
ぽっけ
『博多っ子純情』の少年たちは、よく走り、よく喧嘩し、恋や性のことばかり考えている。大人の真似をして背伸びをしても、次の瞬間にはまた子どもの顔に戻る。曽根中生監督は、そんな彼らを急いで「成長」へ連れていかない。博多の町のざわめき、そのなかを動き回る少年たちを見ていると、子どもを子どものままにしておく場所が、まだそこにはあるようにも見える。六平を演じたのは、当時16歳の光石研。これが映画デビュー作。
相米慎二は監督になる以前、日活で曽根らの助監督を務めている。『台風クラブ』では、台風の近づく中学校で、少年少女たちが走り、踊り、叫び、裸になり、身体をぶつけ合う。長回しのなかで、教室や廊下や校庭は、いつの間にか学校であることを忘れたような場所へ変わっていく。人物の気持ちを説明するより先に、そこで起きていること、その時間そのものが画面を満たしていく。
長回しは、ひとりの監督だけのものではない。俳優が動き、カメラがそれを追い、照明や録音を含めたスタッフが、その同じ時間を引き受ける。そこには「組」と呼ばれる、何度も現場をともにしてきた仲間たちの時間も流れている。撮影所のなかで映画をつくることが当たり前だった時代から、その外で一本ごとに人が集まり、映画をつくる時代へ。「組」というもののあり方も、少しずつ変わっていったはずだ。
『台風クラブ』から8年後の『お引越し』。両親の別居を受け入れられないレンコは、離婚届を隠し、家に立てこもり、ふたりを元に戻そうとする。子どもが大人の事情を理解していく物語、と言ってしまえば簡単だけれど、レンコは最後までそんなふうにきれいには収まらない。わからないものを抱えたまま、自分の足で別の場所へ出ていく。撮影の栗田豊通は、相米がこの作品で「変わりたい」と考えていたように感じたと振り返っている。長回しで知られた監督が、ここではカットを割ったコンテを用意していたという。
そして『Helpless』。昭和が終わった1989年、北九州。高校卒業を控えた健次の前に、刑務所から安男が戻ってくる。けれど、安男が戻るはずだったやくざの「組」はもうない。その画面には、光石研がいる。『博多っ子純情』にあった、子どもの時間を受け止める町の厚みは、ここではずいぶん遠くにあるように感じられる。
青山真治は後年、「相米とは違う長廻し」が可能かを考えていたと語っている。撮影の田村正毅とは、まずカメラと俳優の「距離」を考え、俳優が自由に動ける場所を残したという。長く続くショットのなかで、人物の行動はあらかじめ用意された意味や動機から、ときにふっとはみ出していく。
曽根中生、相米慎二、青山真治。彼らの映画の登場人物たちは、既成の秩序から少しずつ逸れていく。映画のつくり方もまた、時代とともに形を変えてきた。いや、変わらざるを得なかったのかもしれない。カットをつなぐことで生まれる時間も、ひとつのショットを長く持続させる時間も、決して同じではない。その違いのなかに、映画が次の場所へ向かおうとする瞬間を覗いてみるのは、少し大げさすぎるだろうか。
台風クラブ 4Kレストア版
Typhoon Club
■監督 相米慎二
■製作・企画 宮坂進
■脚本 加藤裕司
■撮影 伊藤昭裕
■編集 冨田功
■音楽 三枝成章
■出演 三上祐一/紅林茂/松永敏行/工藤夕貴/大西結花/会沢朋子/天童龍子/渕崎ゆり子/寺田農/佐藤允/三浦友和/鶴見辰吾
■東京国際映画祭大賞・都知事賞(ヤングシネマ’85部門)
©ディレクターズ・カンパニー
【2026/10/3(土)~10/9(金)上映】
私たちは 翔ぶ!
中学校の校庭の一角に夏の名残をたたえてひっそりとプールがある。木曜日。二学期が始まって間もないむし暑い夜。暗闇の中で時おりはねて、坊主頭が見え隠れしている。突然、プールの照明が一斉について、ロックが鳴り出した。歓声をあげてなだれ込んできたのは、水着姿の高見理恵、大町美智子、宮田泰子、毛利由美、森崎みどり。……水の中で山田明が動かなくなっている。慌てた少女たちは人を呼びに田舎道まで走ってくると、同じクラスの三上恭一と清水健がジョギングしているのに出会う。恭一が明に人工呼吸をしているうちに、担任の梅宮が呼び出された。小さな風は、やがてくる台風によって、彼ら少年少女たちを閉じ込め、狂わせていく……。
プールで流れる「暗闇でDANCE」から やがてくる台風へ飲み込まれる少年少女たち
近年、急速に国際的な再評価が高まっている相米慎二監督。台湾・香港のアカデミー賞と言われる金馬奨では、2021年に相米慎二監督の特集が行われ、『台風クラブ』に対し、ホウ・シャオシェンは「これが、映画だ。」と述べている。2023年4月、アメリカ・ニューヨークのジャパン・ソサエティ―でも7作品の特集上映が開催された。海外での再評価の波はさらに広がりを見せている。
彼のフィルモグラフィーの中でもひときわ神話的な一本が『台風クラブ』である。待望の「4K」で、2023年秋に新生。冒頭、プールサイドでバービーボーイズの「暗闇でDANCE」をラジカセで鳴らし、踊り狂う少年少女たち。真っ暗と逆光のその映像が、よりリアルに、よりセクシャルに覚醒を遂げる。ギリギリの刹那、それでいて、どこか異次元の空間と時間を生きているような感覚。そして、性と死。そうした「リアル」「エロス」「ファンタジー」という要素は、相米自身が夢幻していたかもしれない「画像」となって、「4K」で新しく生まれ変わる。
相米慎二も、「台風クラブ」も、常に現代であり、それは、映像の未来でもある。全く新しい映画として、観たすべての者が(初見の者も含め)、新しい映像体験をすることであろう。
お引越し 4Kリマスター版
Moving
■監督 相米慎二
■原作 ひこ・田中「お引越し」
■脚本 奥寺佐渡子/小此木聡
■撮影 栗田豊通
■編集 奥原好幸
■音楽 三枝成彰
■出演 中井貴一/桜田淳子/田畑智子/須藤真理子/田中太郎/茂山逸平/青木秋美/森秀人/千原しのぶ/笑福亭鶴瓶
■1993年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門招待上映/第3回東京スポーツ映画大賞作品賞/1993年度キネマ旬報新人女優賞(田畑智子)/報知映画賞新人賞(田畑智子)/第17回日本アカデミー賞優秀編集賞/2023年ヴェネチア国際映画祭 最優秀復元映画賞
©1993/2023讀賣テレビ放送株式会社
【2026/10/3(土)~10/9(金)上映】
うんでくれて、ありがとうで、ばかやろう。
京都に住む明るく元気な小学6年生、レンコ。父ケンイチが家を出て、母ナズナとの二人暮らしが始まった。ナズナは新生活のための規則を作るが、レンコは変わっていこうとするナズナの気持ちがわからない。離婚届を隠したり、自宅で籠城作戦を決行したり、果てにはかつて家族で訪れた琵琶湖への小旅行を勝手に手配する…。
レンコの台詞ひとつ、ひとつが胸に突き刺さる ひと夏をかけぬける少女の葛藤と成長
離婚を前提に別居に入った両親を持つ11歳の少女、漆場レンコを主人公に、その揺れ動く気持ちの葛藤、両親に対する愛情と反抗、クラスメイトやまわりの人々との交流を通じて、遂には深い覚醒とも呼べる成長をとげるまでを、稀に見る映像の深度と完成度の高さで描いた本作、『お引越し』。
主人公の漆場レンコ役を務めたのは、今や誰もが知る人気女優へと大成した田畑智子。応募総数8253名の中から、オーディションによって選ばれた当時12歳の新人だった。現場でしごかれ、最初は泣いてばかりだったという田畑智子は、見事2つの映画賞で新人賞を受賞した。
「現場では、和気あいあいとした雰囲気もあっただろうけど、俺は(智子とは)関係ないからね。(中略)あの子がひと夏ね、面白いか、きついか知らないけど、なんか一生懸命やればいいわけだから。楽しく終わってくれればいいだけでね。楽しいってのは、何も楽しいことばかりじゃない。苦しいことも当然含めてね」――相米慎二(『お引越し』公開当時のパンフレットより抜粋)
【特別興行】博多っ子純情
Pure Hearts of Hakata People
■監督 曽根中生
■原作 長谷川法世「博多っ子純情」(週刊漫画アクション連載・双葉社刊)
■脚本 石森史郎/長谷川法世
■撮影 森勝
■音楽 服部克久
■出演 光石研/横山司/小屋町英浩/松本ちえこ
©1978 松竹株式会社
【2026/10/3(土)~10/9(金)上映】
中学生は子供ね!?大人ね!?どっちかはっきりしちゃんない
物語は九州・博多男児の晴れ舞台「祇園山笠」から始まる。六平は足を怪我した父に変わって、 生まれて初めて山笠を担ぐ。そして山笠が終わり、普段の学校生活に戻った六平と親友の道雄、真澄が集まり決まって話すことは、未だ神秘のベールに包まれた女性の体についてだった。この3人組とヒロイン類子を軸に、中学生たちの淡い恋、性への目覚め、悲しき別れ、ケンカ…。あらゆる青春の沸点を詰め込んだ物語が展開する。
青春映画の荒法師・曽根中生監督が描くアンチヒーローの快笑篇!
長谷川法世原作の人気漫画「博多っ子純情」を映画化。脚本は『約束』『旅の重さ』等で知られる名匠、石森史郎と長谷川法世自身が担当。監督は大ヒットシリーズ『嗚呼!!花の応援団』を手掛けた曽根中生が担当。
今や個性派俳優として名を馳せる光石研のデビュー作でもある本作は、70年代の九州の空気と中学生の青春の炎上・爆発を見事にパッケージングし、九州のみならず全国的に大ヒット。昭和の世をシゴく青春の数々が展開していく青春映画の金字塔とも言える傑作となっている。
【特別興行】Helpless
Helpless
■監督・脚本・音楽 青山真治
■製作 仙頭武則/小林広司
■撮影 田村正毅
■編集 掛須秀一
■音楽 山田功
■出演 浅野忠信/光石研/辻香緒里/斉藤陽一郎/伊佐山ひろ子/永澤俊矢
■第11回高崎映画祭若手監督グランプリ・最優秀主演男優賞受賞/ヨコハマ映画祭主演男優賞受賞/日本映画プロフェッショナル大賞作品賞・主演男優賞・新人監督賞・ベスト10第1位受賞
©1996 WOWOW /バンダイビジュアル
【2026/10/3(土)~10/9(金)上映】
夏の終わりの日。少年と男、そしてその妹。彼ら三人が今、それぞれの旅を始めるーー
高校卒業を目前に控えた健次は、仮出所で帰って来た片腕のやくざ・安男に再会した。組の仲間が、組長が死んでしまって組はつぶれたと話しても、安男は一向に信じようとしないばかりかその仲間を撃ち殺してしまう。自分だけにつらい思いをさせて出所したら雲隠れか、と怒った安男は、健次に妹のユリと大切なショルダーバッグを預け、組長の消息を追いかける。ユリを預かった健次は安男との待ち合わせ場所である山中のドライブインに行くが…。
愛する者を失う哀しみに満ちた 出発点までのプレ・ロードムービー
1989年9月10日、夏の終わりの一日。少年にとって、この日はこれまでとは全く違った一日となった…。
青山真治監督の劇場映画デビュー作となる本作は、孤独感を抱える高校生や仮出所中のチンピラなど、救いようのない登場人物たちが突発的に起こす出来事をつづる青春ドラマである。監督の故郷である北九州が舞台になっており、その後『EUREKA ユリイカ』『サッド ヴァケイション』と続く“北九州サーガ”の記念すべき第1作となった。
主人公の建次を演じるのは、『幻の光』『PICNIC』で注目を浴びていた浅野忠信。初の単独主演作として選んだのがこの『Helpless』であった。一人の少年が、失うことの哀しみを知り、自らの道を歩き始める。微妙なニュアンスが要求される難しい役柄を、浅野は全身で“生き抜き”、その年の新人俳優賞を数多く受賞した。

























