【2021/11/27(土)~12/3(金)】『1秒先の彼女』+『熱帯魚 デジタルリストア版』/『ラブ ゴーゴー デジタルリストア版』 // 特別レイトショー『祝宴!シェフ』

すみちゃん

間違いなく私の師匠! 恩師! 一度も会ったことがないのに、チェン・ユーシュン監督へ抱く感情は、「あの時はお世話になりました。」的な感謝と親近感である。

チェン・ユーシュン監督の作品に出てくる人たちは、みなちょっと変わっていて、スーパー愛おしい。『熱帯魚』では受験戦争という現実とは違った世界を生きる、夢見がちな中学生の男の子ツーチャン。『ラブ ゴーゴー』ではなかなか思いを打ち明けられないケーキ職人の男性アシェンや、拾ったポケベルの持ち主に恋をするぽっちゃりな女の子リリー、営業がうまくいかない男の子アソン。『祝宴!シェフ』ではモデルという夢に破れ、段ボールに顔をうずめがちなシャオワンが実家に帰り、そして待ちに待った新作『1秒先の彼女』では、ワンテンポ早い郵便局員の彼女シャオチーとワンテンポ遅いバス運転手の彼グアタイが出会う。なんだかみんなうまく生ききれていない人たちが登場する。

ちょっと変わっているというのは、おそらく登場人物たちがそれぞれに思い描いている世界が私たちにも見えるからそう感じるのではないかと思う。『熱帯魚』のツーチャンの妄想した世界がアニメーションなどを用いて映像で表現され、『ラブ ゴーゴー』のアシェンの初恋への想いは、ケーキに込められる。『1秒先の彼女』のシャオチーがハマっているラジオを聞いているときは、彼女が想像しているラジオDJが窓の外から突然現れ、ドレッサーからは不思議な世界が広がっていく。

私たちが何気なく頭の中だけで妄想し想像していることが、チェン・ユーシュン監督作品の中で生きている人々の場合は他人にだだ漏れだ。だけれど、みんなしれっと仕事をして受験勉強をして、私たちと同じような生活をしている。まるで、同じ職場に、同じ教室にいる人みたいに!もしかしたらみんながみんな妄想や想像している訳じゃないのかもしれないけれど、少なくとも私は、今でもずっと夢見がちだし、妄想の中で会話しすぎて本当に会話した気持ちになって頭の中が混乱することもある。そんな私からしたら、頭の中と現実が同じ世界にあるって、心底納得できるし、私みたいな人間を見つけて描いてくれたように感じたのだ。

チェン・ユーシュン監督は、『熱帯魚』『ラブ ゴーゴー』を撮った後、CM業界に活躍の場を移した。2000年前後は、台湾映画自体がほとんど撮られていない時期でもあり、チェン・ユーシュン自身も何を撮ればよいのかわからなくなっていた。その時期を空白期間だと監督自身は述べているけれど、空白なんてことはないはずだ!と思って、私は広告時代の映像を探しまくった。ラーメンスナック菓子の張君雅小妹妹というCMや、台湾のコーラでお馴染みの黑松沙士の偷渡客篇、阿Q桶麵、維力炸醬麵、スポーツ宝くじの運動彩卷などなど、探すとどんどん見つかった。そして30秒や1分の中にもしっかりとチェン・ユーシュン監督作品に生きているようなおちゃめで愛おしい人たちばかりが映っていた。言葉が分からなくても、表情や人物の動きや特徴でもう十分だった。むしろ、広告にとっても向いている人でもあったのだと感じた。人の心に残るような瞬間を、彼はたくさん作ることのできる人なんだ!

彼の映画内で起こる信じられないような奇跡を、こんなにもいいんですか?と言ってしまいたくなるほどわたしたちは目撃することになる。『熱帯魚』では誘拐犯家族と誘拐されたタウナンとツーチャンが仲良く生活を共にし、『祝宴!シェフ』では借金の取り立てに来た男たちと借金を背負っているシャオワンが一緒に全国宴席料理大会で1位を目指す。そう、みんな自分の置かれた状況がよく分からなくなり、人のよさがついつい出てしまって、結局仲良くなってしまうのだ。あぁ、なんて優しいんだ。こんな風にわたしも分かり合えない人と仲良くなりたい。こんな風に社会に受け入れられたい。だから私は、チェン・ユーシュン監督の作る世界に感謝したくなるのだと思う。そして、「これからもどうぞよろしくお願いします。」とついつい映画を観た後に、泣きながら笑ってつぶやくのだった。

熱帯魚 デジタルリストア版
Tropical Fish

チェン・ユーシュン 監督作品/1995年/台湾/108分/DCP/ビスタ

■監督・脚本 チェン・ユーシュン
■撮影 リャオ・ベンロン
■編集 チェン・シェンチャン
■音楽 ユィ・グアンイェン

■出演 リン・ジャーホン/シー・チンルン/リン・チェンシェン/アピポー/ウェン・イン/リェン・ピートン/ホアン・メイウェン

■第48回ロカルノ国際映画祭青豹賞・国際批評家連盟賞/第32回金馬奨最優秀脚本賞・最優秀助演女優賞/1995年モンペリエ映画祭 ゴールデンパンダ賞

©Central Pictures Corporation

【2021/11/27・29・12/1・3上映】

日本以上の学歴社会、台湾で加熱していく誘拐報道――人々の関心は<少年の無事>から<少年は無事に入試を受けられるのか>に変化してゆく

受験戦争にまったくなじめない夢見がちな台北のボンクラ少年。そんな少年をなりゆきで誘拐してしまった、超田舎な一家の、これまた一風変わった面々。誘拐報道がヒートアップする台北がまるで別世界のように、少年は連れ去られた南部の漁村で、白昼夢のような不思議な時間を過ごし、そして謎めいた少女と遭遇する。はたして彼は、無事に(?)台北へ戻り、高校受験に間に合うことができるのだろうか――。

台湾青春映画だけが持つ、みずみずしさとイノセンスの源泉がここに――チェン・ユーシェン監督の珠玉のデビュー作!

チェン・ユーシェン監督が1995年に発表した処女作『熱帯魚』。テレビドラマ出身のチェン監督は、当時台湾で頻発していた誘拐事件に高校入試を控えた生徒が巻き込まれるというユニークな設定のコメディ娯楽映画を世に送り出し、一躍注目を浴びた。

自身初の監督作品を撮るにあたり、チェン監督は“台湾” を意識したという。当時の世相を反映するさまざまな要素をユーモアたっぷりに盛り込みつつ、急速に都市化する生活で失われつつあった、台湾人が元来持ち合わせている古き良き人情味や、素朴さ、そして人の良さをコミカルなタッチで描きだしている。その背景は、台湾青春映画『あの頃、君を追いかけた』(11)や『私の少女時代』(15)に描かれる、1990年代半ばの台湾のリアルタイムな姿であり、チェン監督の考える荒唐無稽な台湾の日常だった。

エドワード・ヤン、ホウ・シャオシェンら“台湾ニューシネマ”の系譜から突如出現した異端の新人の奇跡のデビュー作。先達たちのアーティスティックな影響はそこかしこに感じさせつつ、先読みできないストーリーとこれまでにない軽やかさは一度観たら忘れることができない。

ラブ ゴーゴー デジタルリストア版
Love Go Go

チェン・ユーシュン 監督作品/1997年/台湾/113分/DCP/ビスタ

■監督・脚本 チェン・ユーシュン
■撮影 リャオ・ベンロン
■編集 チェン・ボーウェン
■音楽 ワン・ジーカン/ウー・グワンイン

■出演 タン・ナ/シー・イーナン/ミッキー・ホアン/チェン・ジンシン/リャオ・ホイヂェン/マー・ニエンシエン/チウ・シューミン

■第34回金馬奨最優秀助演男優賞・最優秀助演女優賞受賞

©Central Pictures Corporation

【2021/11/28・30・12/2上映】

人生は、恋の予感に溢れてる――

ケーキ職人のアシェンが働くパン屋に、小学校の同級生で初恋の相手リーホァがやって来る。アシェンと同じアパートに住むリリーは偶然拾ったポケベルがきっかけで、まだ見ぬ留守電の君と恋に落ちる。痴漢撃退グッズのセールスマン・アソンが訪れたリーホァの美容室に、リーホァの恋人の妻が半狂乱でやって来る…。

鬼才チェン・ユーシュンが贈る、誰にでも訪れる"恋の季節"の物語

デビュー作『熱帯魚』に続く長編二作目の『ラブ ゴーゴー』。台北に住む冴えない若者たちに訪れた、切なくもどこか滑稽な“恋の季節” をポップなタッチで描いた快作だ。

アシェンを演じたチェン・ジンジンは映画の裏方スタッフ、リリー役のチャオ・ホイヂェンはテレビ業界のマネージャーと、2人とも演技はズブの素人。しかし以前からの知り合いだったチェン・ユーシェンがその存在感に目をつけて大抜擢。結果2人とも見事その年の金馬奨受賞という快挙を成し遂げた。

成就しなかった初恋に決着をつける決心をするブサイクな男や、恋に恋してしまった夢見るおデブちゃん――。美醜や貴賤に関係なく、誰にでも恋愛する権利はあるし、チャンスもある。恋愛物語の主人公は、判で押したように現実味のない美男美女ばかりという、映画のステレオタイプから離れ、チェン監督は人間への肯定的な優しいまなざしで現実を生きる私たちにそっと寄り添う。

1秒先の彼女
My Missing Valentine

チェン・ユーシュン 監督作品/2020年/台湾/119分/DCP/シネスコ

■監督・脚本  チェン・ユーシュン
■撮影 チョウ・イーシェン
■編集 ライ・シュウション
■音楽 ルー・ルーミン

■出演 リー・ペイユー/リウ・グァンティン/ヘイ・ジャアジャア/ダンカン・チョウ/イ・ユンミ/クォン・ヘヒョ/シン・ソクホ/ハ・ソングク

■第57回金馬奨作品賞・監督賞・脚本賞・編集賞・視覚効果賞受賞、主演男優賞・主演女優賞ほか4部門ノミネート/第25回釜山国際映画祭オープンシネマ部門正式出品

©MandarinVision Co, Ltd

【2021年11月27日から12月3日まで上映】

急がなくても大丈夫。愛はゆっくりやってくる。

郵便局で働くシャオチーは、仕事も恋もパッとしないアラサー女子。何をするにもワンテンポ早い彼女は、写真撮影では必ず目をつむってしまい、映画を観て笑うタイミングも人より早い...。ある日、ハンサムなダンス講師とバレンタインにデートの約束をするも、目覚めるとなぜか翌日に。バレンタインが消えてしまった…!? 秘密を握るのは、毎日郵便局にやってくる、常にワンテンポ遅いバス運転手のグアタイらしい。シャオチーは街中の写真店で、なぜか目が見開いている見覚えのない自分の写真を偶然見つけるが…。

台湾アカデミー賞(金馬奨)最多5冠に輝くチェン・ユーシュン監督の原点回帰にして最高傑作!

『エターナル・サンシャイン』『アバウト・タイム 〜愛おしい時間について〜』など、これまで「時間」をテーマにした数々の名作ラブストーリーが生み出されてきた。『1秒先の彼女』がその系譜に連なりつつも一線を画すのは、オリジナリティあふれるアイデアと巧みなストーリー展開。そして、不器用でなんともユニークな登場人物たちの個性キャラクターが愛おしい。

台湾映画新世代の〈異端児〉チェン・ユーシュンの長編5作目にして、20年前から温めていた脚本を基に撮りあげたという本作。「時間」と「愛」についての物語は、今この時代を生きる私たちの心にそっと寄り添ってくれる。

チャーミングな人柄そのままにシャオチーを演じるのは、人気司会者であり俳優のリー・ペイユー。グアタイを演じるのは、いま台湾で大ブレイク中の実力派俳優リウ・グァンティン。愛すべきはみ出し者たちをユーモアと優しさ溢れる眼差しで描いてきたチェン・ユーシュンの原点回帰にして、第57回台湾アカデミー賞(金馬奨)で作品賞をはじめ最多5冠に輝く渾身の最高傑作!

【特別レイトショー】祝宴!シェフ
【Late Show】Zone Pro Site: The Moveable Feast

チェン・ユーシュン監督作品/2013年/台湾/145分/DCP/シネスコ

■監督・脚本 チェン・ユーシュン
■撮影 チェン・シャン
■編集 チョン・カーワイ
■音楽 オウエン・ワン

■出演 リン・メイシウ/トニー・ヤン/キミ・シア/ウー・ニエンチェン/クー・イーチェン/キン・ジュウェン

■第16回台北映画祭最優秀助演女優賞・最優秀美術賞受賞/第13回ニューヨーク・アジア映画祭観客賞受賞/第12回イタリア・アジア映画祭観客賞受賞

©2013 1 PRODUCTION FILM COMPANY. ALL RIGHTS RESERVED.

【2021年11月27日・28日上映】

しあわせで満腹!!

台湾では、お祝いごとがあると屋外で宴が開かれ、そこで腕を振るう、総舗師(ツォンポーサイ)と呼ばれるおもてなしの心を極めた宴席料理人がいる――その中でも、“神”と称された伝説の料理人を父に持つシャオワンは、料理を嫌い、モデルを夢見て家を飛び出していたが、夢破れ帰省。そこで亡き父がレシピノートに残した“料理に込めた想い“に心を動かされたシャオワンは、時代の趨勢で衰退の一途をたどっている宴席料理の返り咲きをかけ、全国宴席料理大会への出場を決意する。しかし料理は初心者。果たして、シャオワンは父の想いを引き継ぎ、 “究極の料理”に辿りつくことができるのか?

笑って泣いてお腹が空く! 前人未到で空前絶後な"おもてなし"エンターテインメント!

『熱帯魚』『ラブ ゴーゴー』で世界に衝撃を放った台湾映画界のヒットメーカー、チェン・ユーシュン監督。97年の前作発表後、CM業界に活躍の場を移し、数々の賞を受賞。しかし映画製作に対する情熱は消えることなく、その後短編作品で映画界に返り咲く。そして本作『祝宴!シェフ』は実に16年ぶりの長編復帰作となった。

美食の街・台南を舞台に独創的な世界観で描くのは、”人々を幸せにする究極の料理”を巡って、個性的で愛すべき登場人物たちが繰り広げる幸福な大喜劇。見た目も美しく、食べたくなること必至の絶品料理の数々がスクリーンを鮮やかに彩る。