
おまる
私たちはなぜ、舞台に生きる人々の物語に惹かれるのだろう。喝采を浴びる一瞬のために、人生の全てを注ぎ込む。役に近づこうとすればするほど、自分という存在との境界は曖昧になり、芸はその人の生き方そのものになっていく。その姿は、華やかな舞台の向こう側にある、人間の美しさと残酷さを映し出している。
『国宝』は歌舞伎の世界に人生を捧げた二人の男の物語。任侠の家に生まれながら歌舞伎の世界に飛び込む喜久雄と、名門の血を受け継ぐ俊介。才能と血筋、努力と宿命。そのどれもが二人を結びつけ、同時に引き裂いていきます。互いを誰よりも理解しながら、誰よりも負けたくない。芸に取り憑かれたように舞台へ向かう二人の姿は、周りの人々を傷つけながらときに痛々しいほどですが、それでもなお美しい。美しい女形の姿の裏にあるのは、華やかさではなく、執念にも似た覚悟なのかもしれません。
『さらば、わが愛/覇王別姫』は、中国京劇の名作『覇王別姫』を演じ続ける二人の役者の半生を、中国近現代史と重ね合わせて描いている。幼い頃から京劇の世界だけを生きてきた蝶衣(ティエイー)は、劇中の虞姫を演じ続けるうちに、その役柄を運命として引き受けていきます。対する小楼(シャオロー)は現実を生きようともがき、そんな彼を毅然と支え続ける菊仙(チューシェン)。愛情も友情も誇りも嫉妬も、大きすぎる時代の激流に飲み込まれながら、それでも彼らは舞台を降りることができない。役を演じることが、そのまま人生になってしまった人間の悲劇と美しさに言葉を失います。
『木挽町のあだ討ち』は、三作の中でも少し趣が異なります。主役は名優ではなく、芝居小屋という「場」そのもの。あだ討ちをめぐる謎を追ううちに、役者、立作者、衣装方、立師、木戸芸者、小道具方など、芝居小屋で働く人々が次々と語り手となります。彼らは決して表舞台のスターではありません。それでも、それぞれが芝居を愛し、自分の仕事に誇りを持ち、仲間を思いやっています。その人情味あふれる語りを重ねるうち、一人の若侍の真実が浮かび上がるだけでなく、「芝居とは、人が力を合わせて生み出す奇跡なのだ」ということが静かに伝わってきます。誰か一人の才能ではなく、人と人とのつながりが芝居をつくる。その温かさに、この作品ならではの魅力があります。
この三作品を続けて観ると、不思議なことに「役者」の姿だけが心に残るわけではありません。芝居小屋を支える裏方たち、芸を受け継ごうとする師匠、才能に焦がれるライバル、愛する人を見守る者。舞台は、そうした無数の人生の積み重ねの上に成り立っています。幕が上がるまでの時間も、幕が下りた後の人生も含めて、「舞台」なのだと気づかされるのです。
国宝
Kokuho
■監督 李相日
■原作 吉田修一「国宝」(朝日新聞出版刊)
■脚本 奥寺佐渡子
■撮影 ソフィアン・エル・ファニ
■編集 今井剛
■音楽 原摩利彦
■主題歌 原摩利彦 feat. 井口理「Luminance」(Sony Music Label Inc.)
■美術監督 種田陽平
■出演 吉沢亮/横浜流星/高畑充希/寺島しのぶ/森七菜/三浦貴大/見上愛/黒川想矢/越山敬達/永瀬正敏/嶋田久作/宮澤エマ/中村鴈治郎/田中泯/渡辺謙
■第98回アカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞ノミネート/第78回カンヌ国際映画祭監督週間正式出品/第49回日本アカデミー賞最優秀作品賞ほか9部門受賞
© 吉田修一/朝日新聞出版
©2025映画「国宝」製作委員会
【2026/7/18(土)~7/24(金)上映】
ただひたすら共に夢を追いかけた――
後に国の宝となる男は、任侠の一門に生まれた。この世ならざる美しい顔をもつ喜久雄は、抗争によって父を亡くした後、上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎に引き取られ、歌舞伎の世界へ飛び込む。そこで、半二郎の実の息子として、生まれながらに将来を約束された御曹司・俊介と出会う。正反対の血筋を受け継ぎ、生い立ちも才能も異なる二人。ライバルとして互いに高め合い、芸に青春をささげていくのだが、多くの出会いと別れが、運命の歯車を大きく狂わせてゆく...。
誰も見たことのない禁断の「歌舞伎」の世界。血筋と才能、歓喜と絶望、信頼と裏切り。もがき苦しむ壮絶な人生の先にある“感涙”と“熱狂”。何のために芸の世界にしがみつき、激動の時代を生きながら、世界でただ一人の存在“国宝”へと駆けあがるのか?圧巻のクライマックスが、観る者全ての魂を震わせる―― 。
「100年に1本の壮大な芸道映画」-吉田修一(原作者)
吉田修一自身が3年間歌舞伎の黒衣を纏い、楽屋に入った経験を書き上げた渾身作「国宝」の映画化。
本作のメガホンを執るのは、『フラガール』で第30回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した、常に最新作が期待される李相日監督。脚本は『サマー・ウォーズ』、ドラマ「最愛」の奥寺佐渡子。複雑に絡みあう人間関係や、心のひだの部分にも光を当てる。撮影にはソフィアン・エル・ファニ。『アデル、ブルーは熱い色』で第66回カンヌ国際映画祭パルム・ドールの獲得経験を持ち、今回李監督たっての希望を受けて参加。美術監督には『キル・ビル』の種田陽平。歌舞伎という禁断の世界を美しく、鮮やかに演出する。また、四代目中村鴈治郎が本作の歌舞伎指導に入り、本編に俳優としても参加。緻密で繊細な所作を、女形を演じる俳優陣へ擦り込み、作品を更に高みへと引き上げる。
キャストにも、日本を代表する超豪華俳優陣の顔ぶれ。主演である稀代の女形・立花喜久雄を演じるのは、その美貌をもちながら、どんな役でも演じ切る吉沢亮。喜久雄のライバルとなる歌舞伎名門の御曹司・大垣俊介を演じるのは、第48回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞が記憶に新しい横浜流星。そして歌舞伎名門の当主・花井半二郎に、もはや世界的名俳優と名高い渡辺謙。更には、高畑充希、寺島しのぶ、田中泯、永瀬正敏、森七菜、三浦貴大、見上愛、黒川想矢、越山敬達、嶋田久作、宮澤エマといった、日本映画には欠かせない主演級の俳優たちが一堂に揃い、物語を更に美しく、熱くする。
さらば、わが愛/覇王別姫 4K
Farewell My Concubine
■監督 チェン・カイコー
■製作 トン・チュンニェン/シュー・フォン
■原作・脚色 リー・ピクワー
■撮影 クー・チャンウェイ
■編集 ペイ・シャオナン
■音楽 チャオ・チーピン
■出演 レスリー・チャン/ チャン・フォンイー/コン・リー/ルォ・ツァイ/クー・ヤウ/ホァン・ペイ/トン・ディー/イン・ダー/チー・イートン
■1993年カンヌ国際映画祭パルムドール受賞/ロサンゼルス映画批評家協会賞/外国語映画賞受賞/ニューヨーク映画批評家協会賞外国語映画賞・助演女優賞受賞/ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞受賞
©1993 Tomson(Hong Kong)Films Co.,Ltd.
【2026/7/18(土)~7/24(金)上映】
夢のような永遠の一瞬をあなたと歩んだ――
京劇の俳優養成所で兄弟のように互いを支え合い、厳しい稽古に耐えてきた2人の少年――成長した彼らは、程蝶衣(チョン・ティエイー)と段小樓(トァン・シャオロウ)として人気の演目「覇王別姫」を演じるスターに。女形の蝶衣は覇王を演じる小樓に秘かに思いを寄せていたが、小樓は娼婦の菊仙(チューシェン)と結婚してしまう。やがて彼らは激動の時代にのまれ、苛酷な運命に翻弄されていく…。
壮大なスケールと映像美で運命に翻弄される人間の愛憎を描く一大叙事詩
京劇の古典「覇王別姫」を演じる2人の役者の愛憎を、国民党政権下の1925年から文化大革命時代を経て、50年に渡る中国の動乱の歴史と共に描く一大叙事詩。中国第五世代の旗手チェン・カイコー監督の代表作で、1993年カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した。チェン・カイコーは2008年に「覇王別姫」の作者として知られる京劇の名女形・梅蘭芳の生涯を描いた『花の生涯~梅蘭芳~』も制作している。
当時香港のトップスターであったレスリー・チャンが京劇役者役を熱演。レスリーは歌手としてデビュー後、『男たちの挽歌』『欲望の翼』など俳優としても活躍し、本作では京劇の舞いと北京語の猛練習を積んで難しい役どころを見事に演じきった。また、『紅いコーリャン』『秋菊の物語』などで中国を代表する女優・コン・リーが、恋敵となる高級娼婦役で出演。当時考え得る最高のキャスト・スタッフが集結した。
【レイトショー】木挽町のあだ討ち
【Morning & Late Show】Samurai Vengeance
■監督・脚本 源孝志
■原作 永井紗耶子「木挽町のあだ討ち」(新潮文庫刊)
■撮影 朝倉義人
■編集 小泉圭司
■音楽 阿部海太郎
■主題歌 椎名林檎「人生は夢だらけ」(EMI Records/UNIVERSAL MUSIC)
■出演 柄本佑/長尾謙杜/瀬戸康史/滝藤賢一/山口馬木也/愛希れいか/イモトアヤコ/冨家ノリマサ/野村周平/高橋和也/正名僕蔵/本田博太郎/石橋蓮司/沢口靖子/北村一輝/渡辺謙
©2026「木挽町のあだ討ち」製作委員会
©2023 永井紗耶子/新潮社
【2026/7/18(土)~7/24(金)上映】
江戸に咲いた大輪の花(仇討ち)、そのカラクリを解き明かしましょう。
文化七年(1810)一月十六日、江戸・木挽町。歌舞伎の芝居小屋「森田座」では『仮名手本忠臣蔵』が大入満員で千穐楽を迎えていた。その仇討ちは、舞台がはねた直後、森田座のすぐ近くで起きた。芝居の客たちが立会人と化し見守る中、美濃遠山藩士・伊納菊之助が、父を殺害し逃亡していた男、作兵衛の首を見事、討ちとったのである。雪の舞う夜、若き美男子が成し遂げたこの事件は「木挽町の仇討ち」として、江戸の語り草となった。それから一年半後、同じ遠山藩で、菊之助の縁者を名乗る加瀬総一郎が森田座を訪れる。総一郎にとってこの仇討ちは、腑に落ちぬ点が幾つかあり、それを解明したいのだという。
あの心優しい菊之助が、あんな大男の作兵衛をどうやって?そもそも美濃しか知らない菊之助が、どうやって江戸の森田座に辿り着いたのか?
やさしい噓に包まれた、心震わす極上エンタメミステリー!
直木賞と山本周五郎賞W受賞。歴代3人目となる快挙を成し遂げた永井紗耶子の傑作時代小説『木挽町のあだ討ち』。しっとりとした文学性のみならず、読み応えある巧みなミステリー構造は数々のミステリー賞を制し、ついに映画化。
一筋縄ではいかない主人公、総一郎を硬軟自在の闊達さで、奥行き豊かに演じるのは、柄本佑。「あだ討ち」の両者、菊之助と作兵衛の魂を、長尾謙杜と北村一輝が熱く体現し、森田座の面々を瀬戸康史、滝藤賢一、高橋和也、正名僕蔵と言った芸達者たちが粋に演じる。脇を固める山口馬木也、イモトアヤコ、愛希れいか、野村周平、石橋蓮司、沢口靖子らの妙演も見逃せない。そして、森田座の座付作家にして、この謎の全てを仕掛けた黒幕、篠田金治に扮した名優、渡辺謙が燻銀の存在感で締める。粒だったキャラクターと演技が織り成す、味のある集団劇としても見応えは満点だ。
監督・脚本は、時代劇の名匠・源孝志。卓越した映像美でミステリーの先にある人情ドラマを鮮やかに彩る。時代劇と歌舞伎のプロフェッショナルが創り上げた様式美と、知的好奇心を刺激する圧倒的な世界観。物語は、時代劇の枠を超えた極上の本格エンターテインメントへと昇華した。
























