【2026/7/4(土)~7/10(金)上映】『キラー・オブ・シープ』『マイ・ブラザーズ・ウェディング』『トゥ・スリープ・ウィズ・アンガー』『ウォーターメロンマン』

ぽっけ

チャールズ・バーネットの映画には劇的な出来事がほとんどない。子どもたちが遊び、大人は働き、食卓を囲み、誰かが歌う。夫婦は言葉少なく向き合い、人々は歩き、立ち止まり、また歩き出す。映画はその時間を急がせることも説明することもない。ただ人々がそこに生きているという事実を見つめ続ける。だからこそ、その映画はいつまでも忘れがたい。

バーネットは、UCLAから生まれた黒人映画運動「L.A. Rebellion」を代表する映画作家として知られる。ハリウッドが作り上げてきた黒人像とも、1970年代に大きな広がりを見せたブラックスプロイテーションとも異なる映画を目指した世代である。

今回あわせて上映するメルヴィン・ヴァン・ピーブルズ監督『ウォーターメロン・マン』は、その少し前に生まれた重要な作品だ。白人男性が一夜にして黒人へ変わってしまうという大胆な設定を通して、人種という問題を鋭く風刺し、アメリカ映画に新しい視点を持ち込んだ。口達者な主人公は、黒人の姿へと変わった途端、それまで見ようともしなかった差別や偏見を、堰を切ったように語り始める。その過剰さと滑稽さは、観客の笑いを誘うと同時に、アメリカ社会の矛盾を容赦なく照らし出す。

その先でバーネットが選んだのは、風刺でも寓話でもなく、日々繰り返される生活そのものだった。1977年に発表された『キラー・オブ・シープ』は、ロサンゼルス・ワッツ地区に暮らす一家の日常を描いた作品である。貧困や人種差別は、そこでは避けることのできない現実として存在している。しかし映画は、それらを物語の中心には置かない。一人ひとりの生活がまずあり、その積み重ねのなかから社会や歴史が静かに姿を現してくる。この視線は、いま振り返っても驚くほど鮮烈だ。

続く『マイ・ブラザーズ・ウェディング』では、視線は一人の青年ピアースへと近づいていく。両親のクリーニング店を手伝う彼は、弁護士として成功した兄の結婚を前に、幼なじみとの友情と家族への思いのあいだで揺れ動く。階級の変化や共同体の移り変わりはたしかに映画のなかにある。しかし、それ以上に心に残るのは、誰かとの関係を簡単には割り切れない人間の姿だ。共同体とは、人と人との結びつきから生まれるものなのだということを、この映画は静かに映し出している。

そして『トゥ・スリープ・ウィズ・アンガー』では、その共同体のさらに奥にある記憶へと映画は手を伸ばす。ロサンゼルスで暮らす一家のもとへ、南部時代の旧友ハリーが突然現れる。その存在をきっかけに、忘れられていた風習や信仰、語り継がれてきた記憶が、現在の日々へゆっくりと入り込んでくる。現実と神話が無理なく溶け合うこの作品は、バーネットの映画世界がもっとも豊かに実を結んだ一本と言えるだろう。

映画はしばしば歴史を描く。しかし歴史は、いつも誰かの日々の積み重ねから生まれる。バーネットは、そのあまりにも小さく見過ごされがちな時間に、映画の重心を置いた。だから彼の作品には、人物が社会の象徴としてではなく、一人の人間として息づいている。

公開から半世紀近くを経たいま、チャールズ・バーネットの映画はますます新しく映る。ケリー・ライカートをはじめ、多くの映画作家が彼への敬意を語っているのも、そのためだろう。ライカートの映画でも、人々は何かを成し遂げるためではなく、生きるために歩き、働き、待ち続ける。風景は背景ではなく、人とともに時間を生きている。物語より先に暮らしがあり、その積み重ねが少しずつ世界の輪郭を変えていく。人を何かの象徴としてではなく、その人が世界のなかで生きる時間として映すこと。バーネットが切り拓いたその眼差しは、いまなお多くの映画作家へ受け継がれ、私たちが映画を通して世界を見る、その見方を静かに更新し続けている。

キラー・オブ・シープ[4Kレストア版]
Killer of Sheep

チャールズ・バーネット監督作品/1977年/アメリカ/82分/DCP/スタンダード

■監督・脚本・製作・編集・撮影 チャールズ・バーネット
■音響 チャールズ・ブレイシー

■出演 ヘンリー・G・サンダース/ケイシー・ムーア/チャールズ・ブレイシー

■1981年ベルリン国際映画祭・国際批評家連盟(FIPRESCI)賞受賞/1982年ユタ/U.S.映画祭(現サンダンス映画祭) 最優秀賞受賞/1990年米国議会図書館「ナショナル・フィルム・レジストリ」選定/2002年全米映画批評家協会 編『The A List: 100 Essential Films』選出/2007年ニューヨーク映画批評家協会賞・特別賞受賞

©1977 Charles Burnett ©2025 Milestone Film & Video for KILLER OF SHEEP

【2026/7/4(土)~7/10(金)上映】

この苦く、すばらしき世界

家族を養うため屠殺場で働くスタンは、空虚な日々を送っている。貧困と疲労、希望の乏しい現実の中で、彼は次第に感情を閉ざし、妻は孤独を募らせていく。

メランコリーとユーモア、絶望と希望 ―― LAの片隅で暮らすアフリカ系アメリカ人労働者の日常を、詩的な映像美で映し出した奇跡のデビュー作

UCLA映画学科の修了課題としてほとんど素人のキャストで完成させたバーネット初の長編作品。音楽権利の問題から長らく公開が叶わず「幻の映画」とされていたが、完成から30年後の2007年についにアメリカで劇場公開が実現。2025年に完成した4K修復版では、ラストシーンを彩る楽曲がバーネットが当初望んでいたダイナ・ワシントン「Unforgettable」に差し替えられた。写実的なまなざしと、詩情豊かな映像美が融合した、アメリカ映画史に深く刻まれる傑作。

<チャールズ・バーネット Charles Burnett>

1944年4月13日、ミシシッピ州ヴィックスバーグ生まれ。幼少期に家族とともにロサンゼルスへ移り、サウス・セントラル地区のワッツで育つ。電気技師を目指してロサンゼルス・シティ・カレッジで学んだのち、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に編入。創作ライティングの授業をきっかけに映画制作を志す。大学院では映画制作(MFA)を専攻し、この時期にジュリー・ダッシュ、ハイレ・ゲリマらと協働。のちに批評家クライド・テイラーによって「L.A.リベリオン」と呼ばれるようになる、アフリカ系アメリカ人を中心とした若手映画監督グループの一員として活動した。

初長編作『キラー・オブ・シープ』(1977)は学生映画ながらベルリン国際映画祭フォーラム部門で国際批評家連盟賞を受賞。その後も『マイ・ブラザーズ・ウェディング』(1983)、『トゥ・スリープ・ウィズ・アンガー』(1990)、『The Glass Shield』(1994)などの長編を発表。短編やドキュメンタリー、テレビ映画も手がけながら、アフリカ系アメリカ人の生活と歴史を一貫して描き続けている。2017年には、長年の功績に対してアカデミー名誉賞を授与された。

現在は、ウォルター・ディーン・マイヤーズ『ニューヨーク145番通り』の映画化など、複数の企画に取り組んでいるほか、南北戦争の英雄であり、下院議員も務めた元奴隷ロバート・スモールズを描く映画の監督にも名を連ねている。また、『キラー・オブ・シープ』『マイ・ブラザーズ・ウェディング』をはじめ、後期作『The Annihilation of Fish』の4Kレストアも完了しており、アメリカ映画史における重要作家の一人として、いまも国際的な注目を集めている。

マイ・ブラザーズ・ウェディング[4Kレストア版]
My Brother’s Wedding

チャールズ・バーネット監督作品/1983年=2008年/82分(ディレクターズカット版)/アメリカ/DCP/スタンダード

■監督・脚本・撮影 チャールズ・バーネット
■製作 チャールズ・バーネット、ゲイ・シャノン・バーネット
■助監督 ジュリー・ダッシュ
■編集 チャールズ・バーネット、エド・サンティアゴ(2008年)

■出演 エヴァレット・サイラス/ジェシー・ホルムス/ゲイ・シャノン・バーネット/ロナルド・E・ベル/サイ・リチャードソン

©1983 Charles Burnett Productions ©2026 Milestone Films for MY BROTHER’S WEDDING

【2026/7/4(土)~7/10(金)上映】

いつも、どこにも、間に合わない

家業のクリーニング店を手伝いながら漫然と日々をやり過ごす、“大人になりきれない若者”ピアース。弁護士の兄が裕福な家庭の女性と婚約したことで、ピアースは居心地の悪さと劣等感を募らせる。同じ頃、刑務所から出所した親友ソルジャーと再会した彼は、家族への義務感と親友への忠誠心の板挟みになり、ある選択を迫られる。

家族、友情、アイデンティティのあいだで揺れる青年の葛藤を描いた、哀しみと可笑しみが交錯する悲喜劇

長編二作目となる本作では、黒人コミュニティ内の階級差や世代間の心理的な隔たり、社会的成功から取り残された若者たちの苛立ちが、日常の隙間から静かに浮かび上がる。ピアースの優柔不断で不器用なふるまいが、ときに可笑しみを、ときに哀しみを呼び起こす、バーネット流のトラジコメディ。

トゥ・スリープ・ウィズ・アンガー
To Sleep with Anger

チャールズ・バーネット監督作品/1990年/アメリカ/102分/Blu-ray/ビスタ

■監督・脚本 チャールズ・バーネット
■製作 カルデコット・チャブ/ダリン・スコット/ トーマス・S・バーンズ
■製作総指揮 エドワード・R・プレスマン/ダニー・グローヴァー/ ハリス・タルチン
■撮影 ウォルト・ロイド
■音楽 ステファン・ジェームス・テイラー

■出演 ダニー・グローヴァー/ポール・バトラー/メアリー・アリス/ボネッタ・マクギー/カール・ランブリー/ リチャード・ブルックス/シェリル・リー・ラルフ/エセル・アイラー

■1990年 サンダンス映画祭審査員特別賞受賞/1991年 全米映画批評家協会賞最優秀脚本賞受賞/1991年 インディペンデント・スピリット賞・最優秀監督賞・最優秀脚本賞・最優秀主演賞(男性)・最優秀助演賞(女性)受賞/2017年 アメリカ議会図書館「国立フィルム登録簿」登録

【2026/7/4(土)~7/10(金)上映】

ロサンゼルスのサウスセントラルで暮らすギデオンとスージー夫妻の元に、南部時代の古い友人ハリー・メンションが訪ねてくる。30年ぶりの再会に驚きながらも、2人は旧友を快く自宅に迎え入れる。陽気で人当たりの良いハリーはすぐに一家に溶け込み、とりわけ夫妻の 末息子ベイブ・ブラザーと親しくなる。そんななか、ギデオンが謎の病に倒れる。いっこうに立ち去る気配のないハリーは、次第に別の顔を見せ始める…。

バーネット監督の長編3作目で、90年代を代表するアメリカ映画のひとつ 『トゥ・スリープ・ウィズ・アンガー』。中流階級の黒人家庭を舞台にしたホームドラマであると同時に、ダークコメディ、マジックリアリズム、民俗学の要素を取り入れた重層的な作品で、インディペンデント・スピリット賞4部門を制した。

主演は『リーサル・ウェポン』シリーズのダニー・グロヴァーで、本作では製作総指揮も兼任。グローヴァーと共に製作総指揮に名を連ねるのは、『悪魔のシスター』『コナン・ザ・グレート 』『ウォール街』のエドワード・R・プレスマン。撮影は『セックスと嘘とビデオテープ』『KAFKA/迷宮の悪夢』のウォルト・ロイド。音楽はシンガーソングライターで『断絶』の主演でも知られるステファン・ジェームス・テイラー。

ウォーターメロンマン
Watermelon Man

メルヴィン・ヴァン・ピーブルズ監督作品/1970年/アメリカ/100分/Blu-ray/ビスタ

■監督 メルヴィン・ヴァン・ピーブルズ

■出演 ゴッドフリー・ケンブリッジ/エステル・パーソンズ/ハワード・ケイン

【2026/7/4(土)~7/10(金)上映】

ブラック・ムービーの金字塔『スウィート・スウィートバッグ』で名高いメルヴィン・ヴァン・ピーブルズ監督が、その前年に撮りあげた重要作。黒人差別主義者の白人がある日突然黒人になってしまうという現代の視点から見直す意義が極めて高い風刺コメディ。

(「70ー80年代アメリカに触れる! 名作映画鑑賞会 in 京都みなみ会館」HPより抜粋)