
ちゅんこ
新教皇を選出する選挙「コンクラーベ」は、ラテン語で「鍵と共に」を意味するという。その名の通り、映画『教皇選挙』は、これまで完全なる秘密のベールに覆われた選挙戦の内幕を描いた物語だ。主席枢機卿のローレンスは、コンクラーベを円滑、公平に行う責務を負う立場でありながらも、信仰心の揺らぎという自らの問題を抱えている。さらに次々と降りかかる問題に、ローレンスは苦悩を深めていく…。宗教を扱っているということもあって、観る前は重そうな話なのかなと思っていたが、厳かな雰囲気を滲ませつつも、映画は意外なほど軽やかで、またエンタメ作の良品としてつくられている。聖職者たちが電子タバコを吸ったり、わがままだったり、私たちと同じ欠点もあれば脆さもある人間として描かれていて面白い。映画の終盤に明かされる衝撃の真実を目の当たりにしたとき、あなたは何を感じるだろうか。
『エミリア・ペレス』は、ひとりの女性として新たな人生を歩もうとする元メキシコの麻薬王マニタスだったエミリアと、彼女をめぐる3人の女性を描いた異色のミュージカル・エンターテインメントだ。マニタスは麻薬王として暴力が支配する世界のトップに立ち、金や権力すべてを手にしているように思えるが、言えなかった本当の想い――女性として生きたいという願いだけは叶わない。たとえすべてを失っても自分らしくありたいと願うマニタスの心の叫びが聞こえてくるようで、観ていて胸が締めつけられる。『教皇選挙』と『エミリア・ペレス』は、一見すると全く違うタイプの作品に思えるが、どちらも男性優位の社会の陰で抑圧される女性たちやマイノリティを描いている。
トップモデルから転身、20世紀を代表する女性報道写真家の情熱的で数奇な運命を描く『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』。あらゆる才能に恵まれたリーは、第二次世界大戦が激化する中、自らの命の危険を顧みず、戦場に残り、真実をカメラに収め続けた。果たして、彼女をそこまで駆り立てたものは何だったのか。リーは、すべてが順調な人生を歩んでいたわけでは決してない。本当の苦しみを知っていたからこそ、彼女は目の前に広がる惨状を他人事として放っておけず、その陰で苦しむ人々の痛みを自らの痛みとして受け止めたのではないだろうか。製作・主演を務めるケイト・ウィンスレットは、そんな彼女の生き方を見事に体現してみせた。
『アイム・スティル・ヒア』は、1970年代軍事独裁政権下のブラジルを舞台に描かれている。美しい海辺の町で5人の子どもたちと穏やかに暮らしていたルーベンス一家の日常は、ある日、父親のルーベンスが軍に連行されたことで終わりを告げる。その後、妻・エウニセと娘の一人も軍に拘束され、取り調べを受けるが、釈放後もルーベンスの行方はつかめないまま、25年の月日が流れる…。原作は、マルセロ・パイヴァによる自伝的小説『Ainda estou aqui(私はここにいる)』。5人兄弟の4番目として事件を経験したマルセロは、当時まだ11歳の少年だった。彼はやがて自身の経験を基に家族の記憶を綴る。監督のウォルター・サレスは子どものころ、今作の主人公であるパイヴァ一家と友人だった。すでに半世紀が経過した今も、監督はパイヴァ家を訪れていた当時の記憶が忘れられず、本作を撮るに至ったという。
ブラジルは1964年から1985年まで、21年間にわたり軍事独裁政権が続いた。そんなにも長い間、人々は自由を奪われ、恐怖と戦い続けた。半世紀も前、地球の裏側の国の話だと思うかもしれない。けれど、本当に私たちと関係のない話だろうか。『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』の中で、とても恐ろしく感じたシーンがある。70歳になったリーが、若いジャーナリストから当時のことについて問われ、「ある朝ふと目が覚めると、ヒトラーが権力を掌握していた」と答えるシーンだ。歩みが遅かったから、誰もその変化に気づかなかったのだと。昨今の不穏な世界情勢を見ていると、それは決して他人事には思えず、今そこにある危機に思えてならないのだ。
エミリア・ペレス
Emilia Perez
■監督 ジャック・オーディアール
■脚本 ジャック・オーディアール/レア・ミシウス/ニコラ・リベッキ/トマ・ビデガン
■撮影 ポール・ギローム
■編集 ジュリエット・ウェルフラン
■美術 エマニュエル・デュプレ
■衣装 ヴィルジニー・モンテル
■振付 ダミアン・ジャレ
■音楽 クレモン・デュコル/カミーユ
■サンローラン芸術衣裳監修 アンソニー・ヴァカレロ
■出演 ゾーイ・サルダナ/カルラ・ソフィア・ガスコン/セレーナ・ゴメス/アドリアーナ・パス/エドガー・ラミレス/マーク・イヴァニール
■第97回アカデミー賞助演女優賞・歌曲賞受賞、ほか12部門13ノミネート/第82回ゴールデングローブ賞コメディー・ミュージカル部門作品賞・助演女優賞・非英語映画賞受賞/第77回カンヌ国際映画祭審査員賞・女優賞受賞
© 2024 PAGE 114 – WHY NOT PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA
【2026/1/31~2/6上映】
彼女はかつて、最恐の麻薬王だった――
弁護士リタは、メキシコの麻薬カルテルのボス、マニタスから「女性としての新たな人生を用意してほしい」という極秘の依頼を受ける。リタの完璧な計画により、マニタスは姿を消すことに成功。数年後、イギリスで新たな人生を歩むリタの前に現れたのは、新しい存在として生きるエミリア・ペレスだった…。過去と現在、罪と救済、愛と憎しみが交錯する中、彼女たちの人生が再び動き出す。
女たちの出会いが運命を切り開く。魂を打ち抜く、全く新しいミュージカル・エンターテイメント。
本年度ゴールデングローブ賞では最多4部門受賞、アカデミー賞®では作品賞、監督賞を含む最多12部門で13ノミネートを果たすなど、世界の観客に衝撃と感動を轟かせた『エミリア・ペレス』。
出演は、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のゾーイ・サルダナ、トランスジェンダー女優として初めてアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたカルラ・ソフィア・ガスコン、全米の若者から絶大な人気を誇る歌手のセレーナ・ゴメスら。女優たちの圧巻の演技はカンヌ国際映画祭を沸かせ、アンサンブルで女優賞を受賞。アカデミー賞ではゾーイ・サルダナが見事助演女優賞を受賞した。監督は『ディーパンの闘い』でカンヌ映画祭パルムドールに輝いたフランスの名匠ジャック・オーディアール。破天荒なストーリーをかつてない世界観で描く、ジャンルを超えた異色のミュージカル・エンターテインメントがここに!
教皇選挙
Conclave
■監督 エドワード・ベルガー
■脚本 ピーター・ストローハン
■原作 ロバート・ハリス「Conclave」
■撮影 ステファーヌ・フォンテーヌ
■編集 ニック・エマーソン
■音楽 フォルカー・ベルテルマン
■出演 レイフ・ファインズ/スタンリー・トゥッチ/ジョン・リスゴー/カルロス・ディエス/ルシアン・ムサマティ/セルジオ・カステリット/イザベラ・ロッセリーニ
■第97回アカデミー賞脚色賞受賞・作品賞ほか7部門ノミネート/第82回ゴールデングローブ賞脚本賞受賞・作品賞(ドラマ部門)ほか5部門ノミネート
© 2024 Conclave Distribution, LLC.
【2026/1/31~2/6上映】
これは選挙か、戦争か。
全世界に14億人以上の信徒を有するキリスト教最大の教派、カトリック教会。その最高指導者にしてバチカン市国の元首であるローマ教皇が、死去した。悲しみに暮れる暇もなく、ローレンス枢機卿は新教皇を決める教皇選挙<コンクラーベ>を執り仕切ることに。世界各国から100人を超える強力な候補者たちが集まり、システィーナ礼拝堂の扉の向こうで極秘の投票が始まった。票が割れるなか、水面下で蠢く陰謀、差別、スキャンダルの数々にローレンスの苦悩は深まっていく。そして新教皇誕生を目前に、厳戒態勢下のバチカンを揺るがす大事件が勃発するのだった……。
閉ざされたシスティーナ礼拝堂で行われる秘密の投票。次期ローマ教皇をめぐる極上のミステリーが、その禁を解く。
カトリック教会の総本山・バチカンのトップに君臨するローマ教皇を決める教皇選挙<コンクラーベ>は、世界中が固唾をのんで注目する一大イベントだ。ところが外部からの介入や圧力を徹底的に遮断する選挙の舞台裏は、ほんのひと握りの関係者以外、知る由もない。この完全なる秘密主義のベールに覆われた選挙戦の内幕を描くのが映画『教皇選挙』である。聖職者が政治家に見えてくるほどの熾烈なパワーゲーム、投票を重ねるたびに目まぐるしく変わる情勢、そして息を呑む急展開のサプライズ。政治的分断が深刻化している現代社会の縮図のような選挙戦の行方は、悲劇か、それとも新たな時代の希望をたぐり寄せるのか——。あらゆる観客の好奇心を刺激しながら、先読みを一切許さないストーリー展開で魅了する超一級のミステリーが、遂にその禁を解く。
リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界
Lee
■監督 エレン・クラス
■脚本 リズ・ハンナ/マリオン・ヒューム/ジョン・コリー
■撮影 パヴェウ・エデルマン
■美術 ジェマ・ジャクソン
■音楽 アレクサンドル・デスプラ
■出演 ケイト・ウィンスレット/アンディ・サムバーグ/アレクサンダー・スカルスガルド/マリオン・コティヤール/ジョシュ・オコナー/アンドレア・ライズボロー/ノエミ・メルラン
■第82回ゴールデングローブ賞主演女優賞(ドラマ部門)ノミネート
© BROUHAHA LEE LIMITED 2023.
【2026/1/31~2/6上映】
「傷にはいろいろある。見える傷だけじゃない」
1938年フランス、リー・ミラーは、芸術家や詩人の親友たち──ソランジュ・ダヤンやヌーシュ・エリュアールらと休暇を過ごしている時に芸術家でアートディーラーのローランド・ペンローズと出会い、瞬く間に恋に落ちる。だが、ほどなく第二次世界大戦の脅威が迫り、一夜にして日常生活のすべてが一変する。
写真家としての仕事を得たリーは、アメリカ「LIFE」誌のフォトジャーナリスト兼編集者のデイヴィッド・シャーマンと出会い、チームを組む。1945年従軍記者兼写真家としてブーヘンヴァルト強制収容所やダッハウ強制収容所など次々とスクープを掴み、ヒトラーが自死した日、ミュンヘンにあるヒトラーのアパートの浴室で戦争の終わりを伝える。だが、それらの光景は、リー自身の心にも深く焼きつき、戦後も長きに渡り彼女を苦しめることとなる。
あの日ヒトラーの浴室を記録した報道写真家がいた
リー・ミラーが写し出す写真には、人間が持つ脆さと残酷さの両方が刻みこまれ、今もなお人々を惹きつける重要な歴史的記録として真実を伝えている。
「VOGUE」誌をはじめトップモデルとして華やかで自由な生活を謳歌し、マン・レイ、パブロ・ピカソ、ココ・シャネル、ジャン・コクトー、コンデ・ナストら時の天才たちを魅了。類稀なる輝きは報道写真家に転身してからも光りを放ち、第二次世界大戦が始まるとその情熱とエネルギーは戦場へ向けられる。彼女はいかにして従軍記者になったのか、戦争の前線で目撃した真実、人生をかけて遺したものとは──。
彼女の生き方に大きく感銘したケイト・ウィンスレットが製作総指揮・主演で贈る、リー・ミラーの偉大で情熱的で数奇な運命が遂に映画化!
アイム・スティル・ヒア
I'm Still Here
■監督 ウォルター・サレス
■脚本 ムリロ・ハウザー/エイトール・ロレガ
■原作 マルセロ・ルーベンス・パイヴァ『Ainda estou aqui』
■撮影 アドリアン・テイジド
■編集 アフォンソ・ゴンサウヴェス
■音楽 ウォーレン・エリス
■出演 フェルナンダ・トーレス/セルトン・メロ/フェルナンダ・モンテネグロ
■第97回アカデミー賞国際長編映画賞受賞・作品賞ほか3部門ノミネート/第82回ゴールデングローブ賞主演女優賞(ドラマ部門) 受賞/第81回ヴェネツィア国際映画祭脚本賞受賞
©2024 VIDEOFILMES / RT FEATURES / GLOBOPLAY / CONSPIRAÇÃO / MACT PRODUCTIONS / ARTE FRANCE CINÉMA
【2026/1/31~2/6上映】
言葉を奪われた時代── 彼女はただ、名を呼びつづけた。
1970年代、軍事独裁政権が支配するブラジル。元国会議員ルーベンス・パイヴァとその妻エウニセは、5人の子どもたちと共にリオデジャネイロで穏やかな暮らしを送っていた。しかしスイス大使誘拐事件を機に空気は一変、軍の抑圧は市民へと雪崩のように押し寄せる。
ある日、ルーベンスは軍に連行され、そのまま消息を絶つ。突然、夫を奪われたエウニセは、必死にその行方を追い続けるが、やがて彼女自身も軍に拘束され、過酷な尋問を受けることとなる。数日後に釈放されたものの、夫の消息は一切知らされなかった。沈黙と闘志の狭間で、それでも彼女は夫の名を呼び続けた――。自由を奪われ、絶望の淵に立たされながらも、エウニセの声はやがて、時代を揺るがす静かな力へと変わっていく。
たったひとりの声が、歴史を動かすまで。
名匠ウォルター・サレスが、16年ぶりに祖国ブラジルにカメラを向けた本作は、軍事独裁政権下で消息を絶ったルーベンス・パイヴァと、夫の行方を追い続けた妻エウニセの実話に基づいている。サレス自身、幼少期にパイヴァ家と親交を持ち、この記憶を、喪失と沈黙をめぐる私的な問いとして丁寧に掘り起こした。自由を奪われ、言葉を封じられても、彼女は声をあげることをやめなかった。サレスは、理不尽な時代に抗い続けたひとりの女性の姿を、美しくも力強い映像で永遠の記憶として刻みつける。
主演はサレス作品の常連で名優フェルナンダ・トーレス。老年期のエウニセを演じるのは実の母であり『セントラル・ステーション』でブラジル人初のアカデミー主演女優賞候補となったフェルナンダ・モンテネグロ。母と娘、ふたりの女優が、記憶と時代、そして命の継承を映し出す。



























