【2023/1/21(土)~1/27(金)】『LAMB/ラム』『ザリガニの鳴くところ』

もっさ

今週の早稲田松竹は大自然の中で人間の欲望が渦巻く『LAMB/ラム』と『ザリガニの鳴くところ』をお届けいたします。ジャンルは異なる作品ではありますがどちらも美しい自然が印象的。目の前に広がる世界は魅力的なのに、纏う空気はミステリアス…例えるならば、棘だらけの薔薇のような、獲物を惹きつけて離さない食虫植物のような…そんな二本立てです。

『LAMB/ラム』の舞台はアイスランドの山間の農場。子供を亡くし喪失感を抱えた羊飼い夫婦と彼らの前に現れた、羊から生まれた羊ではない存在“アダ”との交流を描きます。夫婦がまるで自分の子供のようにアダに愛情を注ぐ姿は一見、異質なものを受け入れた一種の幸せな家族像にも映るけれど、羊たちの「メェェ~」という鳴き声と、訴えかけるような視線にハッとさせられるのです。「あれ、おかしいぞ」と。そして、この物語を不穏な空気にしたはずの存在“アダ”のことを「アダちゃん可愛い…」と、どんどん好きになっている自分に妙な気持ちになりながら、冒頭から続く不穏な空気を払拭できないままラストを迎えます。その目の前に映る展開に「こ、これは一体どういうこと?!」と、まるで大自然の中に突然放り出されたように、映画の中で迷子になってしまいます。

一方、『ザリガニの鳴くところ』の舞台はノースカロライナ州の湿地帯。家族に置き去りにされ、ひとり湿地帯で生きるカイアが殺人事件の容疑者として裁判にかけられたことをきっかけに、彼女の生い立ちと生き様が紐解かれてゆきます。周囲の人たちは彼女を蔑むけれど、自然に愛し愛され生き抜いてきた彼女は、強くたくましく美しく、とても魅力的。事件の真相を追うミステリーと共に、そんな彼女の魅力に引き寄せられる2人の男性との恋路にもドキドキしながら、すっかり惹きこまれてしまいます。そして、この偏見だらけの世の中は、彼女の無垢な瞳にどう映っているのだろう。と、時に聖者のように見えるカイアの無事を祈るような気持ちで見届けることになるのです。

どんなきれいごとを並べても、大自然の美しさには到底かなわないし、生死を賭けた弱肉強食の世界では、人間の欲望なんてこれっぽっちも役に立たないと、それぞれの展開に翻弄されながら、ひしひしと感じさせられる物語です。ぜひ、スクリーンに広がる美しい自然に魅了されながら、衝撃のラストまでお楽しみください。

LAMB/ラム
Lamb

ヴァルディミール・ヨハンソン監督作品/2021年/アイスランド・スウェーデン ・ポーランド/106分/DCP/シネスコ/R15+

■監督 ヴァルディミール・ヨハンソン
■脚本 ショーン/ヴァルディミール・ヨハンソン
■撮影 イーライ・アレンソン
■編集 アグニェシュカ・グリンスカ
■音楽 ソーラリン・グドナソン

■出演 ノオミ・ラパス/ヒルミル・スナイル・グズナソン/ビョルン・フリーヌル・ハラルドソン/イングヴァール・E・シーグルソン

■第74回カンヌ国際映画祭ある視点部門受賞/第34回ヨーロッパ映画賞視覚効果賞受賞/第93回ナショナル・ボード・オブ・レビュー外国映画賞トップファイブ ほか多数受賞

©2021 GO TO SHEEP, BLACK SPARK FILM &TV, MADANTS, FILM I VAST, CHIMNEY, RABBIT HOLE ALICJA GRAWON-JAKSIK, HELGI JÓHANNSSON

【2023/1/21(土)~1/27(金)上映】

禁断(タブー)が、産まれる。

山間に住む羊飼いの夫婦イングヴァルとマリア。ある日、二人が羊の出産に立ち会うと、羊ではない何かが産まれてくる。子供を亡くしていた二人は、"アダ"と名付けその存在を育てることにする。奇跡がもたらした"アダ"との家族生活は大きな幸せをもたらすのだが、やがて彼らを破滅へと導いていく——。

世界が騒然、そして絶賛! 禁断のネイチャー・スリラー

話題作を次々と世に送り出す気鋭の製作・配給会社「A24」が北米配給権を獲得し、カンヌ国際映画祭で上映されるやいなや観客を騒然とさせた衝撃の話題作『LAMB/ラム』。主演・製作総指揮を務めるのは『プロメテウス』、『ミレニアム』シリーズで知られるノオミ・ラパス。監督は、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』などの特殊効果を担当、本作が長編デビューとなる北欧の新たな才能ヴァルディミール・ヨハンソン。

衝撃的な設定の中にもリアリティを持った世界観を構築したことで世界から称賛を浴び、第74回カンヌ国際映画祭のある視点部門で《Prize of Originality》を受賞、アカデミー賞®国際長編部門アイスランド代表作品にも選出されるなど批評家からも高い評価を受けた。その存在はなぜ産まれてしまったのか?前代未聞の衝撃展開が、あなたの想像力を刺激する。

ザリガニの鳴くところ
Where the Crawdads Sing

オリヴィア・ニューマン監督作品/2022年/アメリカ/125分/DCP/シネスコ

■監督 オリヴィア・ニューマン 
■製作 リース・ウィザースプーン/ローレン・ノイスタッター
■原作 ディーリア・オーエンズ 『ザリガニの鳴くところ』(早川書房)
■脚本 ルーシー・アリバー
■撮影 ポリー・モーガン
■編集 アラン・エドワード・ベル
■音楽 マイケル・ダナ
■オリジナルソング テイラー・スウィフト「キャロライナ」

■出演 デイジー・エドガー=ジョーンズ/テイラー・ジョン・スミス/ハリス・ディキンソン/マイケル・ハイアット/スターリング・メイサー・Jr/デヴィッド・ストラザーン

■2023年ゴールデン・グローブ賞歌曲賞ノミネート

【2023/1/21(土)~1/27(金)上映】

真相は、初恋の中に沈む――

1969年、ノースカロライナ州の湿地帯で、裕福な家庭で育ち将来を期待されていた青年の変死体が発見された。容疑をかけられたのは、‟ザリガニが鳴く”と言われる湿地帯でたったひとり育った、無垢な少女カイア。彼女は6歳の時に両親に見捨てられ、学校にも通わず、花、草木、魚、鳥など、湿地の自然から生きる術を学び、ひとりで生き抜いてきた。そんな彼女の世界に迷い込んだ、心優しきひとりの青年。彼との出会いをきっかけに、すべての歯車が狂い始める…。

全世界1500万部突破の大ベストセラーミステリー待望の映画化――少女の成長とある事件をめぐる物語

動物学者ディーリア・オーエンズによるミステリー小説「ザリガニの鳴くところ」。不思議なタイトルからは想像もつかない、ひとつの殺人事件をめぐる息詰まるミステリーと、両親に見捨てられながらもノースカロライナの湿地帯でたった一人、自然に抱かれて逞しく生きる少女の物語は全米中の人々の心を掴み、2019年&2020年の2年連続でアメリカで最も売れた本に。さらに日本でも2021年に本屋大賞翻訳小説部門第1位に輝き、全世界では累計1500万部を超える驚異的な数字を打ち出している。

「読み始めたら止まらなかった」と原作に惚れ込んだ女優リース・ウィザースプーンが、自身の製作会社ハロー・サンシャインを通して映像化権を得て自らプロデューサーを担当。主人公のカイアを、英ドラマ「ふつうの人々(ノーマル・ピープル)」で2021年ゴールデン・グローブ賞テレビ部門(ミニシリーズ・テレビ映画部門)主演女優賞にノミネートされて注目を浴びた、新星デイジー・エドガー=ジョーンズが演じる。さらに本作は、世界的シンガーソングライターのテイラー・スウィフトが、原作を愛するあまり、「この魅力的な物語に合うような、心に残る美しい曲を作りたかった」と自ら懇願して楽曲を書き下ろしたことでも話題になっている。