庭にも学校にも自分の居場所を見いだせないアントワーヌは、ついに家を飛び出す。自伝的要素の強い長編デビュー作。