ジャック
ツール・ド・フランスを目指す孫とその祖母が巻き込まれる事件を描く『ベルヴィル・ランデブー』。音叉の共鳴を使って自転車の車輪の歪みを修理したり、冷蔵庫を弾き、掃除機を鳴らし、新聞紙でリズムを刻んだりといった、常識とは異なった使われ方の小道具。協調された顔のパーツ、四角い壁のような肩幅などの過剰なデフォルメ。現実とは違う絶妙なズレが醸し出す奇妙な世界観が、私たちを魅了します。
『ロボット・ドリームズ』では孤独なドッグとロボットとの友情が描かれます。ニューヨークを巡る二人が音楽のリズムに乗る瞬間、まさに世界が色づき始めていく様子が見事に表現されています。また、登場するキャラクターたちは動物たちなのですが、オマージュを捧げられた80年代のニューヨークの街並みや、その暮らしにはどこかで見たことのあるかのようなリアリティを感じるはずです。
魔法の森に住むテディベアとユニコーンの戦いを描いた『ユニコーン・ウォーズ』。表面上の可愛らしいテディベアたちとは裏腹に、描き出される血しぶきなどのグロテスクなシーン。森という場所を求めて行われる争いの悲惨さは、ファンタジーとして描かれることで、さらに揺ぎ無く、その本質を捉えているのではないでしょうか。
音に合わせて絵が動く。思えばそれだけのことで、観ている人がワクワクしたり、感動したり、はたまた不安な気持ちになったりするのは不思議なことです。実際の人間では「大袈裟だな」と思ってしまう仕草であっても、アニメーションでは説得力を持ちます。もしかしたらそれは、誇張された表現が私たちの感じる内側のエモーショナルな部分を巧みに体現しているからなのではないでしょうか。突然踊りだしたくなったり、泣き出したくなったりする荒唐無稽な気持ちに形を与えてくれているのかもしれません。
今週上映する3つのアニメーションはそれぞれ印象も質感も異なっているように思えます。しかしどの作品も鑑賞後には心のどこかに余韻を残す、大人向けの作品。是非劇場でご覧いただければと思います。
ベルヴィル・ランデブー
The Triplets of Belleville
■監督・脚本・絵コンテ・グラフィックデザイン シルヴァン・ショメ
■製作総指揮 ディディエ・ブリュネール
■美術 エフゲニ・トモフ
■編集 シャンタル・コリベール=ブリュネール
■作曲・編曲 ブノワ・シャレスト
■声の出演 ジャン=クロード・ドンダ/ミシェル・ロバン/モニカ・ヴィエガス
■第76回アカデミー賞長編アニメーション映画賞・歌曲賞ノミネート/2003年カンヌ国際映画祭特別招待作品/2003年セザール賞音楽賞受賞/NY批評家協会賞アニメーション賞受賞/LA批評家協会賞LA批評家協会賞アニメーション賞・音楽賞受賞
©Les Armateurs / Production Champion Vivi Film / France 3 Cinéma / RGP France / Sylvian Chomet
【2025/8/16(土)~8/22(金)上映】
ピンチもへっちゃら 愛さえあれば
おばあちゃんと幸せに暮らすシャンピオン。内気な少年が情熱を傾ける自転車レースのため、ふたりは特訓を重ね、遂にツール・ド・フランスに出場する。しかし、そこで事件は起きる。マフィアに誘拐された孫を追って、愛犬プルーノとともにシャンピオン奪還のための大冒険が始まる。協力してくれるのは伝説の三つ子ミュージシャンの老婆たち。腕力では敵わないが、人生経験と知恵そしてユーモアと愛で数々の難局を乗りきっていく――。
世界中の批評家と観客が認めた納得の傑作!
本作は、2003年のカンヌ国際映画祭で特別招待作品として上映され、ニューヨーク映画批評家協会賞をはじめ多くの映画賞を受賞し、フランス映画として初めてアカデミー賞の長編アニメーション映画部門にノミネート。更に、2021年にNewsweek(電子版)が発表した批評家が選ぶ100本のアニメーション映画15位、100本のアニメーション映画(タイムアウト)など世界各国の名作アニメーション・ランキングに必ず選出され、多くの人に愛され続けている傑作だ。
バンド・デシネ作家からキャリアをスタートさせたシルヴァン・ショメ監督の映像は、台詞の少なさに反比例するかのように多くを語る。見る者の常識を心地よく裏切っていく展開は、いつの間にか画面から目を離せなくする不思議な力を持つ。アンバランスな体つきや奇妙な動き、個性的な登場人物など細部にまで皮肉やユーモアが効いている。監督が敬愛するジャック・タチ、マックス・フライシャーのアニメーション、チャールズ・チャップリンら監督の少年時代、50年代を彩るさまざまな著名人への愛に溢れたオマージュが捧げられている。随所に散りばめられた、あそび心たっぷりのたくさんの仕掛けも見逃せない。
アカデミー賞歌曲賞にノミネートされた主題歌、ジャンゴ・ラインハルトへのオマージュ、“伝説の三つ子”が歌うスウィンギング・ジャズ、バッハやモーツァルトまで自由自在に、しかし映画にぴたりとよりそう音楽。ダイアローグがほとんどないことを観客に忘れさせ、この映画を洒脱なものにするのに大きく貢献している。
ロボット・ドリームズ
Robot Dreams
■監督・脚本・製作 パブロ・ベルヘル
■原作 サラ・バロン
■アニメーション監督 ブノワ・フルーモン
■編集 フェルナンド・フランコ
■アートディレクター ホセ・ルイス・アグレダ
■キャラクターデザイン ダニエル・フェルナンデス
■音楽 アルフォンソ・デ・ヴィラジョンガ
■第96回アカデミー賞長編アニメーション映画賞ノミネート/第51回アニー賞長編インディペンデント作品賞受賞/第76回カンヌ国際映画祭正式出品/ヨーロッパ映画賞長編アニメーション映画賞受賞/アヌシー国際アニメーション映画祭コントルシャン部門作品賞受賞/ゴヤ賞(スペイン・アカデミー賞)脚色賞・長編アニメーション映画賞受賞 ほか多数受賞・ノミネート
© 2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL
【2025/8/16(土)~8/22(金)上映】
きみは覚えてる? あの夏、出会った日のことを――
大都会ニューヨーク。ひとりぼっちのドッグは、孤独感に押しつぶされそうになっていた。そんな物憂げな夜、ドッグはふと目にしたテレビCMに心を動かされる。数日後、ドッグの元に届けられた大きな箱――それは友達ロボットだった。セントラルパーク、エンパイアステートビル、クイーンズボロ橋……ニューヨークの名所を巡りながら、深い友情を育んでいくドッグとロボット。ふたりの世界はリズミカルに色づき、輝きを増していく。
しかし、夏の終わり、海水浴を楽しんだ帰りにロボットが錆びて動けなくなり、ビーチも翌夏まで閉鎖されてしまう。離れ離れになったドッグとロボットは、再会を心待ちにしながら、それぞれの時を過ごす。やがてまた巡りくる夏。ふたりを待ち受ける結末とは――。
映画祭&賞レースを席巻! 一生あなたの心に残る、宝物のような102分
第96回アカデミー賞長編アニメーション映画賞ノミネートを果たし、アニー賞、ヨーロッパ映画賞、ゴヤ賞ほか名だたる映画賞を席巻。80年代のニューヨークを舞台に、孤独なドッグと、その元へやってきたロボットとの友情を描き、世界中の批評家と観客から愛された本作。公開館数20館からスタートしたにもかかわらず大ヒットを記録し、興行収入は2億円を突破した。
監督を務めたのはヨーロッパを代表する名匠パブロ・ベルヘル。アニメーション映画へは初挑戦ながら、「制約のないアニメーションで、物語を描く無限の可能性を探求したかった」と語るとおり、切ないながらも温かく、観るものの心を揺さぶる類まれな傑作として結実させた。本作はセリフが無く、音楽が重要な役割を果たしており、メイン・テーマであるアース・ウインド&ファイアーの代表曲「セプテンバー」が映画に彩りを添えている。
【レイトショー】ユニコーン・ウォーズ + ユニコーン・ブラッド(短編)
【Late Show】Unicorn Wars + Unicorn Blood
■監督・脚本 アルベルト・バスケス
■第37回ゴヤ賞最優秀長編アニメーション映画賞/第21回メストレ・マテオ賞最優秀アニメーション映画賞
©︎2022 Unicorn Wars
【2025/8/16(土)~8/22(金)上映】
清き者たちは、信念の果てに――何を見失ったのか?
とあるディストピア。魔法の森に住む <テディベア> と <ユニコーン> の間には、先祖代々に渡って戦いが繰り広げられていた。テディベアのアスリンは双子の兄ゴルディと軍の新兵訓練所で屈辱的な特訓の日々を過ごしていたが、ある日、森から帰ってこない熊の部隊を捜すため、捜索部隊に参加したアスリンとゴルディはその森で危険な生物や無残な姿となった隊員たちを目にすることに。
彼らの聖書にある「最後のユニコーンの血を飲む者は、美しく永遠の存在になる」という言葉を信じて、ゴルディたちはユニコーンの生息する深い森へと進軍してくが、その地で巻き起こる悲惨で残酷な出来事の行く末には、とんでもない結末が待ち受けていた…。
『地獄の黙示録』×『バンビ』×『聖書』……混ぜたら、危険!! ‟分断による争い”の無意味さを説く、今観るべきアニメーション!
『サイコノータス 忘れられたこどもたち』のバスケス監督の長編2作目にして最新作の『ユニコーン・ウォーズ』。アルベルト・バスケス監督が生み出す、不気味さと可愛さを兼ね備えた作風が溢れ出ている本作は、『地獄の黙示録』x『バンビ』x『聖書』という企画コンセプトに、テディベアとユニコーンの最後の聖戦を、血しぶき、内臓、ドラッグなど“アブナイ表現”をたっぷり混ぜ込んで作り上げた、“究極の反戦アニメーション”。
企画・制作期間に6年を要し250人以上の精鋭スタッフが、 50体ものキャラクターと1,500もの背景によって作り上げた、2Dと3Dアニメーションが融合し、音楽を巧みに駆使して、シチュエーションやキャラクターとシンクロしながら、一貫性を保つ芸術的な作品に仕上がった。『ユニコーン・ウォーズ』のキャラクターの可愛い見た目からは、一見子供向けアニメーションと思われがちだが、家族関係、宗教、環境、悪の起源、そして権力を支配する意味を語りながら、“分断がもたらす争い”がいかに無意味であるかを説く大人のためのダーク・ファンタジー作品である。
バスケス監督の描くキュートでエグイ作家性に惹かれる読者は多く、彼の漫画は世界各国で出版され、短編アニメも60以上の映画祭での受賞歴を誇っている。バスケス監督は手応えのあった短編を長編アニメ化する特徴があり、今回は本作『ユニコーン・ウォーズ』の原点である短編『ユニコーン・ブラッド』(2013)を同時上映する。