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海に棲む生物、牡蠣は、その日の海水の温度によってオス・メスの性別を変えるという。
最初その話を聞いた時は、なんと主体性の無い、気楽な生き物だと思った。
『十二人の怒れる男』と、続けて『12人の優しい日本人』を観ながら、そんな話を思い出した。

並べてみるとなんだか紛らわしいこの二本の映画のタイトル。
共通点は、二本とも12人の陪審員が主人公である。

pic 十二人の怒れる男
12 ANGRY MEN
(1957年 アメリカ 96分)
2006年10月14日から10月20日まで上映 ■監督 シドニー・ルメット
■脚本 レジナルド・ローズ
■出演 ヘンリー・フォンダ/リー・J・コップ/エド・ベグリー/マーティン・バルサム

■1957年ベルリン国際映画祭金熊賞・国際カトリック映画事務局賞受賞/1957年アカデミー賞3部門ノミネート(作品・監督・脚色)

配給:シネカノン

『十二人の怒れる男』は1956年、全米でテレビ番組として放映され、当時としてはあまりの奇抜なストーリー展開が話題になり、ついに往年の映画スター、ヘンリー・フォンダが自ら製作を買って出て、見事映画化となった。本作で主演も努める彼が、製作を手がけた映画は、彼の生涯においてこれが唯一である。

父親殺しの罪に問われた18歳の少年。全ての審議を終え、あとは12人の陪審員の評決にゆだねられるのみとなった。評決は陪審員全員一致の評決でなければならない。そして「有罪」の評決が出れば少年は間違いなく死刑となる。…陪審室の蒸し暑い空気は、素性の知れない男達に評決をせかした。

1回目の評決は、「有罪」11票。
「無罪」、1票。その男、陪審員8号。

初めは全く相手にされなかった8号だったが、「有罪」と答えた11人にその理由を聞くうちに、11人のほとんどが、人の生死を決めるにはあまりにも根拠が希薄であることが露呈する。本当にあの証言は正しかったのか?少年の言ったことは嘘ではなかったのでは?議論は二転三転し、やがて初めは「有罪」と答えた人々の心は揺らぎ…。十二人の怒れる男達のもう一つの裁判は、果たして真実に辿り着けるのか?


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そしてタイトルは似ているけど、全く対照的な『12人の優しい日本人』。
三谷幸喜が『十二人の怒れる男』を下敷きに、話の方向性を180℃変えて
架空の陪審員制度をコメディに叩き直したオリジナルの作品なのである。

pic 12人の優しい日本人
(1991年 日本 119分)
2006年10月14日から10月20日まで上映 ■監督 中原俊
■脚本 三谷幸喜と東京サンシャインボーイズ
■出演 塩見三省/相島一之/上田耕一/梶原善/豊川悦司

バツイチ、子持ちのシングルマザーが起こした事件の審議のために、12人の見ず知らずの陪審員が集められた。気まずい空気の中で、のっけから全員が「被告は無罪」で評決は一致してしまう。しかし「正当防衛だとしても、向かって走って来るトラックに、元夫を突き飛ばして死なせた被告がなぜ無罪なのか?」という一人の男の問いかけに、「だって(被告は)若いし美人だし」「とても悪い人には見えない」「だって早く評決を出して会社に戻りたい」などなど、なんともお粗末な返事が返ってくる。釈然としない男は、一人「有罪」に評決を翻し・・・

「お国柄」という言葉がある。『十二人の怒れる男』で12人の個性の激しい衝突が、アメリカという超大国の複雑な性格を象徴しているとすれば、『12人の優しい日本人』は、話し合いを進めれば進めるほどすってんてんな方向に転がっていく。話下手な大人達の、生暖かい優しさを育む、日本という島国のある種の豊かさを象徴している。

それぞれの12人の意見の変え方が対照的で、『十二人の怒れる男』で最初は有罪だった11人の陪審員達を相手に、一人で無罪を主張するヘンリー・フォンダ扮する8号は紳士的に、静かに周りを圧倒していくのに対して、『12人の優しい日本人』で、同じく多勢を相手に説得する相島の姿は、ヒステリックで思いやりがなく、あげく評決でずるっこをする。他の陪審員達も、なんだかいたずらに意見をひらひら替える。全く情けなくてつかめない。明日は一体どっちに変化してしまうかわからない、牡蠣みたいに。

『十二人の怒れる男』の大ファンで、『12人の優しい日本人』は観ていない、という方には、もしかしたら最初はパロディを観ているような気分になるかも知れない。でも滑稽さの裏に潜む、人を見つめる鋭利な観察眼は彼の名作に負けず劣らずだ。各シーンに散りばめられた、名作へのオマージュとも取れる伏線も楽しめる。

しかし、両作品に共通してラストに感じるのはほろ苦いやるせなさ。

「だってそうだろ。生き物ってたいがいこんなもんだろ。」
不細工な二枚貝がぱくぱく動いて、似つかわしくないひょうきんな声がおちょくるように囁いた。

(猪凡)



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