【2026/5/16(土)~22(金)】『グッドワン』『Shiva Baby シヴァ・ベイビー』 /『おくびょう鳥が歌うほうへ』『時々、私は考える』// 特別レイトショー『スムース・トーク』

ちゅんこ

「このリアル、どうしたらいい? ~立派な大人になんてなれない~」と名づけられた本特集、主人公は若い女性で、それぞれ何かしらの不安や問題を抱えている。何者にもなれない自分に惑い、将来への不安にさいなまれている。新作4本に加え、特別レイトショーとして上映されるジョイス・チョプラ監督の『スムース・トーク』(1985年)を観たとき、私ははじめ主人公のコニーの言動に微かな苛立ちを覚えると共に、なぜだか奇妙な懐かしさも感じた。コニーはあふれんばかりの若さを見せつけるかのように、見知らぬ男たちと無邪気な恋の駆け引きを楽しむが、その一方で家族とはうまくいっておらず、自分を家族の中でのけ者のように感じている。他者への攻撃として転換される彼女の孤独や苛立ちは、おそらく彼女自身もどうすることもできず、その理由がなぜなのかも理解していない。なぜなら、例えどんなに大人びて見え、コニー自身が「自分はもう大人だ」と思っていても、彼女はまだ15歳の少女にすぎないからだ。物語の後半に起こるある出来事により、コニーはこれまで自分を疎んでいると思っていた両親や姉から、自分がどれだけ愛され、守られていたのかを知る。その瞬間、きっとコニーは本当の意味で大人への一歩を踏み出したのではないだろうか。

『スムース・トーク』は今から40年前に作られた作品だが、今回上映する新作の4本は、現代を生きる女性たちの物語だ。『おくびょう鳥が歌うほうへ』のロナは、大都会ロンドンから冷たい海と荒れ狂う風が印象的なスコットランド・オークニー諸島の故郷へと戻り、アルコール依存症という過去から必死に逃れようとしている。『Shiva Baby シヴァ・ベイビー』のダニエルは、大学卒業を間近に控えているが、自らの価値や将来に不安を抱え、本当の自分が何者であるのか、いま何をしているのか、曖昧な説明しかできない。『時々、私は考える』のフランは、ひとりが好きだけれど、同時に他者とのつながりを求め、傷つきながらも必死でもがいている。『グッドワン』のサムは、文字通りこれまで何も問題を引き起こさず従順な「いい子=Good One」だったが、父クリスと彼の旧友マットとともに出かけた2泊3日のキャンプ旅行で起きたある出来事により、はじめて自分からいい子であることを止めるのだ。

彼女たちが抱える悩みや不安は普遍的で、ひょっとしたら特別なものではないのかもしれない。だけどいま正に不安に押しつぶれそうになっている彼女たちにとって、その苦悩は決して小さなものではない。今回上映する作品を観たら、きっと誰もが彼女たちと同世代だった頃の自分を思い出すのではないだろうか。

『グッドワン』のインディア・ドナルドソン監督は、インタビューの中で作品について聞かれ、こう答えている。

「この映画はある意味“彼女”のために書き始めたんだと思います。17歳だった頃の私。その先の人生がどれくらい大きく変わるのか、まだ何も知らなかった頃の“自分”宛に」

彼女たちが起こす勇気や行動は、理由もわからず不安に怯えていたあの頃の自分に、「きっと大丈夫だよ」と告げてくれているように感じた。

グッドワン
Good One

インディア・ドナルドソン監督作品 
2024年/アメリカ/89分/DCP/ビスタ


■監督・脚本 インディア・ドナルドソン
■プロデューサー ダイアナ・アーヴィン/グラハム・メイソン/ウィルソン・キャメロン/インディア・ドナルドソン
■撮影 ウィルソン・キャメロン
■編集 グラハム・メイソン
■音楽 セリア・ホランダー

■出演 リリー・コリアス/ジェームズ・レグロス/ダニー・マッカーシー

■第77回カンヌ国際映画祭カメラドール(新人賞)ノミネート/第40回サンダンス映画祭審査員賞ノミネート/第96回ナショナル・ボード・オブ・レビュー新人監督賞受賞

©2024 Hey Bear LLC

【2026/5/16(土)~22(金)上映】

いいこ なんかじゃない

17歳の少女サムは、父クリスと彼の旧友マットとともに、ニューヨーク州キャッツキル山地へ2泊3日のキャンプに出かける。二人の男たちは、旅路の間、長年のわだかまりをぶつけ合いながらも、ゆるやかにじゃれ合う。年齢以上に聡明なサムは、彼らの小競り合いに半ば呆れつつも、聞き役、世話役を全面的に引き受ける。しかし、男たちの行動によってサムの“大人への信頼”が裏切られたとき、サムと父は“親子の絆が揺らぐ瞬間”を迎えることになる。

17歳の私と、父とその友人、3人だけで過ごす森の中。大人の不完全さに気づいてしまった、生涯忘れられない瞬間——

監督は、ケリー・ライカートやグレタ・ガーウィグの系譜に連なる新世代の才能、インディア・ドナルドソン。本作が長編監督デビューながら、カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)にノミネートされ、サンダンス映画祭でも審査員賞候補となるなど、国際的に高く評価された。名匠ロジャー・ドナルドソン監督の娘としても知られる。

主人公のサムを演じるリリー・コリアスは、本作で映画初主演を果たし、その繊細な存在感で一躍注目の若手俳優となった。自然光を生かした映像が、キャッツキル山地の静寂と、サムの心の揺らぎを美しく重ね合わせ、誰もが通過する、大人になることの喪失感と希望を表している。

Shiva Baby シヴァ・ベイビー
Shiva Baby

エマ・セリグマン監督作品  
2020年/アメリカ・カナダ/78分/DCP/シネスコ

■監督・脚本 エマ・セリグマン
■製作 エマ・セリグマン/リジー・シャピロ/ケイティ・シラー/キーラン・アルトマン
■撮影 マリア・ルーシェ
■編集 ハンナ・パーク
■音楽 アリエル・マルクス

■出演 レイチェル・セノット/モリー・ゴードン/ダニー・デフェラーリ/ダイアナ・アグロン/ポリー・ドレイパー/フレッド・メラメッド

■2020年トロント国際映画祭正式出品

© 2020 SHIVA BABY LLC. All Rights Reserved.

この気まずさ、限界。

大学卒業を間近に控えたある日、誰が亡くなったのかも知らされないまま、両親とともにシヴァに参列することになったダニエル。故人の自宅へ到着すると、その場に居合わせた幼馴染・元カノのマヤがロースクールに合格したことで賞賛を受ける一方、ダニエルはパッとしない進路や容姿の変化について親類縁者たちから不躾に詮索され、次第に身の置き所を失っていく。そんな中、つい先ほどまで会っていたシュガーダディ(パパ活相手)のマックスが、妻と泣き叫ぶ赤ちゃんを連れて現れ……。

※シヴァ【Shiva】 ユダヤ教徒が親族を亡くしたときに行う7日間の喪の期間のこと

集まったのは 両親・元カノ・パパ活相手——クールな私が崩壊していく、人生最悪のお葬式

『ボトムス〜最底で最強?な私たち〜』のエマ・セリグマン監督が、大学の卒業制作として手がけた短編「Shiva Baby」をもとに完成させた長編デビュー作は、監督が経験した「シヴァでの気まずく滑稽な時間」にシュガーベイビー(パパ活をする女の子)の友人たちのエピソードを重ね合わせ、自らの価値や将来に不安を抱く大学生・ダニエルが自己崩壊の危機に直面する決定的な数時間の出来事を描く。

短編に引き続き主演をつとめたのは、いま最も説得力のある若手コメディ俳優・クリエイターとしてアメリカで絶大な人気を誇るレイチェル・セノット。脇を固めるのは、ウディ・アレン監督作の常連でもあるフレッド・メラメッドをはじめ、モリー・ゴードン、ダニー・デフェラーリ、ダイアナ・アグロンなど実力派俳優たち。また、2025年にドラマ「人生の最期にシたいコト」「ブラック・ミラー」シリーズでエミー賞にノミネートされたアリエル・マルクスが音楽を担当し、ミニマルかつ不穏さを孕んだスコアで賞賛を集めた。

制作当時はCOVID-19の影響で多くの映画祭が中止を余儀なくされる中、2020年8〜9月にかけて複数の映画祭でオンライン上映が実現し、同年のトロント国際映画祭で初の劇場上映。その後、ニューヨークで16週にわたる異例のロングランを達成した話題のカミング・オブ・エイジ・ストーリー。

おくびょう鳥が歌うほうへ
The Outrun

ノラ・フィングシャイト監督作品
2024年/イギリス・ドイツ/118分/DCP
シネスコ

■監督 ノラ・フィングシャイト
■原作 エイミー・リプトロット(「THE OUTRUN」)
■脚本 ノラ・フィングシャイト/エイミー・リプトロット/デイジー・ルイス 
■撮影 ユヌス・ロイ・イメール
■編集 シュテファン・ベヒンガー 
■音楽 ジョン・ギュルトラー/ヤン・ミゼレ

■出演 シアーシャ・ローナン/パーパ・エッシードゥ/ナビル・エルーアハビ/イーズカ・ホイル/ローレン・ライル/サスキア・リーヴス/スティーヴン・ディレイン

■2024年ベルリン国際映画祭パノラマ部門正式出品/2024年サンダンス映画祭コンペティション部門正式出品

© 2024 The Outrun Film Ltd., WeydemannBros. Film GmbH, British Broadcasting Corporation and StudioCanal Film GmbH. All Rights Reserved.

【2026/5/16(土)~22(金)上映】

いくつもの色で、私は私になっていく。

ロンドンの大学院で生物学を学んでいた29歳のロナは10年ぶりにスコットランド・オークニー諸島の故郷へと帰ってくる。かつて大都会の喧騒の中で、自分を見失い、お酒に逃げる日々を送っていた彼女は、ようやくその習慣から抜け出した。しらふの状態で、心を新たに生きるロナ。だが、恋人との関係に亀裂を生み、数々のトラブルも引き起こした記憶の断片が、彼女を悩ませつづける……。

大都会の喧騒に飲み込まれ自分を見失った生物学者が、新たな生き方を模索する

世界各国で翻訳、ベストセラーとなったエイミー・リプトロットの回想録『THE OUTRUN』が、ベルリン国際映画祭銀熊賞に輝いた『システム・クラッシャー』のノラ・フィングシャイト監督の手によって、スクリーンへと蘇る。スコットランド・オークニー諸島の雄大な自然を舞台に、非線形の語り口で描かれる主人公ロナの断片的で混濁した内面世界を、繊細な演出で丹念に描き出した。

主演は、『ブルックリン』『レディ・バード』『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』など数々の話題作で高く評価されてきた、若手実力派俳優シアーシャ・ローナン。本作でキャリア最高峰とも言える、成熟した深みと圧倒的な内面性をたたえた演技を披露。切り立つ崖と荒波、風の吹きすさぶ孤島の厳しくも美しい風景と、彼女の静かで力強い表現が見事に融合し、観る者の心を深く揺さぶる“再生の物語”がここに誕生した。

時々、私は考える
Sometimes I Think About Dying

レイチェル・ランバート監督作品
2023年/アメリカ/93分/DCP/ビスタ(1:50)

■監督 レイチェル・ランバート
■プロデュース デイジー・リドリー
■脚本 ケヴィン・アルメント/ステファニー・アベル・ホロウィッツ/ケイティ・ライト・ミード
■撮影 ダスティン・レイン
■音楽 ダブニー・モリス

■出演 デイジー・リドリー/デイヴ・メルヘジ/パーヴェシュ・チーナ/マルシア・デボニス/ミーガン・ステルター/ブリタニー・オグレイディ

■2023年サンダンス映画祭コンペティション部門正式出品

©2023 HTBH, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

【2026/5/16(土)~22(金)上映】

愛おしい空想と ほろ苦い現実

人付き合いが苦手で不器用なフランは、会社と自宅を往復するだけの静かで平凡な日々を送っている。友達も恋人もおらず、唯一の楽しみといえば空想にふけること。それもちょっと変わった幻想的な“死”の空想。そんな彼女の生活は、フレンドリーな新しい同僚ロバートとのささやかな交流をきっかけに、ゆっくりときらめき始める。順調にデートを重ねる二人だが、フランの心の足かせは外れないままで——。

“生きることの愛おしさ”を知っていく、不器用な大人のための物語。

2019年に発表され、各国の短編映画祭で数々の賞を獲得した同名短編映画の長編映画化作品『時々、私は考える』。ポートランドからほど近く、名作映画『グーニーズ』の舞台としても知られるオレゴン州アストリアの閑散とした港町で繰り広げられるノスタルジックで少しだけロマンチック、そして優しい愛に溢れた人間讃歌の物語。

主演を務めるのは『スター・ウォーズ』シリーズで知られるデイジー・リドリー。人付き合いが苦手な主人公フランが、恋や仕事仲間との交流をきっかけに少しずつ変化していく様子を繊細な演技で表現しており、昨年のサンダンス映画祭にてプレミア上映された際には「デイジー・リドリーの新たな一面が発見された」と彼女の高い演技力が再評価され話題となった。さらに本作でデイジーはプロデューサーとしても名を連ね、一から制作にも携わるという新しい挑戦も果たしている。

監督を務めるのは、2023年インディワイヤー誌が発表した《注目の女性監督28人》に選出された注目株、レイチェル・ランバート。これまで3本の長編映画を手がけてきた彼女だが、本作が日本で公開した初めての作品となる。

【レイトショー】スムース・トーク
【Late Show】Smooth Talk

ジョイス・チョプラ監督作品
1985年/アメリカ/92分/DCP/ビスタ

■監督 ジョイス・チョプラ
■製作 マーティン・ローゼン
■原作 ジョイス・キャロル・オーツ「Where Are You Going, Where Have You Been?(あたしはどこへ行くの?あたしはどこから来たの?)」
■脚本 トム・コール
■プロダクションデザイン デヴィッド・ワスコ
■音楽監督 ジェームズ・テイラー

■出演 ローラ・ダーン/トリート・ウィリアムズ/メアリー・ケイ・プレイス/マーガレット・ウェルシュ/ サラ・イングリス/リヴォン・ヘルム/エリザベス・ベリッジ

■1986年サンダンス映画祭 グランプリ受賞

© 1985 NEPENTHE PRODUCTIONS INC AND PALMYRA LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

【2026/5/16(土)~22(金)上映】

15歳、夏の正体。

15歳の少女コニーは、家族との不和や思春期の揺れ動く感情に悩みながら、自分の魅力や存在を模索していた。ある日、彼女の前に現れた謎の男アーノルド・フレンドとの出会いが、無垢な日常を一変させる。甘い言葉と不気味な説得で、コニーの心は次第に追い詰められていく…。

ローラ・ダーン、衝撃の映画初主演作!

家族との摩擦や思春期特有の葛藤を抱えながら、女性としてのアイデンティティを模索している15歳の少女コニーを演じたのは、オスカー俳優ローラ・ダーン。本作で映画初主演となった彼女は、無垢と危うさの間で揺れる複雑さを見事に体現。そんな彼女の前に現れる謎めいた男アーノルド・フレンド。彼との出会いが、彼女の心と身体に深く関わる重大な転機となっていく。

監督を務めたのはドキュメンタリー出身の女性監督であるジョイス・チョプラ。劇映画デビュー作にもなった本作で、チョプラは女性監督として「少女の内面をどこまでリアルに、そして守りながら描けるか」という課題に真摯に取り組んだ。そのため、カメラはコニーを性的対象としてではなく、人間として見るように意識されている。また、セクシュアリティや誘惑が主題にありながらも、搾取的でなく共感的に描かれている。