『DREAMS』『LOVE』『SEX』

【2026/1/10~1/16】『DREAMS』/『LOVE』/『SEX』

<ダーグ・ヨハン・ハウゲルード プロフィール>


1964年、ノルウェー出身。ストックホルム大学で図書館学を学び、実際に司書として勤務していた経験がある。小説家としても活躍しており、これまでに4冊の長編小説を出版。映画監督としては、長編デビュー作「I Belong」(12)がノルウェーのアカデミー賞と呼ばれるアマンダ賞で4部門受賞(作品賞、監督賞、脚本賞、助演女優賞)、ノルウェーのクリエイターを称えるキヤノン賞で5部門受賞、ノルウェー映画批評家協会賞作品賞を受賞するなど、国内の映画賞を総なめに。

2作目の「Beware Of Children」(19)では、ヨーテボリ映画祭でドラゴン賞の最優秀北欧映画賞と男優賞を受賞したほか、ヴェネチア国際映画祭「Giornate degli Autori」部門でのワールド・プレミア上映後には、最優秀作品賞、監督賞、脚本賞、男性主演賞など、歴代史上最多となる9つのアマンダ賞を受賞するなど、ノルウェーでは映画監督として確固たる地位を築いている。

今回制作したトリロジーでは、『SEX』、『DREAMS』がベルリン国際映画祭、『LOVE』がヴェネチア国際映画祭に出品され、3作品すべてが国際映画祭で高い評価を得る快挙を成し遂げた。

パズー

多様性という言葉がこれだけ浸透した今日でも、日々生きていると、窮屈さや息苦しさを感じることってまだまだあるのではないでしょうか。人から「世間一般」的な枠に当てはめられたり、マイノリティに対する世の中の心無い言葉を耳にしたり、あるいは自分自身が周囲との差を気にしてしまったり…。

「誰かの靴を履いてみること」
これは「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」という、ブレイディみかこさんの著書に出てきた、“エンパシー(empathy)”という単語を説明した表現でした。エンパシーとは、シンパシー(=同情的な意味合い)と少々異なり、“立場が異なる相手の考え方を想像する能力”と訳されます。他者の靴を履いてみたら、「あなた」と「私」はこんなにも違うということがわかる。そこからやっと「あなた」を理解し始めることができる。

今週上映するダーグ・ヨハン・ハウゲルード監督の作品は、「恋・愛・性」についての3つの物語ですが、どの作品にもこの言葉と同じようなテーマが通底していると思います。

17歳の高校生が女性教師への初恋を記した手記を祖母に見せたことから思わぬ展開を見せる『DREAMS』、アプリなど出会い方が多様化した現代で、手探りで“親密さ”を見つけようとする大人たちを描く『LOVE』、家庭を持つ2人の中年男性が、突然自分の性を再考する出来事に見舞われる『SEX』。

様々な人物が様々に悩みながら生きています。性格、育った環境、世代、職業、性的思考――誰にだっていろいろなフィルターがあって、当たり前にみんながみんな違う人間です。そのうえ「愛」や「性」なんて、非常に曖昧で複雑な、しかも絶えず変わり続ける流動的なもの。自分ですら確信を持てる感情ではないのに、誰かに定義されるなんて到底できません。

映画の登場人物たちも、その「違い」に直面して当惑したり傷ついたりしながらも、会話をすることでなんとか自分と相手との距離を測ろうと奮闘します(だからといって、お互いが理解しあえるかというとまた別の話で、その展開がまたリアルです)。

エリック・ロメール監督やクシシュトフ・キェシロフスキ監督のトリコロール三部作に影響を受けたというハウゲルード監督。哲学的で示唆に富む会話劇や、どこか寓話的なトリロジーという形など、確かに両監督を想起させる部分もあります。しかしこの3作品には、もっと人の心の部分に触れようと試みているような、率直さや温かさを感じるはずです。また、どの作品にもLGBTQの視点が描かれていて、それが物事をフラットに考える素地を観客に与えています。

舞台はすべてノルウェーの首都オスロ。(東京に住む私からすると)基本的にすごく成熟した思考を持っている人が多く、自分の仕事に誇りがあり、それでいて時間や生活にゆとりがあってのんびりしている、理想的な都市の暮らしに見えます。もちろん実際にはオスロでだってみんながこういう風に生きているわけではないでしょう。でもそれを目指せたら、誰もがもっと生きやすくなるだろう。今週の作品たちを観たあとは、きっと前よりも少し心に自由を感じられるはずです。

DREAMS
Dreams (Sex Love)

ダーグ・ヨハン・ハウゲルード監督作品/2024年/ノルウェー/110分/DCP/ビスタ

■監督・脚本 ダーグ・ヨハン・ハウゲルード
■撮影 セシリエ・セメク

■出演 エラ・オーヴァービー/セロメ・エムネトゥ/アネ・ダール・トルプ/アンネ・マリット・ヤコブセン

■第75回ベルリン国際映画祭コンペティション部門金熊賞受賞/2025年国際映画批評家連盟賞&ドイツ・アートハウス映画組合賞

©Motlys

【2026/1/10~1/16上映】

恋に恋する少女の綴った手記が、思わぬ方向に一人歩きしていく―

女性教師のヨハンナに初めての恋をした17歳のヨハンネは、この恋焦がれる想いや高揚を忘れないように自らの体験を手記にする。そしてこの気持ちを誰かに打ち明けようと詩人の祖母に手記を見せたことから、物語は思いもよらない展開へと進み始める。

ヨハンネが経験するのは、誰もが一度は経験したことのある相手の一挙手一投足に対する期待や不安、過度な妄想、理不尽な嫉妬などあまりにも無垢な初恋。そしてその気持ちを秘密にしておきたい、でも誰かに共有したいという矛盾した思いが祖母や母を巻き込み、ヨハンネの手から離れた手記の行方が、モノローグで綴られる。娘の手記を見て、祖母は自らの女性としての戦いの歴史を思い出し、母は“同性愛の目覚めを記したフェミニズム小説”と称し、現代的な価値観にあてはめようとする。3世代で異なる価値観を持つ3人が初恋の手記を通して辿る運命はー。

LOVE
Love

ダーグ・ヨハン・ハウゲルード監督作品/2024年/ノルウェー/120分/DCP/ビスタ

■監督・脚本 ダーグ・ヨハン・ハウゲルード
■撮影 セシリエ・セメク

■出演 アンドレア・ブレイン・ホヴィグ/タヨ・チッタデッラ・ヤコブセン/マルテ・エンゲブリクセン/トーマス・グレスタッド/ラース・ヤコブ・ホルム

■第81回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門正式出品/第48回ヨーテボリ国際映画祭最優秀演技賞/第35回トロムソ国際映画祭国際映画批評家連盟賞

©Motlys

【2026/1/10~1/16上映】

愛することに不器用な大人たち――あらゆる“親密さ”を探求するロマンティック・ジャーニー

泌尿器科に勤める女性医師のマリアンヌと男性看護師のトール。共に独身でステレオタイプな恋愛を避けている。マリアンヌは友人から男性を紹介されるが、子どもがいる彼との恋愛に前向きになれない。そんな折、トールはマッチングアプリなどから始まるカジュアルな恋愛の親密性を語り、マリアンヌに勧める。興味を持ったマリアンヌは自らの恋愛の可能性を探る。一方トールは偶然フェリーで知り合った男性ビョルンを勤務先の病院で見かけーー。

出会いが多様化した現代の恋愛観がリアルに映し出されており、主人公達は劇中に度々登場するフェリーのように本能と理性をゆっくり行き来しながら、しっくりくる“親密さ”を探す。愛することに不器用な大人たちが、静かな本音をさらけ出す、3作で最も優しく今を映し出した1作。

SEX
Sex

ダーグ・ヨハン・ハウゲルード監督作品/2024年/ノルウェー/118分/DCP/シネスコ

■監督・脚本 ダーグ・ヨハン・ハウゲルード
■撮影 セシリエ・セメク

■出演 トルビョルン・ハール/ヤン・グンナー・ロイゼ/シリ・フォルバーグ/ビルギッテ・ラーセン

■第74回ベルリン国際映画祭パノラマ部門エキュメニカル審査員賞、ヨーロッパ・シネマ・レーベル賞、国際アートシネマ連盟賞受賞/第40回アマンダ賞監督賞・主演男優賞・助演男優賞・脚本賞受賞・9部門ノミネート/第69回バリャドリッド国際映画祭最優秀主演男優賞受賞

©Motlys

【2026/1/10~1/16上映】

ある日突然、男らしさを揺さぶられたら——“幸福の象徴” 煙突そうじ人が悩みに悩む異色コメディ

煙突掃除を営む妻子持ちの2人の男。ひとりは客先の男性との一度きりのセックスで新しい刺激を覚えるが、平然と妻にこの話をしたことで夫婦仲がこじれてしまう。もうひとりはデヴィッド・ボウイに女として意識される夢を見て、自分の人格が他者の視線によってどう形成されているのか気になり始める。

良き父、良き夫として過ごしてきた2人は自身に起きた衝撃的な出来事により、自らの“男らしさ”を見つめ直していく。この出来事について語られる会話には「どこからが浮気か」「夢は現実にどんな影響を与えるのか」といった誰もが一度は考えたことのある普遍的なテーマが散りばめられている。また“セックス”や“セクシュアリティ”といったデリケートな話題を含みつつも、あっけらかんとした会話にはオフビートな空気が漂う。3作で最もコメディタッチな異色作。